<コラム>ずさんな中国の医療廃棄物処理、管理が混乱し問題山積み

内藤 康行    2017年9月6日(水) 14時50分

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医療廃棄物処理に関わる違反行為は湖南、湖北、河北、江蘇等複数の地域で発生し大きな社会問題となっている。図・写真は筆者提供。

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今年6月5日、湖南省の最高裁判所が医療廃棄物事案を通達した。この事案は140トン以上の医療廃棄物と医療ゴミを農家敷地内に隠蔽したとする事件の結審通達である。この隠蔽事件に関わったとされる被告人は懲役と罰金を言い渡されている。こうした医療廃棄物処理に関わる違反行為は湖南だけではない。湖北、河北、江蘇等複数の地域で発生し大きな社会問題となっている。本稿では、中国の医療廃棄物処理の現状を伝える。

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【足りない医療廃棄物処理の危険認識重視と処理施設不足】

国家発展改革委員会と環境保護部が2016年に公布した『国家危険廃棄物リスト』によれば、危険廃棄物を46大分類479種としており、この中に医療廃棄物が1号危険廃棄物類に分類明記されている。中国政府や環境関連機関は医療廃棄物処理に対し、これまで「危険の認識」を持たなかったため、集中処理施設も不足している。大部分の危険廃棄物の総合利用は低水平で、簡単な貯蔵か不法投棄という状態が続いている。

1、中国の医療廃棄物回收処理情況(図1参照)

(1)医療廃棄物の小業者への売却

管理監督体制の欠如と厳格性を欠く管理等の問題がある一方で、医療廃棄物回收事業は大きな利益構造を生み出している。いくつかに医療廃棄物は簡単な処理を経て、新たな「医療用品」として姿を変え、市場に出回る。さらに一部の医療廃プラスティック製品は、消毒処理もせず、飲料品或は食品用プラスティックへと変貌している。健康への脅威は甚大だが関連業者は全く意に介さない。

(2)医療廃棄物の不法投棄

関連部局の管理監督が杜撰(ずさん)だ。特に辺鄙(へんぴ)な地区では医療廃棄物は不法投棄されており、人体への直接危害が懸念されている。

(3)医療廃棄物を生活ゴミに混入

医療廃棄物と生活ゴミの境界線がはっきりしていない。特に医療廃棄物の分別収集処理は手付かず状態にある。現在中国の、中小規模病院では未だに『消毒技術規範』で規定する関連要求を無視し分別収集は行われていない。多くの医療廃棄物は生活ゴミに混入し、社会へと流れ込んでいる。

(4)医療廃棄物の直接焼却と埋め立て

『医療機関感染管理法』という規定があり、医療・衛生機関は当然この規定に沿って集中処理・処分を行うこととなる。一方医療廃棄物の集中処理・処分業者は『医療廃棄物集中処分技術規範(試行)』と『医療廃棄物高温蒸気集中処理技術規範(試行)』等の基準により集中処理・処分を実施することになっている。しかし農村医療機関では未だに集中処理・処分がされず、直接焼却や直接埋め立て等で処理・処分を行っているのが実態である。直接焼却された医療廃棄物は大量のダイオキシン等の有害物質を発生させ二次汚染をもたらす。ピンセット、鍼灸、注射針などの不可燃性物質は現時点では埋め立て処分しかなく、これは地下水源汚染の一因となっている。

(5)医療廃棄物の集中回收処理

中国で言う集中回收処理とは、指定処理専門業者による当該地区で発生する医療廃棄物を集中的に処理することを指している。この種の処理方法を経て医療廃棄物は工業原材料を再生する。これは中国で最も合理的な医療廃棄物の回收処理方法としているが、管理が杜撰で責任所在が明確ではないため、この方法は実運用面で多くの問題を内包している。例えば回收ネットワークの不備とか、処理設備が古い等の問題である。

2、中国の医療廃棄物回収処理に内包する問題

医療科学技術の進展と国民の生活水準の向上に伴い、「使い捨て医療衛生用品」は広範囲で使用されるたことで、医療廃棄物処理に大きな難題を突きつけている。この中で中国の医療廃棄物は現社会経済の発展に比べ管理と技術レベルが遅れている。こうした遅れが医療廃棄物の回收処理を難しくしている。

(1)混乱する院内管理

医療廃棄物管理規定は、医療廃棄物を先ず医療機関内で簡単な無害化処理をすること(適正消毒等を含む)と同時に、大部分の医療機関は後方勤務(支援、サービス部門)部門が医療機関内廃棄物を管理することとしている。しかし一部の医療機関では医療廃棄物の適正消毒処理を行っておらず、医療機関内に医療廃棄物管理部門すら設置していない。

