八牧浩行 2015年9月3日(木) 7時23分
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東証株価が急落、一時1万8000円を割り込んだ。中国景気の減速懸念を背景とした世界的連鎖株安の渦に巻き込まれた格好だが、安倍政権の経済政策アベノミクスの行き詰まりが拍車をかけた。 写真は日本銀行。
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2015年9月、「アベノミクス相場」といわれ上昇傾向をたどってきた東京証券市場の日経平均株価が低迷している。今年8月10日に終値ベースで2万808円を付けた後急落し、一時1万8000円を割り込んだ。中国景気の減速懸念を背景とした世界的連鎖株安の渦に巻き込まれたのが主因だが、安倍政権の経済政策であるアベノミクスの行き詰まりが拍車をかけた。
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アベノミクスは政策を総動員して株価を人為的に吊り上げてきたが、そのいずれも剥げ落ちつつある。
安倍政権が発足した2012年12月以来、東証株価が上昇したが、その特徴は“官制相場”の様相が濃かったこと。(1)積極的な公共投資、(2)日銀の異次元緩和と上場投資信託(ETF)買い入れ、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の株式購入比率拡大に伴う大量買い出動―などが相場上昇につながったためだ。
日銀が「バズーカ異次元金融緩和」に向けた国債買い入れと株価押し上げのための上場投資信託(ETF)買い入れに投じた資金は膨大である。日銀が実施している超金融緩和策は、(1)資金供給量を年間80兆円まで拡大。中長期国債の買い入れペースも年80兆円とし、平均残存期間も、年7〜10年程度に最大3年程度延長する、(2)上場投資信託(ETF)と不動産投資信託(REIT)の保有残高をこれまでの3倍に増やす―などというもの。
日銀によるETF買い入れは株式購入と同義語。日銀保有のETFは推定時価が8兆6000億円。2000年代前半の銀行保有株買い取りも含めると保有時価は10兆円を超える。日本株の2%弱を保有する計算で東証株価を押し上げる原動力となってきた。余力資金は3兆円といわれるが、日銀は買ったまま売らないため市場で流通する株が減少、価格形成が歪む恐れもある。一方で、日銀が将来「出口」戦略を余儀なくされ、売りに転じれば株価の下押し要因となってしまう。
現在の国債発行額は約800兆円で、このうち日銀の国債保有残高は既に200兆円以上に拡大。現行の金融緩和政策が続く限り、その残高は年間約80兆円のペースで増え続け、2017年末には約400兆円に達する。「出口」戦略として、利子を1〜2%とすると、日本銀行の利払い負担は年間4兆〜8兆円と未曾有の額に膨れ上がる。
日銀の経常利益は多い場合でも年間1兆円台後半なので、年間4兆〜8兆円の利払いをすれば赤字決算に陥り、日銀から政府(国・地方)へのキャッシュフロー(国庫納付金、法人税、住民税および事業税、払込出資金配当)が長期にわたってゼロとなる。同時に、日銀の自己資本が毀損してしまう。
◆年金基金活用にも制約
GPIFは世界最大の政府系ファンドで、総額約140兆円。国民の年金資金を原資とし、従来は国債中心に運用していたが、昨年10月末、運用ポートフォリオ(資産構成割合)の見直しを行った。国債の運用比率を下げ、国内株式の割合を全体の12%から25%まで拡大した。これにより新たに18兆円の東京株式市場への流入が可能となる。国家公務員共済などの共済基金も同様に株運用の比率を高め、政府系のゆうちょ銀行も株価を購入している。ところがGPIF運用資産の国内株比率は既にこの上限に近い水準に達している模様。
これら公的資金の買い余力は総計で十数兆円に達するといわれていたが、シンクタンクの試算によると既に底を突きつつある。元本が保証されない株式というリスクマネーは株価が急落した場合、“虎の子”の年金基金に穴を開け、最終的に国民にツケが回る。
米国でも、原油安やドル高の影響で景気減速懸念が浮上。米国株式市場で、リーマン・ショック後の2009年3月から続いてきた強気相場は変調をきたしている。中国景気の減速懸念により、アップルなど中国市場が占めるウエイトが大きい銘柄を中心に売られ、米株式相場の上値を重くしている。米連邦準備理事会(FRB)が9月にも利上げするとの見方が広がり、成長期待から買われていた新興企業が大きく売られている。
一方、円相場も1ドル=119円〜120円前後で推移。これ以上の円安は期待できない。国際通貨基金(IMF)は7月下旬に発表した対日年次報告の中で、「構造改革を伴わない追加的な量的緩和は、国内需要を委縮させるだけでなく、円安への過剰依存をもたらし兼ねない」とけん制した。
公共事業への財政支出も、13年度こそ補正予算を含め大幅な伸びとなったが、14年度は息切れし、マイナスに転じた。今年度も国地方を通じた財政余力の縮小や建設労働者需給のひっ迫などにより期待薄だ。
安倍首相は就任以来、金融の異次元緩和など「市場重視」の政策で株高・円安を演出し内閣支持率を下支えしてきた。実質賃金の下落から消費支出が低迷し、4〜6月期の国内総生産(GDP)は、3四半期ぶりにマイナスだった。同期の法人企業統計も、設備投資が事前予想よりも弱かった。さらに7〜9月期のGDPが2期連続でマイナスとなるとの見方が有力。消費者物価も下落に転じ、日銀のインフレ目標(2%)達成も絶望視。デフレ脱却は遠のくばかりだ。株安円高が続けば実体経済にもさらなる悪影響が出てくるのは避けられず、安倍政権の経済政策、アベノミクスは行き詰りつつある。(八牧浩行)
■筆者プロフィール:八牧浩行
1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。
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