<東アジア新時代(1)>日本、「積極的経済外交」展開へ絶好のチャンス―日中韓FTAとTPPを繋ぎ「アジアの世紀」実現を

八牧浩行    2015年12月31日(木) 11時0分

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世界の成長センター、東アジアを中心に地政学的な地殻変動が起きている。激動する国際・経済情勢を読み解いた上で、この地域が志向すべき道を探る。資料写真。

世界の成長センター、東アジアを中心に地政学的な地殻変動が起きている。激動する国際・経済情勢を読み解いた上で、この地域が志向すべき道を探る。日本は日米同盟の強化や多くの国との「価値観外交」を展開しているが、近隣の中国と韓国とは微妙な関係が続く。一方で米国と中国は事実上「対立を対話で解決する関係」を維持・強化しようとしている。

国内総生産(GDP)を指標とする国力は、日本が兄貴分で中国や韓国を支援する時代は終わり、今や中国が日本の2倍以上の大国に発展、韓国も日本を追い上げる構図となった。日中韓3カ国の力関係が変貌した結果、各国のナショナリズムが歴史認識や領土が絡む問題の解決を困難にしている。

大規模な地殻変動の根幹となるのは「経済」である。韓国の対中接近も最大の貿易相手国である中国についた方が得とのリアリズムが背景。米国だけでなくドイツ、フランス、英国、東南アジア諸国なども世界最大の消費大国・中国のパワーを無視できない。中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)も12月末に57カ国が署名して正式に発足。南シナ海での領有権を巡り中国と係争中のフィリピンやベトナムも調印した。中国は世界最大の消費市場を“売物”に産業協力や輸入拡大をアピール、積極的な首脳外交を展開している。

「中国の海洋進出を念頭に防衛力を強化する」というフレーズが日本政府高官やメディアで多用される。日本の防衛費も安倍政権下で増加し、28年度予算案では5兆円を突破した。日中両国が軍事的に張り合うだけでは東アジアの緊迫化は高まる一方となる。

世界の成長センターである東アジアで経済の相互依存を深めることこそが軍事衝突を防ぐ最大の抑止力になる。2度の世界大戦の教訓から生まれた共通経済市場であるEU(欧州連合)諸国の間では、「戦争が起きると考えている国民はいない」(仏外交筋)という。

米中が冷戦時代の米ソのように鋭く対立しないのは両国間に経済相互依存が存在するためである。日本と中国との間にも国交正常化以来の緊密な相互経済関係がある。浙江省や上海市など経済発展が目覚ましい地方政府のトップを経験し、日本企業関係者との親交が深い習主席の本音は日本との共存共栄に持ち込むこと。「対日関係は改善すべきだ。日中の経済交流と民間交流を強化せよ」と発言している。

TPPRCEPを繋ぐ絶好のポジション生かせ

アジア太平洋の経済相互依存で、日本は絶好のポジションに位置する。大筋合意した米国主導の環太平洋経済連携協定(TPP)と中国、韓国、東南アジアが加わる東アジア地域包括的経済連携(RCEP)をともに推進し結合させればこの地域の繁栄と安全に繋げられる。日本が経済の相互依存よりも単純な軍事的安保優先に傾斜すれば、世界の成長センター、アジア太平洋の繁栄を損ない、アベノミクスの足を引っ張ることにもなる。

日本の経済界は日中韓FTA(自由貿易協定)交渉の進展を待望しているが、中韓は両国FTAを抜け駆け的に発足させてしまった。日本の経済界は「中国市場を韓国に席巻されてしまう」と焦っている。中韓との関係改善を最優先にするべきであろう。

カート・トン米首席国務次官補代理(経済担当)は「中国はTPP(環太平洋連携協定)への加入を前向きに検討しており、我々も意を強くしている」と指摘、中国のTPP加盟を歓迎する方針を示した。その上で、中国とは2国間投資協定交渉を進めており、締結されれば、「米中経済関係は透明性や予見可能性などが向上しさらに発展する」と強調している。

中国はアジアインフラ投資銀行(AIIB)構想を、巧妙な形で打ち出してきた。経済大国として資金を出す一方で、第三世界のリーダーとして、既存の国際秩序の変更を迫るという、2つの矛盾したものを解決する手段が内包されている。

◆アジアのベストシナリオは?

北朝鮮による核・弾道ミサイル開発や、中国の海洋(東シナ海・南シナ海など)での行動に対しては、「日米同盟」、「中国との互恵関係の重視」、「アジア諸国との連携」の3本柱を中心にバランスよく展開していくことが現実的であろう。日本は政治と軍事では米国と連携し、経済では中国と戦略的な互恵関係を深めるという複数の軸足をもつことを確認する必要がある。

アジアの将来シナリオとしては、ベストな「アジアの世紀」、ワーストな「アジアの破局」というシナリオが考えられる。日本・中国・韓国は、最悪の「アジアの破局」のシナリオを避け、「アジアの世紀」を実現させることがすべての関係諸国にとって最大の利益をもたらすという確固たる認識を持つべきだ。日本・中国・韓国は朝鮮半島の安定化をめざして、平和裏に経済成長・発展を図る必要がある。

安倍首相と中国の李克強首相、韓国の朴槿恵大統領が15年11月に3年半ぶりの日中韓首脳会談をソウルで開催。16年の日中韓首脳会談を日本で開き、再び定例化することで合意した。ようやく関係打開に向けた首脳レベルの具体的協議がスタートする。(八牧浩行

<続く>

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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