「アベノミクス相場」頭打ち、日銀資金・年金基金による「株買い出動」は限界?―日銀の「窮余の策」も混乱に拍車

八牧浩行    2015年12月26日(土) 6時20分

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「アベノミクス相場」といわれ上昇傾向をたどってきた東京証券市場の日経平均株価が頭打ちとなっている。今年8月中旬に終値で2万808円を付けた後は反落基調が続き、25日の終値は5日続落の1万8769円。アベノミクスが壁にぶち当たった格好だ。写真は東証。

2015年12月、「アベノミクス相場」といわれ上昇傾向をたどってきた東京証券市場の日経平均株価が頭打ちとなっている。今年8月10日に終値ベースで2万808円を付けた後は反落基調となった。25日の終値は5日続落の1万8769円。石油価格下落や中国景気の減速懸念を背景とした世界的株安の渦に巻き込まれたのが主因だが、安倍政権の経済政策であるアベノミクスの行き詰まりが拍車をかけ、12月に日銀が打ち出した「金融緩和補完措置」も市場の混乱につながった。

アベノミクスは政策を総動員して株価を人為的に吊り上げ、円安に誘導してきたが、そのいずれも剥げ落ちつつある。

安倍政権が発足した2012年12月以来、東証株価が上昇したが、その特徴は“官製相場”の様相が濃かったこと。(1)積極的な公共投資、(2)日銀の異次元緩和と上場投資信託(ETF)買い入れ、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の株式購入比率拡大に伴う大量買い出動―などが相場上昇につながったためだ。

日銀が「バズーカ異次元金融緩和」に向けた国債買い入れと株価押し上げのためETF買い入れに投じた資金は膨大である。日銀が実施している超金融緩和策は、(1)資金供給量を年間80兆円まで拡大。中長期国債の買い入れペースも年80兆円とし、平均残存期間も、年7〜10年程度に最大3年程度延長する、(2)上場投資信託(ETF)と不動産投資信託(REIT)の保有残高をこれまでの3倍に増やす―などというもの。

日銀によるETF買い入れは株式購入と同義語。日銀保有のETFは推定時価が8兆6000億円。2000年代前半の銀行保有株買い取りも含めると保有時価は10兆円を超える。日本株の2%弱を保有する計算で東証株価を押し上げる原動力となってきた。余力資金は3兆円といわれるが、日銀は買ったまま売らないため市場で流通する株が減少、価格形成が歪む恐れもある。一方で、日銀が将来「出口」戦略を余儀なくされ、売りに転じれば株価の下押し要因となってしまう。

こうした中、日銀が12月18日に決定した「金融緩和補完措置」はETFを買い入れる枠を年3000億円新設するもの。発表直後には日銀のETF買いが加速するとの見方から買われたが、この措置への分析が進むにつれて失速。日銀がかつて買い入れた株式の売却に伴う市場への悪影響を吸収するのが主目的で、いわば「窮余の策」との認識が浸透すると、大量の失望売りに見舞われた。相場の混乱が投資家心理を急速に冷やした格好だ。

◆年金基金活用にも制約

GPIFは世界最大の政府系ファンドで、総額約140兆円。国民の年金資金を原資とし、従来は国債中心に運用していたが、昨年10月末、運用ポートフォリオ(資産構成割合)を変更。国債の運用比率を下げ、国内株式の割合を全体の12%から25%まで拡大した。これにより新たに18兆円の東京株式市場への流入が可能となった。国家公務員共済などの共済基金も同様に株運用の比率を高め、政府系のゆうちょ銀行も株価を購入した。ところがGPIF運用資産の国内株比率は既にこの上限に近い水準に達している模様。

これら公的資金の買い余力は総計で十数兆円に達するといわれていたが、シンクタンクの試算によると既に底を突きつつある。元本が保証されない株式というリスクマネーは株価が急落した場合、“虎の子”の年金基金に穴を開け、最終的に国民にツケが回る。実際、年金基金は今夏以降の株価下落で7兆円余りの損失が出たとされる。

米国でも、原油安やドル高の影響で景気減速懸念が浮上。米国株式市場で、リーマン・ショック後の2009年3月から続いてきた強気相場は影をひそめた。米連邦準備理事会(FRB)の利上げが追い打ちをかけた。

一方、円相場も1ドル=120円前後で推移。これ以上の円安は期待できそうもない。国際通貨基金(IMF)は7月下旬に発表した対日年次報告の中で、「構造改革を伴わない追加的な量的緩和は、国内需要を委縮させるだけでなく、円安への過剰依存をもたらし兼ねない」とけん制した。

公共事業への財政支出も、14年度は息切れし、マイナスに転じた。今年度も国地方を通じた財政余力の縮小や建設労働者需給のひっ迫などにより期待薄だ。

安倍首相は就任以来、金融の異次元緩和など「市場重視」の政策で株高・円安を演出し内閣支持率を下支えしてきた。実質賃金の下落から消費支出が低迷し、4〜6月期の国内総生産(GDP)は、3四半期ぶりのマイナス。速報値でマイナスだった7〜9月期のGDPは確定値で小幅なプラスに転じたものの、11月の家計調査で実質消費支出が低迷。日銀の期限までのインフレ目標(2%)達成も絶望視され、デフレ脱却は遠のくばかりだ。株安円高が続けば実体経済にもさらなる悪影響が出てくるのは避けられず、安倍政権の経済政策、アベノミクスは壁にぶち当たったと見る向きが多い。(八牧浩行

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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