<このごろチャイナ・アート&A>全国の博物館、無料開放で入場者殺到―中国・コラム

Record China    2008年3月31日(月) 10時31分

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「このごろチャイナ・アート&A」は最近の中華圏における「アートそしてアーキオロジー(考古学)」に関する動きを、レコードチャイナの写真ニュースを軸にして紹介。不定期配信。第2回は中国での博物館施設の無料開放。写真は上海博物館など。

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中国国家文物局は3月中旬、全国1400か所の公的博物館などを、今後2年間無料開放すると発表。無料開放により、これまでの5〜15倍の入場者を見込んでいる。

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 中国国営新華社通信のサイト「新華網」が伝えたところによると、北京で開催された中国全国人民代表大会(全人代)に際し、文物局幹部は、博物館および施設200か所が無料開放の準備を完了もしくは完了間近と語った。「昨年下半期から今回の無料開放に向けて調整作業を進めていた」という。

この幹部は、無料開放後は入場者の殺到が予想されるため、混雑による事故が起こらぬよう秩序をもって見学するよう呼びかけ。受け入れ施設側には、サービスと管理能力の向上を求め、見学者の流れを制御しながらも最大収容人数が見学可能になるよう求めた。

博物館施設の無料開放と言うと、筆者に最も身近なのは大英博物館などロンドンの主要博物館・美術館のシステム。入り口など主要な場所に「Donation(寄付)」を呼びかける賽銭箱のような箱を置き、善意による貢献を呼びかけるだけで、基本的にすべて無料での鑑賞を可能としている。

この結果、特に大英博は平日でも観光客、近隣の小中学生なども大挙して押し寄せ、実ににぎやか。Donationの実績額は知らないが、社会的な使命を果たすのと同時に、館内の売店、レストランなどを含めて総合的な費用の捻出を意図して運営しているのは間違いない。

 もっとも英国だけを見て欧州がすべて無料と思い込むのは早計で、フランスではルーブルやギゼなど主要美術・博物館は日本と同様に有料。それでもルーブルなど週末などは入口が大混乱で、入館するだけでも大変なほどだった。また日本でもファンが多いフェルメールやゴッホなどを輩出したオランダ辺りも同様に有料。余談だが、便利だったのは国内の主要美術・博物館をカバーした共通チケットがとても安価に提供されている点で、ヘビーユーザーである美術愛好家に対する配慮が感じられた。

上海、北京で続々=恒久的な無料開放も

全人代に際しての発表に先立ち、中国ではすでに複数の都市で博物館など数か所の無料公開が始まっていた。無料開放は、中国共産党中央宣伝部、財政部、文化部、国家文物局が合同で公布した「全国博物館、記念館の無料開放に関する通知」に基づく。

3月10日には、上海市で博物館・記念館4か所が恒久的に無料開放されると発表されたばかり。対象は「上海博物館」「上海魯迅記念館」「陳雲故居と青浦革命歴史記念館」「中共一大会址記念館」。上海市内の施設に適用されるのはこれが初めて。

3月1日には北京で、「国立軍事博物館」が北京市内の国立博物館としては初の無料開放を開始。身分証を提示するだけで入場券と引き換えができ、館内のほとんどの展示品を参観することができるというシステムという。

無料開放初日は、開館時間前から入場を待つ来場者が50mの列をつくり、閉館までに、前週までの1日平均入場者数の9倍に当たる1万2555人の入場を記録した。軍事博物館より先に無料開放を実施した地方の博物館では、入場者の殺到により、展示品が損壊するなどの被害も出たため、この日は警備員が100人体制で館内をパトロールしたという。館側は今後、「入場者数が多すぎる場合には、時間を区切って入場制限も行う」という。

■なぜ、そこまで…!?地方では群集心理で博物館を破壊

中国新聞社電によると、この前月2月には、旧正月休みに無料公開された福建省博物院に参観客が殺到、設備や所蔵品に10万元(約150万円)以上の被害が生じる事件が発生している。博物館の無料化のテスト運用を兼ねたものだった。

無料公開の知らせを聞きつけ、予測を大きく上回る市民延べ8万人が殺到した。 館内は、いつもの静けさから一転、バーゲンセールのような押し合いへし合い状態となった。まず人の流れに耐えきれず玄関の扉が破損。さらに群集心理からか、無法状態と化した館内では、係員の制止も聴く耳を持たない子供が好き勝手に遊び回り、展示品を壊す始末。象の模型の鼻が折れたのをはじめ、被害額は10万元(約150万円)以上に上り、同館は修理のための臨時休館を余儀なくされたという。

 同館の楊ツォン館長は、想定を大きく超える来館人数だったと話し、今後は無料公開施行にあたっては来館人数制限などを検討するとコメントしている。

 2007年にはスーパーのタイムセールで群衆が将棋倒しになり死者が発生するなど、中国では群集心理による事故が相次いでいる。そのため人が集まるイベントには細心の注意が必要とも言われていた。

博物館等の無料開放は近年の中国の経済成長による財政的な余裕を反映したものであろう。しかし、豊かになったからといってどこの国でも同じような文化施設に対する投資を一様にするかと言うとそのやり方は様々だ。中国での美術品などの保護に対する意識の高まりは前回「沈没船の引き揚げ」に関しても触れたところだ。

今回の動きも中国が文化遺産の尊重に対する強い意識を持ち始め、一般庶民に対する教育を意識した現れの一つには違いないだろう。面白いのは台湾でも最近、週末夜間に限定してだが似たような動きが見られること。

中国の試みがこの後どのような展開をたどるかは分からないが、一方で、特別展を除いて閑古鳥が鳴くような国立博物館の常設展示を見ると、「いっそ無料にして一人でも多くの人に見るチャンスを与えるのが行政の仕事ではないか」という気がしてならない。

(文章:Kinta)

プロフィール Kinta:大学で「中国」を専攻。1990年代、香港に4年間駐在。2006年、アジアアートに関する大英博物館とロンドン大学のコラボによるpostgraduateコース(1年間)を修了。

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