金正男氏殺害の舞台マレーシア、北朝鮮の非合法活動の拠点だった=制裁の抜け穴に―国連北朝鮮制裁委元専門家パネルメンバー

八牧浩行    2017年3月25日(土) 5時20分

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国連・北朝鮮制裁委員会元専門家パネルメンバーの古川勝久氏が、日本記者クラブで会見。北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の実兄である金正男氏が殺害された事件が起きたマレーシアこそが「北朝鮮の非合法活動の主要拠点」だったとし、北朝鮮制裁の抜け穴になったと指摘した。

2017年3月16日国連安保理・北朝鮮制裁委員会元専門家パネルメンバーの古川勝久氏が、日本記者クラブで会見した。北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の実兄である金正男氏が殺害された事件が起きたマレーシアこそが「北朝鮮の非合法活動の主要拠点」だったとし、北朝鮮制裁の抜け穴になったと指摘。北朝鮮がマレーシアとの多くのジョイント・ベンチャー・ビジネスを通じて、さまざまな国連制裁違反を行っていた可能性がある、と明らかにした。

今年2月13日の金正男氏殺害事件まで、北朝鮮とマレーシアは国交を結ぶなど親密な関係だったが、事件後、報復措置の応酬をエスカレートさせている。

古川氏は同専門家パネルのメンバーとして昨年まで4年半務め、北朝鮮に対する制裁を国連加盟国が履行しているかに関する報告書作成に携わった。

古川氏の発言要旨は次の通り。

昨年まで私が所属した国連安保理・北朝鮮制裁委員会・専門家パネルが、2月27日、最新版の年次報告書を公表した。たび重なる制裁にもかかわらず、なぜ北朝鮮が核・ミサイル、通常兵器の密輸やマネーロンダリングのネットワークを世界各地に張り巡らせたのか、その実態が明らかにされている。金正男殺害事件の舞台となったマレーシアこそ、北朝鮮の非合法活動の主要拠点だった。

金正男氏殺害事件の容疑者として逮捕されていたリ・ジョン・チョル氏の法律上の雇用主であったチョン・チン・チー氏は、マレーシアにあるトンボ・エンタープライズ社の社長である。マレーシア警察によると、チョン氏は「リ氏には同社での勤務実態がなく、彼の就労許可証の取得を支援するために会社の名義を貸していただけ」と説明している。また、チョン氏はメディアのインタビューに対して、約10人の北朝鮮人の就労許可証取得にも協力してきたと語っている。

マレーシア警察は、金正男氏殺害事件への関与を裏付ける十分な証拠が得られなかったとして、リ氏を釈放した。その後、同氏の労働許可証の期限が切れていたため、マレーシア不法滞在を理由に国外退去処分とした。

リ氏はクアラルンプール市内で、比較的高級なアパートに暮らしていた。リ氏はマレーシア国内でどのような活動を行っていたのか? 本当はトンボ社で何らかの雇用実態があったのではないか? トンボ社のパートナーである香港企業のグローバル・ネットワークを、北朝鮮のために悪用していなかったのか? また、チョン氏が支援したとされる「10人の北朝鮮人」とは、いったい何者で、どこでどのような活動を行っているのか? すべてが闇のままである。

朝鮮中央通信に引用された海外企業には、国連制裁違反事件に関与した企業や関与が疑われる企業が多く存在する。特にマレーシア国内にはそのような企業が多い。例えば、マレーシアと北朝鮮のジョイント・ベンチャー企業であるMKPグループは、朝鮮中央通信に頻繁に紹介されてきた。国連安保理・北朝鮮制裁委員会・専門家パネルは、2017年度の最終報告書で、同社の子会社銀行の活動が、国連安保理決議で禁じられた活動を行っている容疑で捜査中、と報告している。

安保理決議では、北朝鮮の銀行との取引関係の維持が禁じられており、北朝鮮に所在する子会社や銀行口座の閉鎖も義務づけられているが、MKPグループの銀行がこれら制裁措置違反の可能性が考えられている。また、MKPグループの主要事業の一つに、アフリカなどでの銅像などのモニュメントの建造も含まれ、安保理決議で禁止されている「銅像の輸出」が行われている可能性も、同報告書で示唆されている。

MKPグループのもう一つの主要事業として、船舶建造がある。同社のホームページで紹介されている「船舶」の中には、海軍の艦船らしき船が紹介されている。もしこれらが海軍向け艦船であれば、北朝鮮との「兵器及び関連物資」の取引を禁じた国連制裁にも違反していることとなる。

さらに、MKPグループは建設事業も柱としており、そこでは日本企業の建設作業車両の使用を宣伝している。もしこれらの車両が日本から迂回輸出されて、北朝鮮のジョイント・ベンチャー企業に使用されていたとすれば、それは日本の輸出管理にも抵触するのではないだろうか。

正男氏殺害事件はマレーシアと北朝鮮と長年のなれ合いが生んだ結果である。北朝鮮がマレーシアとの多くのジョイント・ベンチャー・ビジネスを通じて、様々な国連制裁違反を行っていた可能性がある。

しかし、マレーシア政府は、これまでのところ国連安保理専門家パネルの捜査にまったく協力せず、企業や関係者に関する情報を提供していない。もともとマレーシアは北朝鮮に融和的で、厳しい制裁に協力的ではなかった。まさにこのようなマレーシアの脇の甘さが、今回の金正男暗殺事件で利用されたと言える。

北朝鮮の武器輸出はますます巧妙になっている。十数年前には貨物船に武器を積載し、その上から食糧やセメントが入った袋で覆うという稚拙なやり方だったが、今は分解し部品などの形で、問題がなさそうな民生品の状態で送る。搬入先で組み立てられ、武器や軍事物資になる。北朝鮮は型式が古い武器を今なお生産ししおり、修理も請け負うため、中東やアフリカの紛争国からの注文は今後も絶えないだろう。

東南アジアなど各国を調査したが、政府は総じて非協力的で情報を出し渋る傾向が強い。税関職員には不法な輸出入品を見抜く知識が足りない。制裁の鍵を握るのは中国だが、中央政府・外交部が制裁の必要性を認めても、地方政府や税関はまだ意識が低く、制裁の具体的策を理解していない。

中国外交部は関連企業のデータベースを持っている。各国はできるだけ情報交換を密にすべきである。北朝鮮の軍事物資には日本の民生用機材が使われ、海外で生産されたものも多いとみられる。日本政府はもう少し監視と追跡に本腰を入れて取り組むべきだ。(八牧浩行) 

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。現在、日中経済文化促進会会長。Record China相談役・主筆。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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