八牧浩行 2017年11月9日(木) 5時0分
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日中両国の新聞・通信、テレビなどの編集幹部による「日中メディア対話会」がこのほど上海外国語大を中心に開催され、筆者も出席した。意見の相違も目立ったが、「小異を残して大同につき、相手国のプラス面も積極的に報道するべきだ」との点で一致した。写真は同大学。
日中関係は改善の兆しが見られるものの、なお両国の国民感情にはわだかまりが残っている。両国の新聞・通信、テレビなどの編集幹部による「日中メディア対話会」がこのほど上海外国語大学を中心に開催され、筆者も出席した。意見の相違も目立ったが、「小異を残して大同につき、相手国のプラス面も積極的に報道するべきだ」との点で一致した。
このメディア対話会は上海外国語大学と公益シンクタンク鍵叡が主催。日本側からNHK、朝日新聞、毎日新聞、日本経済新聞、Record Chinaなど。中国側からCCTV(中央電視台)、新華社、人民日報、環球時評、解放日報、上海文匯報、香港フェニックスグループなどの、それぞれ編集幹部が出席した。上海外国語大日本文化経済学院・廉徳瑰教授と谷野作太郎元駐中国日本大使がコーディネーターを務め、同大教員や大学院生が聴講・サポートした。
◆日中首脳の相互訪問実現を
主催者を代表して廉教授は冒頭、「2017年は日中国交正常化45周年の節目の記念すべき年。両国関係は徐々に回復する傾向があるものの、未解決の間題が多い。両国国民の不信感が生じる根本的な原因は両国の構造的な矛盾にあり、その要因の一つは日中メディアがお互いに理解し合えなかったためと思われる。国民感情は両国関係正常化の基礎で、メディアの報道は国民感情を左右する。メディアは大局を念頭に置くべきで、日中メディア同士の交流を深めることによって、日中友好促進のために全力を尽くしたい」と挨拶した。
谷野元大使は「日中両国は今年国交回復45周年を迎えて、なお現首脳による相互訪問が実現しておらず、きちんとした形でトップ会談を開催するべきだ。両国民の間の国民感情を改善するために、メディアの果たす役割は大きい。中国メディアは『共産党と政府のノド(伝達者)』といわれるが、一部は権力を指弾する勇気を持っている。日本のメディアは『社会の木鐸』を標榜しながらも一部メディアは営業的な利益に負けて“反中”“反韓”に染め上げてしまうところがある」と問題提起した。
◆大国としての振る舞い、中国メディアも「促している」
延べ8時間にわたった討議の主な論点は次の通り。
▼中国側 真の平和友好へ、歴史認識の問題が大きい。60年前のエリゼ条約によって仏独間の民族感情の和解がなされた。日中韓国でもこうした和解への努力が必要だ。
▼日本側 中国には落ち着いた大国としてのふるまいを期待したい。ダライラマ(チベット教生き仏)、サード(THAAD・高高度ミサイル防衛システム)問題への対応は過剰反応ではないか。尖閣国有化後の反日デモもひどかった。
▼中国側 ダライラマ、サード、魚釣島などへの対応は、民間や地方実務者の裁量“忖度”の可能性を排除できない。包容力のある大国としてのふるまいは中国としても心がけており、メディアも促している。
▼日本側 中国の習近平体制は、三権分立など民主主義の欧米流のモデルより中国モデルの方が優っていると信じているようだ。米欧の現在の政治的混乱と経済低迷を見ればそうかもしれないが、中国も民主制を取り入れるべきではないか。国際的にはルールを順守すべきだ。
▼中国側 中国には欧米や日本と異なる中国独自の民主主義がある。経済でも文化でも貧困・格差対策でも、確実に進展している。中国は米国のように自分のモデルを輸出しようとはしていない。腐敗撲滅、改革の徹底など中国の国情に合わせてやっている。
◆感情排し、10年後に耐える報道を!