(2)医療廃棄物の分別収集システムが不備

医療廃棄物の収集は処理の中で最も重要な位置づけにあるが、中国では絶対多数の中小規模医療機関では未だにこの点を重視していない。上述したように生活ゴミとの共同処理や、焼却・埋め立てが常態化している。一部の発展都市にある医療機関でも医療廃棄物の収集活動はやっと動き出した段階にある。

(3)軽視される医療廃棄物

健康衛生に関する知識不足は否めない。国民は医療廃棄物が環境と自身の健康にどれ程の危害を与えているのか全く関心がないか軽視している。例えば医療機関で廃棄した「使用済み点滴容器」を家庭用容器として利用している。肝心の医療機関職員も医療廃棄物の危険性意識を持っていない。このため医療機関職員が医療廃棄物を処理する場合、不法投棄や不適正消毒というような事案が頻繁に起こっている。

(4)遅れる法規と管理監督

中国内では、「環境衛生」、「環境保護」、「公衆衛生」3部門が医療廃棄物処理の共同管理をしているが、この3部門の医療廃棄物処理管理では未だに役割分担が明確になっていないため医療廃棄物管理が遅れている。これとは別に中央政府関係部門はすでに『医療廃棄物管理条例』を公布しているもののまだ試行段階で、指導不足は否めない。

(5)科学的回收利用根拠のない回収製品

多くの医療廃棄物は回収・利用が可能だが、合理的な回收には到っていないか、科学的回收利用の根拠と手段がなく、環境汚染や資源浪費となっている。

(6)処理費用問題

医療廃棄物処理費用の徴収基準は、第一類基準の医療廃棄物重量による徴収と、第二類基準の医療機関のベッド数により徴収する2種類がある。処理費用は各地バラバラでその上格差は非常に大きくなっている。ベッド数による徴収基準では、医療機関は焼却施設を設けると処理コストが高くなるため、医療廃棄物を生活ゴミとして処理企業に処理を委託している。重量による徴収では、医療機関が知らないうちに処理定額が超過し負担が増加する現象が起こっている。特に中小規模医療機関は医療経費徴収が有限で且つ収入も少ないため、医療機関は処理業者に対し自主的な大幅割引を強要している。こうした処理費用基準の「不明確」は、医療廃棄物の完全無害化処理を遅らせている。

3、医療廃棄物処理目標

2002年から2011年の9年間、中国の都市化率は1.35%(年平均)で急進、都市人口は年平均2096万人増加した。2011年の都市人口は51.27%に達し、2002年比で12.18ポイント上昇した。都市人口は6億7079万人(2002年比で1億8867万人増加)している。

都市人口の増加は中国の医療廃棄物をも増加させ、医療廃棄物汚染は深刻を極めている。環境保護部等4部門が公布した「『十二五計画(2010〜15年)』危険廃棄物汚染防治計画」では、医療廃棄物收集システムの建設強化を要求している。2015年末には都市部(県級都市、地方級都市及び直轄市を含む)において医療廃棄物の無害化実現を求め、さらに医療廃棄物の収集運搬メカニズムと費用徴取制度の見直し実施を求めるとしている。図2は危険(医療)廃棄物集中処理場の運転費の推移。予測では2020年には200億円(約3341億円)を超える市場を創出する。

■筆者プロフィール:内藤康行

1950年生まれ。横浜在住。中学生時代、図書館で「西遊記」を読後、中国に興味を持ち、台湾で中国語を学ぶ。以来40年近く中国との関わりを持ち現在に至る。中国の環境全般とそれに関わるビジネスを専門とするコンサルタント、中国環境事情リサーチャーとして情報を発信している。

■筆者プロフィール:内藤 康行

1950年生まれ。横浜在住。中学生時代、図書館で「西遊記」を読後、中国に興味を持ち、台湾で中国語を学ぶ。以来40年近く中国との関わりを持ち現在に至る。中国の環境全般と環境(水、大気、土壌)に関わるビジネスを専門とするコンサルタント、中国環境事情リサーチャーとして情報を発信している。著書に「中国水ビジネス市場における水ビジネスメジャーの現状」(用水と廃水2016・9)、「中国水ビジネス産業の現状と今後の方向性」(用水と廃水2016・3)、「中国の農村汚染の現状と対策」(CWR定期レポ)など。

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