<中国は今!>中国の女性ノーベル賞受賞者の研究、毛沢東が命じたベトナム戦争プロジェクトだった―ジャーナリスト・相馬勝

Record China    2015年11月7日(土) 14時40分

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中国共産党政権が誕生してから初めて、中国人学者がノーベル医学・生理学賞を受賞した。これまで文学賞や平和賞の受賞者は出ているが、中国人が自然科学分野のノーベル賞を受賞するのは初めてだ。さぞ歓迎ムードに包まれていると思っていたが、そうでもないらしい。

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今年もノーベル賞の受賞者が話題を呼んだが、中国共産党政権が誕生してから初めて、中国人学者の屠氏がノーベル医学・生理学賞を受賞した。これまで文学賞や平和賞の受賞者は出ているが、中国人が自然科学分野のノーベル賞を受賞するのは初めてだ。

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さぞ歓迎ムードに包まれていると思っていたが、そうでもないらしい。北京の知人は「逆に、戸惑っているし、迷惑だと思っている学者も多い」と言うではないか。

名の知れた中国人研究者はほとんどが大学院を卒業して博士の称号を持ち、海外留学経験もあり、中国の研究者の最高学術団体である中国科学院に所属しているが、屠氏はこの3つに該当せず、「3ない学者」という、いわば蔑称で呼ばれている。

それは屠氏が女性であることや、共産党の活動に積極的でなかったこと、あるいは性格的に気難しいことなども影響しているようだ。ある著名な学者は屠氏について「言い争う以外の方法で、屠先生と交流するのは困難」と端から話し合いを諦めているほどだ。

中国紙「新京報」によると、受賞の対象となった研究成果はマラリアに効果的な結晶成分を抽出したことで、マラリア病患者の命を多数救う結果になったことが評価された。しかし、あまり知られていないのは、それがベトナム戦争に出兵する中国軍兵士のラマリア感染を防ぐという軍事的な目的だったことであり、それを命じたのは毛沢東主席だったということだ。

屠氏はすでに85歳だが、その研究チームの責任者だったということで、屠氏がノーベル賞を受賞したらしい。この経緯について、このグループに加わっていた他の学者が複雑な思いを抱いていることも大きな理由であろう。

 

同紙によると、研究が始まったのはベトナム戦争当時の1967年5月。中国指導部は北ベトナム支援のため、ベトナム戦争に人民解放軍部隊を派遣していたが、ベトナム国境付近は奥深い密林でマラリアが猖獗。多数の中国軍兵士が命を落とした。

このため、毛沢東主席の指示で、軍と国家科学委員会が北京で薬剤耐性マラリア予防治療全国協作会議を招集、約60の機関から多数の研究者や医師が参加。屠氏はこの研究プロジェクトのひとつのグループの責任者に任命された。

このグループがマラリアに有効な成分を発見し、化学式C15H22O5という結晶体を抽出。薬品化に成功した。

 この研究成果を基礎にして、その後、各国でも優れたマラリアの特効薬が製造され、いまやマラリアは不治の病ではなくなった。

これが評価されて、屠氏の今回の受賞につながったのだが、多数の研究者が研究に携わったものの、当時の政治的な混乱が続いていた文化大革命だったこともあって、研究過程が精査されることもなく、チームリーダーだった屠氏の研究成果となった。同じチームのメンバーはいまも、これを認めず、屠氏が孤立する原因になっているという。

また、この研究が基礎になってできた薬は年間15億ドル(約285億円)に達しているが、屠氏らには一銭も入ってこない。なぜならば、「当時は文化大革命で、当時の中国人には特許を申請するという考えはもっていなかったからだ」と屠氏は同紙に語っている。

◆筆者プロフィール:相馬勝

1956年、青森県生まれ。東京外国語大学中国学科卒業。産経新聞外信部記者、次長、香港支局長、米ジョージワシントン大学東アジア研究所でフルブライト研究員、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員を経て、2010年6月末で産経新聞社を退社し現在ジャーナリスト。著書は「中国共産党に消された人々」(小学館刊=小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞作品)、「中国軍300万人次の戦争」(講談社)、「ハーバード大学で日本はこう教えられている」(新潮社刊)、「習近平の『反日計画』―中国『機密文書』に記された危険な野望」(小学館刊)など多数。

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