八牧浩行 2016年1月8日(金) 8時30分
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台湾の総統選挙が1月16日に行われる。同日に行われる立法院選挙でも、民進党は史上初の単独過半数を制する勢いという。写真は民進党本部。
4年に一度行われる台湾の総統選挙が1月16日に行われる。各種世論調査によると、民進党主席の蔡英文氏の勝利が確実。同日に行われる立法院選挙でも、民進党は史上初の単独過半数を制する勢いという。「歴史的会談」と話題になった昨年11月の馬英九総統と習近平国家主席の中台トップ会談も、民進党有利、国民党劣勢の選挙情勢には、ほとんど影響を与えておらず、民進党の勝ちっぷりに関心が集まっている。
各種世論調査で、蔡英文氏の支持率は終始40%以上を維持し、20%ほどで頭打ちする国民党の朱立倫主席を大きく引き離している。第3の候補で政見が国民党に近い親民党の党首・宋楚瑜氏の支持率が伸びており、国民党が分裂して民進党の陳水扁氏に敗北した2000年の総統選挙と同様の図式になっている。蔡英文氏の得票率は、史上最高得票率だった、08年の馬英九氏の58%を超えるとの予想もある。
元来民進党の総統選における支持率は、40〜45%程度。国民党の固い地盤を突き崩すには、現職かつ再選を目指していた陳水扁総統が2004年3月、遊説中に銃撃された事件のような「フォローの風」が必要だったが、今回はその必要はなさそうだ。
◆中国への過度の依存に警戒?
現政権に致命的な落ち度があったわけではなく、地味なキャラクターの蔡英文氏は、2008年当時の馬英九氏のようなカリスマ性があるわけでもない。にもかかわらず民進党がここまで有利に戦いを進めているのはいかなる理由なのか。
まず馬英九政権が経済政策で「成長率6%以上、失業率3%以下」などの公約を達成できず、住民の生活を著しく向上させられなかったことが挙げられる。自らを「台湾人」と考える人々の台湾アイデンティティーや中国への過度の依存を恐れる心理、14年のヒマワリ運動による政治意識の変化などが影響していると見る向きが多い。さらに、国民党が総統候補者選びで党内の分裂をさらけ出したことだ。
国民党はすったもんだの末、女性の洪秀柱・立法院副院長をいったん候補としたが、同氏が中国問題などで従来の国民党の路線を逸脱する「中国寄り」と受け取られる発言を連発すると、国民党主席の朱立倫氏は「洪おろし」を仕掛けて自らが候補に取って代わった。しかし、そのタイミングが選挙戦の最終盤の10月に入っていたほか、朱氏が選んだ副総統候補のスキャンダルが問題視されたこともあって、劣勢の挽回には程遠い状況だ。
民進党が政権を奪取した場合、中台の交流はやや停滞する可能性があるものの、台湾海峡が緊張した2000〜08年の陳水扁・民進党政権の時代に逆戻りすることはないとみられる。米国が「台湾独立」をけん制していることもあって、「民進党が勝っても、独立に向かうことはない。むしろ大陸に接近していく可能性も考えられる」との声も多い。実際、蔡氏も「現状維持」を掲げ、馬政権の対中融和路線を引き継いで現実的な対応をしていく考えを示している。
経済的に大陸に大きく依存している点も重要な要素となる。15年1〜9月の台湾と中国(香港・マカオ含まず)の貿易総額は866億ドルで台湾の貿易総額の22%を占め、台湾にとって中国は最大の貿易相手だ。米フォーブス誌によると、輸出に占める対中依存度が高い国・地域は、オーストラリア(34%)、台湾(26%)、韓国(25%)、チリ(23%)、日本(19%)の順。同時期に、中国から台湾を訪問した観光客は311万人で、外国人旅行者の41%を占めている。
蔡氏はかつて民進党政権を率いた陳氏に比べ理性的と見られている。新年早々テレビ討論会に出席した蔡氏は最大の争点である中台関係について、「リスク管理の思考を持ちつつ、両岸(中台)の経済貿易の交流を続けたい」と語っていた。
◆陳水扁・民進党政権時と異なる?
蔡氏は15年6月、米戦略国際問題研究所(CCIS)の講演で 「多くのアジアの国々がいまだ独裁主義に苦しむなか、台湾にいる私たちは民主主義を大変誇りに思うと同時に、これまで勝ち取ってきた社会的・政治的な権利と個人の自由を大事に持ち続けるつもりだ」と強調した。その上で、「中国と建設的な対話を推進する一方、そのプロセスは民主的で透明なものであると確約する。経済的恩恵は公平に共有される」と指摘した。
メルケル独首相と比較されることもある蔡氏は、同首相について「その強さは多数の中で際立つカリスマ性ではない。彼女の思考や決意が、政治を行う者の資質として我々に必要である」と語っている。
総統選は台湾住民が1990年代以降の民主化で勝ち取った権利である。中華圏で戦後初の女性指導者が誕生することになろうが、台湾総統選結果は東アジア情勢や中国の対外政策に影響するだけに、大いに注目すべきだろう。(八牧浩行)
<続く>
■筆者プロフィール:八牧浩行
1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。
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