八牧浩行 2016年6月18日(土) 14時50分
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朝日新聞台北支局長などを務め台湾に詳しいジャーナリスト・野嶋剛氏(朝日新聞元台北支局長)がインタビューに応じた。若者を中心に「台湾アイデンティティ」が確立され、「1国2制度」や「平和的統一」を受け入れない時代となっていると指摘。
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朝日新聞台北支局長などを務め台湾に詳しいジャーナリスト・野嶋剛氏(朝日新聞元台北支局長)がインタビューに応じた。若者を中心に「台湾アイデンティティ」が確立され、「1国2制度」や「平和的統一」を受け入れない時代となっていると指摘。その背景に(1)生まれたときに民主化が既に実現し、自由な選挙が行われており、中華民族としてのアイデンティティが断ち切られた形で、台湾人であり中国人ではないと考えるようになった、(2)中国で改革開放が進み、豊かになれば思想も変わると考えてきたが、習近平体制になってますます民主社会と離れていくと認識されるようになった―などの点を挙げた。(聞き手・Record China八牧浩行)
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――中国は「平和的統一」と「1国2制度」について言及していますね。中国は以前、武力で取り戻そうとしたことがあったが、今は「1国2制度」=現状維持を志向しているように見えます。台湾には「天然独」という「根っからの台湾人」だと思う若者が増えているようですね。
台湾の人たちが中国大陸を祖国と思ったり、中華民族としてつながっていると思ったりしている間は、平和的統一とか1国2制度とかはまだ構想として現実味がありましたが、今の台湾人は自分たちのことを中国や中国人と認識していないので、1国2制度などそもそも興味を持ってもらえない時代となりました。なぜそうなったかと言うと、一つには、もう生まれたときに民主化が既に実現し、自由な選挙が行われ、メディア上で皆が言いたいことを言っていた。しかも中国とほとんど往来がない。そうなると中華民族としてのアイデンティティは断ち切られた形で、台湾人であり中国人ではないと考えるようになった。しかも中華民国体制のまま独自の選挙を行って指導者を選ぶようになった。つまり「台湾化した中華民国」の中で生きているので、中国とのつながりを持ちえない。独立を敢えて宣言しようとは思わないほど、自然に事実上の独立を経験してきた人たちが育ってきており、彼らは「天然独」と呼ばれていて、台湾社会で無視できない勢力となってきました。
もう一つは、改革開放が進めば中国はいい国になる、豊かになれば思想も変わり、少しずつ我々と近い国になっていくという前提で、日中関係も中台関係も考えられてきた。ところが習近平体制になって近づくどころかどんどんその方向から離れていくように見える。となると対中認識でも、中国との距離感が徐々に広がっていきました。
自己認識と対中認識の2つの変化を背景に、今の台湾は成り立っています。そうした傾向が表面化した起爆点として浮かび上がったのは14年の「ひまわり運動」であり、今回の選挙結果でもそのことが如実に表れました。
――中国が経済中心に国力を増す中で、ホンハイや食品メーカーなど台湾の大手企業が大陸で商売していますね。失業率、経済観光の問題などもあり、微妙な面があるのでは?
経済的な中国の台頭があって、うまく中国と付き合いながら台湾の主体性の維持とどう両立させるかの問題はあるが、台湾をずっと見てきた私の感想で言うと、「お金で人の心は買えない」というのが基本にあると思う。主体性か中国との経済的付き合いかどちらかを最後に選べと言われれば、台湾の人たちは主体性を選びます。ただあえてケンカしたいとも思わない。なるべくなら中台関係が良好のままで、中国と存分ビジネスをしてお金を稼ぎたいという考えは台湾の人たちには当然あると思う。
そのなかで、出した答えの一つが、蔡英文が提案した「現状維持」だと思います。馬英九の「現状維持」とどう違うかというのは難しい問題であり、頭を悩ますところですが、馬英九は「いつか中国と一緒になることも排除しない形での現状維持」であり、蔡英文は「中国とはいつか離れることも視野にいれた現状維持」と言えるでしょう。表面上言っていることはほぼ同じだが、人々が感じているニュアンスは大分違う。それが第三者として私が観察した印象です。
<インタビュー「台湾とは何か」著者・野嶋剛(3/3)>蔡英文は実務能力抜群、RCEP・TPPなど多国間協定加盟目指す―習政権の強硬姿勢、アジアが警戒」に続く
野嶋剛
1968年生れ。ジャーナリスト。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学に留学。92年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学、西部社会部を経て、シンガポール支局長や台北支局長として中国や台湾、アジア関連の報道に携わる。2016年4月からフリーに。著書に「イラク戦争従軍記」(朝日新聞社)、「ふたつの故宮博物院」(新潮選書)、「謎の名画・清明上河図」(勉誠出版)、「銀輪の巨人ジャイアント」(東洋経済新報社)、「ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち」(講談社)、「認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾」(明石書店)、訳書に「チャイニーズ・ライフ」(明石書店)。最新刊に「台湾とは何か」(ちくま新書)と「故宮物語」(勉誠出版)。著書の多くが中国・台湾でも翻訳・刊行されており、現地でも高い評価を受けている。
■筆者プロフィール:八牧浩行
1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。
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