<羅針盤>タクシー運転手が泣いて訴えたこと?―立石信雄オムロン元会長

立石信雄    2017年3月12日(日) 9時50分

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先日、都内でタクシーを利用した時のこと。初老の運転手さんが、たどたどしい東北訛りの標準語で話そうとするので、「無理して東京語を話すことはないですよ。お国の言葉が一番いい」と呼び掛けたら、とつとつと話し始めた。

先日、都内でタクシーを利用した時のこと。初老の運転手さんが、たどたどしい東北訛りの標準語で話そうとするので、「無理して東京語を話すことはないですよ。お国の言葉が一番いい」と呼び掛けたら、とつとつと話し始めた。

秋田から出て来たばかり。免許があったので東京でのタクシー会社に就職し、運転手を始めた。会社の研修で指示されたのは、標準語を話すこと。練習をしたものの、滑らかには話せない。秋田訛り交じりで話すと「聞き取れない」と怒る客もいる。無理することはないよと話しかけてくれたのはお客さんが初めて…。そして泣き出した。余程辛かったのだろう。私もタクシ―で運転手さんから泣き出されたのは初めてである。

東日本大震災から6年経った。未曽有の悲劇を乗り越え、復興に向けたインフラ整備が進んでいるのは心強い。ただ心配なのは、福島第一原発事故に直面した多くの人たちが6年にもわたる避難生活を送っており、福島県外で避難者であることを理由とした「偏見」や「いじめ」が存在することだ。「福島の子だから」とか「放射能がうつるから」とか…。環境の大きな変化もあって「不登校」になったり、「心の病」になったりする子どもも多いと聞く。大人も「補償金をもらっているだろ」といった心無い言葉を浴びせられて傷つくことも多いという。

死者・行方不明者が1万8500人に上った震災直後、この戦後最大の危機を乗り越えようという連帯感が日本全国に広がり、多くの自治体が避難者を受け入れた。団結してまとまろうとする合言葉が「がんばろう、日本」だった。日本は安定した社会と絆の強さで定評がある。しかし一皮むけば閉塞的な集団意識が存在し、よそ者や弱者へのいじめにつながるのではないか。多様性や地域性を重んずる社会をつくるために地道な努力が求められる。

冒頭に紹介したタクシー運転手のように、地方出身者が「標準語」で話すことを強いられ、「閉鎖性」「集団主義」に翻弄されるようなことがあってはならないと思う。

立石信雄(たていし・のぶお) 1936年大阪府生まれ。1959年同志社大学卒業後、立石電機販売に入社。1962年米国コロンビア大学大学院に留学。1965年立石電機(現オムロン株式会社)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。 日本経団連・国際労働委員会委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC)会長、財務省・財政制度等審議会委員等歴任。

北京大学日本研究センター顧問、南開大学(天津)顧問教授、中山大学(広州)華南大学日本研究所顧問、上海交通大学顧問教授、復旦大学顧問教授。中国の20以上の国家重点大学で講演している。

■筆者プロフィール:立石信雄

1959年立石電機販売に入社。1965年立石電機(現オムロン株式会社)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。 日本経団連・国際労働委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC)会長など歴任。「マネジメントのノーベル賞」といわれるSAM(Society for Advancement of Management)『The Taylor Key Award』受賞。同志社大名誉文化博士。中国・北京大、南開大、上海交通大、復旦大などの顧問教授や顧問を務めている。SAM(日本経営近代化協会)名誉会長。公益財団法人・藤原歌劇団・日本オペラ振興会常務理事。エッセイスト。

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