八牧浩行 2017年11月15日(水) 5時0分
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国連開発計画の「持続可能な開発目標(SDGs)」が世界中で注目され、主要各国が支援に乗り出している。日本政府もその実現へ協力、企業の多くもCSR(企業の社会的責任)戦略として組み込む方針だ。写真は8月に東京で記者会見するシュタイナー国連環境計画総裁。
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発展途上国の開発・貧困撲滅・人道支援などを推進している国連開発計画(UNDP)の「持続可能な開発目標(SDGs)」が世界中で注目され、主要各国が支援に乗り出している。日本政府もその実現へ協力、日本企業の多くもCSR(企業の社会的責任)戦略として組み込む方針だ。
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◆貧困撲滅、気候変動など17目標
SDGsは世界のリーダーが2015年9月の国連サミットで採択した「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に盛り込まれた目標。今後、2030年までに達成すべき目標を定めたもので、教育・保健衛生を中心とした「ミレ二アム開発目標」(MDGs)を受け継いだ。「人々と地球のために、私たちの世界を転換させよう」という理想を掲げ取り組んでいる大プロジェクトである。(1)あらゆる形態の貧困に終止符を打つこと、(2)ジェンダー(男女)の平等を達成し、すべての女性と女児への自立促進支援、(3)気候変動とその影響に立ち向かうための緊急対策、(4)格差の是正、(5)質の高い教育、(6)経済成長、(7)技術革新、(8)人の健康―など17項目の持続可能な開発目標(SDGs)と169項目ターゲットなどで構成されている。
世界各地で国境を越えた紛争が頻発、紛争は長期化している。この結果、世界で多くの難民が発生。大規模な自然災害も含め、国連は新たな危機対応を迫られている。国連が人道・開発問題に対応する能力を持つ必要があるが、従来の体制では危機対応が追い付かない。UNDPのヒム・シュタイナー総裁がこのほど来日し、日本の協力を求めた。同総裁は日本記者クラブでの会見で「紛争や災害にはUNDPと各種国連機関などが連携し、危機の初期段階から復興まで一貫した支援を行うことが必要だ」と強調した。
◆AI、デジタル技術の活用促す
UNDPは日本でSDGs達成のためのビジネスを包括的に支援する仕組みを構築し、多くの企業に提供している。シュタイナー総裁は、環境保護や人間の健康といった目標を達成するため人工知能(AI)やデジタル技術などの活用も必要となると指摘。UNDPが開発・人道問題に対応する能力を保持することが必要と強調した。
UNDPの活動領域と日本の政府開発援助(ODA)が優先する対象は一致しており、日本が人道・開発支援などでUNDPと連携することは日本の国益と合致すると言明。日本政府の一層の協力を求めた。さらに「各国のあらゆる社会のレベルで関連の活動が拡大している」と指摘した上で、「日本では企業が積極的に関与している」と評価。地球環境の持続可能性の観点からさらに投資するよう促した。
グローバル化した世界では途上国への開発支援だけでは問題が解決しないとの認識のもと、先進国が国内で取り組む課題を新たに盛り込んだ。SDGsにはジェンダーなどの不平等解消、包摂的な制度の構築、安全で働きがいのある仕事の提供など、取り組むべき課題が列挙されている。
日本政府は16年5月、安倍晋三首相を本部長とする「SDGs推進本部」を発足。SDGsに係る施策の実施について、関係行政機関相互の緊密な連携を図り、総合的かつ効果的に推進することが目的で、全国務大臣がメンバーとなっている。企業やNGO、有識者を招いた「円卓会議」の意見を集約した上で、昨年末に、実施計画を発表した。
今年6月の第3回同本部会合で、SDGs達成に向けた企業や団体等の先駆的な取組を表彰する「ジャパンSDGsアワード」の創設を決定した。政府として、働き方改革の実現,地方自治体や民間セクターの取組推進といったSDGsの取組を一層加速化していくことになった。
◆NTT、味の素など多くがCSR戦略に組込む
これを受けて、多くの企業がSDGsを企業の指針として重視し始めた。 NTTグループがCSR憲章に組み込んだほか、デロイト トーマツ コンサルティングがCSR・SDGs推進室を発足。損保ジャパン日本興亜ホールディングス、住友化学グループ、帝人、味の素、サラヤ(消費財提供)など多くの法人が続いた。
2017年3月、岸田文雄外相(当時)はニューヨークの国連本部で開かれたSDGs閣僚級会議で、教育など国連の公益事業を支援するため総額10億ドルを拠出すると表明した。米トランプ政権が国連への拠出を大幅に削減する中、「国際貢献」強化とともに「常任理事国入りの宿願」に着眼した動きとも指摘された。
日本政府は貧困削減、教育事業を引き続き支援することで、国際社会における肯定的イメージの確立、国連及びその機関との関係強化を期待している。国連人権理事会や国連の上級担当官、専門家が歴史問題や報道の自由などで日本を再三批判したことで、日本と国連との関係に摩擦が生じ「反撃を余儀なくされた」(政府筋)のも事実である。日本の国連外交シフトはこの問題の解決を目指したものとも言える。
世界各国で多くの企業がSDGsを企業活動する上での指標にできれば、世界共通の目標として大きな意味を持つ。政府や自治体、NPO、市民団体など、様々なセクターと協力できるという点において、企業がSDGsに取り組む意義は計り知れない。一つ一つの企業がSDGsに取り組むことは、世界共通の目標達成に向けた大きな一歩になるだろう。(八牧浩行)
■筆者プロフィール:八牧浩行
1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。
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