Record China 2008年3月1日(土) 9時17分
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コラム「このごろチャイナ・『アート&A』」は最近の中華圏における「アートそしてアーキオロジー(考古学)」に関する動きを、レコードチャイナの写真ニュースを軸にして不定期配信で紹介する。今回は歴史ロマンを刺激する沈没船「南海1号」。写真は引き揚げの様子。
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2008年02月、旧正月休み(6〜10日)に宋代の沈没船「南海1号」を目当てに2万5800人という多くの観光客が中国広東省の海陵島を訪れた。冬のオフシーズンとしては新記録を樹立する勢いだったという。昨年末行われたこの沈没船引き揚げの背景には、世界的な海洋トレジャーハンターの影もちらついており、歴史ロマンの愛好家から考古学、美術ファンまで幅広い関心を集めている。
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■未公開でも観光客が殺到!10兆円以上、兵馬俑に匹敵する価値も
島内の海上シルクロード博物館に搬送された「南海1号」はその収容先である展示研究施設「水晶宮」が工事中で、一般公開はされていない。にもかかわらずこれだけの観光客をこの地に集めたのは、同船に残されている磁器など貴重な文物数千点の価値が金額にして10兆円以上、「兵馬俑に匹敵する」とまで伝えられたからだ。
兵馬俑は、世界遺産にも指定された秦の始皇帝の墓を守る土器製の軍隊(英語でterracotta armyと聞くと分かりやすいかも)。歴史的には「焚書坑儒」という学問弾圧ばかりが強調され暴君のイメージが強かった始皇帝が、1970年代に発見された兵馬俑の素晴らしさから、美術史的にそのスポンサー(生前から作成が始まっていたとされるため)として高い評価も獲得したほど。現在も陵墓の全容は判明しておらず発掘作業が進む一方で、観光客向けの公開を行ない、内外の世界遺産・考古学ファンには周知の存在だ。
歴史的なコンテクストは異なり、「南海1号」は広東省で発見され昨年末陸揚げされた約800年前の貿易船。磁器を中心に、金器、銀器、漆器、銅銭、動物の骨、果実など大量の宝物が船内から見つかり、その数は合計4500点。状態が良い物だけでも2000点を超えるという規模の大きさから、こちらは8000体ともいわれる兵馬俑との比較が行われたのだろう。
■海洋トレジャーハンターは英雄じゃない?
一方で、今回の「南海1号」引き揚げ成功から、世界を股に活躍する海洋トレジャーハンターから国家の財宝を守るため立ち上がった中国の姿が浮かんでくる。
「世界で最も有能な海洋探検家」とされるトレジャーハンター、マイケル・ハッチャー氏は、ある時偶然に中国明代(1368〜1644年)の沈没船を引き揚げ大もうけしたのをきっかけに18世紀のオランダ商船「ヘルダーマンセン号」(1984年)、清代(1644年〜1912年)の沈没船「テクシン号」(99年)と相次いで引き揚げに成功し巨額の収入を手にした。
一般の日本人からみると、海の冒険王のように格好良くも映るが、中国の考古学会などでは当時、「海洋法や中国の法律ではこれを阻止できず、また資金もなく、次々とオークションで競り落とされる陶器類を無念の思いを抱きながら横目で見るほかなかった」という相手のようだ。確かに、「100万点以上引き揚げられた貴重な中国製磁器の中から、希少価値を高めるため36万5000点だけを除いて残りをすべて廃棄、オークションで3000万ドルもの収入を得た」というハッチャー氏の逸話を聞くと、中国に同情したくなってくる。
陸上の王侯貴族の陵墓などはエジプトのピラミッドをはじめ世界各地で盗掘の被害にあって学問的に貴重な資料がほとんど伝わっていない状況だ。考えようによっては沈没船のサルベージも、自分勝手な利益だけを追求していてはそうした盗掘と同工異曲とみられてもやむを得ない。
■国宝級の美術・骨董品の逆流現象も
一方で、中国では、「政府が沈没船引き揚げ事業に手をつけなければ損失はさらに広がる」というやむに止まれぬ感情が盛り上がった。折からの経済急成長が資金面でこれを後押し、今回の「南海1号」の引き揚げ成功につながったわけだ。
余談だが、近年の中国ではその経済力を背景に海外に流出した歴史的・芸術的作品の国内への買い戻しの機運が盛り上がり、実際に海外のオークションなどでも大きな動きがある。富裕層が個人で美術品を買い漁る動きとあいまって欧米市場などでは中国系美術品の価格高騰を招いている。
中国には海外に流出した国宝を取り戻すことを目的とした「基金」がある。07年12月中国新聞ネットが伝えたところによると、ある華僑は自身のコレクションである中国五代から宋代に作られた釈迦牟尼仏を奉った国宝級の「五重舎利塔」を祖国に寄付した。塔は、石、鉄、銅、銀、金の5種類で作られ、塔の外には四尊天王の彫刻が立っている。装飾は非常に豪華で、芸術面だけでなく歴史的、宗教的にもかなり貴重なものと伝えられていた。
筆者が香港に駐在していた1990年代初め、中国には資金もなく、89年の天安門事件の影響で海外に脱出しようとする人たちが国宝級の美術・骨董品を持ち出そうとする流出が盛んだったが、時代は大きく変化し、いまは逆流現象が起きているわけだ。
さらに、その副産物とも言えないのかもしれないが、そうした美術品の中国製とみられる模造品(フェイク)が質・量ともに拡大しており、世界の美術・骨董品センターのひとつロンドン辺りでは「もう鑑定するのは困難だから手を出さないことだ」という専門家の悲鳴も聞かれるほどだ。
「南海1号」に積載されていた磁器は一部漢代の品も含まれているが、その多くは景徳鎮など南宋時代に生産され未使用のまま船積みされたとみられる。あくまで貿易船に詰まれたレベルの品々なので当時の宮廷で使用されるような特上品とまではいかないかもしれないが、そうは言っても状態が良ければ、かなりのお宝の山には間違いなかろう。
2月1日には、北京市の国家博物館水中考古センターで、発見された文物の一部がすでに公開され、5月には故宮博物院で、これらの貴重な文物のうち約100点が公開される予定もある。運良く北京に行かれる向きには8月の北京オリンピックの喧騒の前に、ぜひご覧になるとよいのではなかろうか。
中国当局はまた、明の万暦帝時代(1573〜1620年)に沈没した船を「南海2号」と名づけ、その引き揚げを計画しているという。船体はほぼ原型を保ち、船内には数万点の文物が残されている可能性が高いとのことで、さらにお宝が続々と登場してくるとすればとても楽しみだ。(Kinta)
■プロフィール Kinta:大学で「中国」を専攻。1990年代、通信社記者として香港に4年間駐在。2006年、アジアアートに関する大英博物館とロンドン大学のコラボによるpostgraduateコース(1年間)を修了。
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