<コラム>日本は水道水を直飲みできるのに…憂うつな中国の「飲用水の安全」問題

内藤 康行    2017年3月20日(月) 6時10分

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中国では近年、「浄化」、「健康」、「持続可能な水環境の維持」への関心が高まる中、特に「国民の飲用水安全保障」が最大の関心事となっている。資料写真。

今回の中国全国人民代表大会で発表された「2016年政府工作報告」の中で、水汚染処理整備政策を一段と進めるとし重視度を高めた。都市の汚水処理施設(日本の下水浄化センターに相当)の建設と改造を全面的に促進し、加えて農業分野の面源(汚染物質の発生源が特定しにくい場所。農地や市街地、森林など)汚染と流域水環境の総合整備強化も急ぐと言う。さらに工業汚染源処理や環境保護の監視査察力も強めるらしい。

中国では近年、「浄化」、「健康」、「持続可能な水環境の維持」への関心が高まる中、特に「国民の飲用水安全保障」が最大の関心事となっている。

2013―2015年『中国環境状况公報』(環境保護部発行)に、毎年各流域水系と飲用水源地の突発的な汚染事故事案が記載されている。昨年、全国1333カ所の飲用水水源地の水質状况を検査した結果、98カ所(7.35%)で水質基準値の超過が確認され、「水の安全」は深刻な状況にある事を示している。

実は中国にも1996年に公布した『生活飲用水衛生監督管理法』というものがあり、これを基に『生活飲用水衛生基準』が2007年7月1日に施行さている。一昨年4月に国務院が公布した『水質汚染対策行動計画』には、2020年には全国の水環境質量を段階的に改善し、深刻な汚染環境を大幅に減少させ、飲用水の安全保障レベルを引き上げるとしている。

「掛け声」が多いのが中国政府だが、この様な飲用水汚染問題をどの様に解決しようとしているのか?現在中国政府や環境保護関係機関が自主知財権と新興産業として取り込もうとしている技術が「膜技術」を使った高度処理である。膜技術の出現は水処理技術の「革命」と言われ、膜表面の微孔を通し水中の有害物等を除去する。現在市場では絶対多数の浄水製品に膜処理技術が使われている。割安でそこそこの品質の中国製膜製品が急成長しており、外国製品がやや押され気味なのは、「国産化政策」による国産製品の優先使用が背景にあるのかも知れない。

この膜処理技術を使っても中国の水道水直飲みは可能ではない。日本人は直飲みをすると必ずお腹を壊す。中国の水道水質は硬水であまり飲用には適さないため、中国国民もよくわかっていて決して直飲みはせず、沸かしてから飲んでいる。通常はペットボトル詰めや業務用ガロン詰めを飲用しているのが現実だ。

ちなみに、世界で水道水を直飲みできる国はたった15カ国だ。(平成16年版「日本の水資源(概要版)」)の国土交通省の発表によると、フィンランドスウェーデン(ストックホルム)、アイスランド、アイルランド、ドイツ、オーストリア、日本、クロアチア、スロベニア、アラブ首長国連邦、南アフリカ、モザンビーク、レソト、オーストラリア(シドニー)、ニュージーランドの15カ国だが、「直飲みは避けるべき」との注意書きが付いている。中国の水道水直飲みへの道のりはまだまだ遠い!

■筆者プロフィール:内藤 康行

1950年生まれ。横浜在住。中学生時代、図書館で「西遊記」を読後、中国に興味を持ち、台湾で中国語を学ぶ。以来40年近く中国との関わりを持ち現在に至る。中国の環境全般とそれに関わるビジネスを専門とするコンサルタント、中国環境事情リサーチャーとして情報を発信している。

■筆者プロフィール:内藤 康行

1950年生まれ。横浜在住。中学生時代、図書館で「西遊記」を読後、中国に興味を持ち、台湾で中国語を学ぶ。以来40年近く中国との関わりを持ち現在に至る。中国の環境全般と環境(水、大気、土壌)に関わるビジネスを専門とするコンサルタント、中国環境事情リサーチャーとして情報を発信している。著書に「中国水ビジネス市場における水ビジネスメジャーの現状」(用水と廃水2016・9)、「中国水ビジネス産業の現状と今後の方向性」(用水と廃水2016・3)、「中国の農村汚染の現状と対策」(CWR定期レポ)など。

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