▼日本側 日中共同世論調査によると、領土をめぐる日中間の軍事紛争について「起こると思う」と考える人は、日本側が28%だったのに対し、中国側は62%。中国で6割を超えたのは調査開始以来初めてだ。日中関係がここまで悪化してしまった最大の問題は領土問題と考える。日本の「国有化」、中国の反日デモといった流れによって、日中両国の領土ナショナリズムに火がついた。それまでの「棚上げ」という先人の知恵を無視して動いてしまったため表出しているのが現在の状況ではないか。
▼中国側 靖国参拝問題など歴史認識を巡る問題も大きい。安倍首相にとって理性的選択は日中国交正常化45周年及び平和友好条約締結40周年の機を借りて、関係改善に努力し、来年前半と後半に両国首脳の相互訪問を実現し、地域の平和と安定に貢献して、外交的ポイントを稼ぐことではないか。
▼中国側 わが社の報道は日本の良さを具体的にシリーズで伝えている。日本は政治では「人事権力闘争」、経済では「崩壊」といった暗い面をことさら強調するものが多い。中国の悪い面よりも、よい面や国民の暮らしぶりなどを系統的に紹介すべきだ。
▼日本側 日本ではネットやSMSニュース時代を迎え、感情的で極端な書き込みが多い。このような言辞に対抗して真実を伝えるべきだと思う。
▼中国側 同様の悩みを持っており、協力して真実を追求していきたい。
<廉教授総括>
双方に相違点はあったが、共通認識もあり、有意義な討議だった。日中間の問題解決へ一層の交流が必要だ。過去の歴史への謝罪、教科書問題の解決はそのチャンスとなる。短期的ではなく報道理念を堅持して、十年後に生きる報道をすべきだ。双方のメディアの責任は大きい。
<谷野元大使総括>
互いの考え方を率直に語り合い有意義な会議だった。ネット右翼の問題にも共通の認識を持つことができた。極端な勢力にはめげずに、強い意思で真実を伝えることが報道の責務である。米国がトランプ大統領の登場で混乱する中、日中が協力できることは多く存在する。十年後に耐える議論や報道を作り出せるかどうかが問われる。
◆「報道」の在り方、日中間に大きな相違
以上今回メディア対話会の模様を紹介したが、経済のグローバル化や政治の多極化、技術の進歩がすさまじい勢いで押し寄せ、新旧メディアの境界、国内と国際問題の境界がなくなった。中国のメディアは国営通信社・新華社を頂点とした、ヒエラルキーが厳然と存在、政府の意向に沿った報道がなされるよう、規制されているが、あまり問題と考えていないように見えた。むしろ新華社など政府系メディアには「社会の安定・発展を促すニュース」を選択して報道すべきだとの「読者啓蒙論」が強く、「マイナス情報もすべて報道し、読者の判断に委ねる」との日本メディアの考え方とは大きく異なり、「真実・事実とは何か」を巡っては大きな隔たりがある。筆者は日本や中国で開催された日中メディア対話に度々出席しているが、今回の対話会でもこの傾向がさらに強まっていることを実感した。「中華の夢」の実現を標榜する習近平体制の下で、経済・軍事大国が実現しつつあることで、自信を深めているようだった。
◆中国記者、告発取材で“夜討ち朝駆け”も
中国では新聞の数も発行部数も多く、新聞の間の競争も激しい。読者は、官僚の不正、汚職、公害、食品の安全などの積極的な告発記事を求めており、中国の若い記者の多くは「夜討ち朝駆け」による「不正」や「社会悪」追及に生きがいを見出している。このため、過激な論調のものが出回りやすい。共産党政権はメディア管理体制を強化しているが、自身に「刃」が向かわない限り容認。社会浄化につながるとして推奨している面もある。上海外語大の大学院生は「中国ではジャーナリストは若者に人気がある」と話していた。
日中メディア間の相互理解が不足していたことを痛感するとともに、メディア同士の交流の重要性を改めて認識した。「小異を残して大同につき、庶民の生活も含めた相手国のプラス面も積極的に報道するべきだ」との点で一致したことは大きな収穫だった。(八牧浩行)
■筆者プロフィール:八牧浩行
1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。
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