八牧浩行 2015年12月12日(土) 9時20分
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若宮啓文元朝日新聞主筆(写真左)が、今年の「石橋湛山賞」を受賞した『戦後70年 保守のアジア観』(朝日選書)をベースに、日本記者クラブで講演。43年前の日中国交正常化交渉で、尖閣諸島での石油掘削共同開発構想が持ち出されたことを明らかにした。
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2015年12月8日、若宮啓文元朝日新聞主筆が、今年の「石橋湛山賞」を受賞した『戦後70年 保守のアジア観』(朝日選書)をベースに、日本記者クラブで講演した。同書は、43年前の日中国交正常化交渉で両国共同による石油掘削開発構想が持ち出されたことを明らかにし、講演でも詳述した。講演要旨は次の通り。
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1972年9月に田中角栄首相(当時=以下同じ)が訪中。周恩来首相と首脳会談を行い、日中共同声明をまとめて国交正常化を果たした。この会談で田中首相が、中国が領有権を主張する尖閣諸島について考えを聞いたところ、周首相は「今は取り上げたくない」とさえぎった。
このやりとりは広く知られた話だが、当時、田中・周会談に同席した二階堂進官房長官が25年後、朝日新聞のインタビューで、「会談で田中首相は周首相に『尖閣周辺で石油の共同開発をしませんか』と持ちかけた」と新たな驚くべき証言をした。
取材を重ねると、この「共同開発発言」を裏付ける証言が次々と出てきた。
96年に私(若宮氏)が会見した江沢民国家主席は、「石油共同開発」を田中首相が持ちかけた話を紹介したところ、「それも一つの考えですね」と話した。
実は田中首相はそれ以前から「共同開発」を構想、「国交正常化の前に尖閣諸島周辺で中国と一緒に開発しよう」と言い出していたことを、両角良彦元通産事務次官が証言している(中央公論76年4月号・田原総一朗氏執筆記事)。この会談に先立つ72年7月末に北京を訪ねて周首相と会談した竹入義勝公明党委員長が「共同開発論」を直接聞いていた。「(尖閣諸島の領有権問題は)棚上げして、後の偉い人たちに任せましょう」「あの辺は石油が出るというものだから、ごちゃごちゃする。だから共同開発がいい」と言ったというのだ(2003年発行『記録と考証』)。日中双方が「共同開発構想」を持っていたことになる。
日中首脳会談でこの構想を話し合ったとみられるが、日本の外務省も中国側も「共同開発構想」を記録に残していない。(1)日本は実効支配しており、国内で親台派が根強く存在していた、(2)中国側も周恩来を牽制する江青ら急進派の「4人組」が健在だった―という双方の事情から、同構想が協議された事実を削除したのではないか。
日中関係は「尖閣国有化」を契機に深刻な状態に陥った。危機的状況は脱したものの、ぎくしゃくとした関係が続いている。ところが、田中首相と周首相は、領土問題という最も敏感な問題で、本音の話し合いをしていた。(八牧浩行)
■筆者プロフィール:八牧浩行
1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。
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