八牧浩行 2017年5月8日(月) 7時10分
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第50回アジア開発銀行(ADB)年次総会が閉幕した。「欧米を中心に保護主義的な動きが強まる中で、「反保護主義」を貫くことを確認。アジア経済のさらなる発展に向けた「戦略2030」を打ち出した。写真はADB総会。
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2017年5月7日、「ともに開くアジアの未来」をテーマに、横浜市で開催されていた第50回アジア開発銀行(ADB)年次総会が閉幕した。「米国第一」を掲げるトランプ米大統領の誕生や英国の欧州連合(EU)離脱問題など欧米を中心に保護主義的な動きが強まる中で、「反保護主義」を貫くことを確認。アジア経済のさらなる発展に向けた「戦略2030」を打ち出した。
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ADB総会には加盟67カ国・地域から政府、国際機関、民間企業幹部ら約5000人が出席。アジアの持続的な経済発展と住民の生活向上へ、インフラ整備や金融の安定、医療制度の拡充・感染症問題などについて、課題と対応策を協議。「アジアのさらなる発展」へさらにサポートを強めることを確認した。
3日からの会期中に、日中韓3カ国と東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟10カ国による財務相・中央銀行総裁会議など多国間会議も開催された。
日中財務対話では金融協力の推進で一致した。麻生太郎財務相は「今年は日中国交正常化45周年という重要な年でもある」と良好な日中関係をつくる考えを強調。肖捷財政相も「実務的な成果を目指す」と呼応した。日銀と中国人民銀行の代表が初めて参加したことも成果の一つと言える。
総会を通じて保護主義への警戒感を示す加盟国が相次いだことも特筆される。インドネシアのインドラワティ財務相は「保護主義には断固対抗し、ADBの加盟国と協調したい」と呼び掛けた。韓国の柳一鎬企画財政相は「世界で経済の統合に反するような動きが目立つが、国際協力が欠かせない」と問題提起。英国のEU離脱や米トランプ大統領の自国第一主義など世界的な保護主義の潮流を懸念する声も多かった。日中韓3カ国財務相・中央銀行総裁会議は「あらゆる形態の保護主義に反対する」との文言を共同声明に初めて盛り込んだ。
世界最大の経済成長センター、アジアでは鉄道、道路、空港、発電所などのインフラ資金だけで年1.7兆ドル(約190兆円)の需要が見込まれるが、ADBの年間融資等承諾額は2016年で約175億ドルにとどまる。創設以来50年にわたりアジアの成長を支援してきたADBだが、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)がライバルとして浮上。ADB加盟国からはAIIBとの協調を求める声が相次いだ。多様なニーズに対応するために、ADBの増資や中国主導のAIIBとの協力は不可欠。中尾武彦ADB総裁は「膨大なアジアの資金需要を満たすためにAIIBと協力できる。すでに協調融資をしている」と発言。黒田日銀総裁(前ADB総裁)も「ライバルではなく協力できる」と指摘した。
こうした中、目立ったのが日中両国のアジア各国へのアピール。中国の肖財務相は6日の演説で、中国提唱の経済圏構想「一帯一路(海と陸のシルクロード)」への支持を求め、5月14日に開く一帯一路の国際会議への参加を促した。中尾総裁は記者会見で、一帯一路構想について「良いプロジェクトがあれば協力する余地はある」と述べた。
日本も積極的な金融協力を打ち出した。麻生財務相日本SEAN財務相・中央銀行総裁会議で、ASEANに金融危機の際に円を融通する通貨協定締結を呼びかけ、各国から歓迎された。同相はさらに、質の高いインフラ整備を支援するために日本が2年間で4000万ドル(約45億円)を拠出することを表明。ADBが創設する「高度技術支援基金」を通じて、アジア各国を支援する。
アジアの鉄道や空港などのインフラ需要を巡る日中両国の主張も目に付いた。創設以来50年にわたりアジアの成長を支援してきたADBだが、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)がライバルとして浮上。ADB加盟国からはAIIBとの協調を求める声が相次いだ。
◆皇太子殿下「さらなる貧困削減を」
同総会開会式で挨拶された皇太子殿下は「アジア開発銀行の創立総会が東京で開催された50年前、アジア太平洋地域は世界の中で最も貧しい地域の一つだったが、その後の半世紀の間、この地域の国々は、経済発展や経済発展や貧困削減において、大きな進展を成し遂げた。その際アジア開銀は積極的な支援を行ってきた。その貢献に敬意を表する」と述べられた。その上で、「この地域にはなお3億人を上回る人々が貧しい生活を余儀なくされており、持続的で包摂的な成長を通じた貧困削減は重要な課題だ。この地域はインフラの整備、自然災害や気候変動への対応といった様々な課題にも直面している」とアジア開銀が一層重要な役割を果たすよう期待された。
中尾武彦ADB総裁は7日の閉幕記者会見で、強力なインフラ開発支援、貧困の撲滅、金融の安定、医療制度の拡充・感染症問題、気候変動・災害への対応など「戦略2030」目標を掲げた。筆者はこれまで各国でのアジア開銀総会を取材したが、今回総会も参加者の将来に賭ける「熱い思い」を感じた。アジアの「さらなる発展」に向けて、国の利害を超えて域内国が結束し、積極的に協力するよう望みたい。(八牧浩行)
■筆者プロフィール:八牧浩行
1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。
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