<このごろチャイナ・アート&A>墓泥棒と映画と「A」=アンジェリーナからジェットまで―中国・コラム

Record China    2008年7月19日(土) 12時4分

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「このごろチャイナ・アート&A」は最近の中華圏における「アートそしてアーキオロジー(考古学)」に関する動きを、レコードチャイナの写真ニュースを軸にして紹介。不定期配信。今回は「墓泥棒と映画と『A』」。写真は兵馬俑と山西省の古代墓。

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2008年7月18日

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■山西省の貧困県は「墓泥棒の聖地」?!副葬品、ほとんどは被害に

中国の法制日報が先に伝えたところによると、殷・商時代の歴史遺産の出土地、黄河中流部の山西省石楼(シーロウ)県が墓泥棒の「聖地」と化し、連日、盗掘被害が出ている。同県は国家指定の「貧困県」で、県文物局は厳しい財政事情から「文物」を保護できる体制にないため、05年以降、同県内の古墳盗掘被害は甚大だという。

昔から権力者の力の象徴でもあった墓、墳墓には、生前の権威、繁栄を対外的に誇示するもの。その往々にして巨大な外観に止まらず、多くの場合副葬品としてそれ相応の豪華な財宝などが埋められている。現世の利益を追求する墓泥棒たちは、当然これを承知の上で「殺されかねないリスク」を犯して時の権力者たちの墓を荒らす。ちなみに私が中国美術を学んだ際、最初のころの講義はほとんど墓から出てきた副葬品の話ばかりで、陽気なインド人の同級生は「暗くて滅入る」と嘆いていた。それくらい大量かつ豪華な美術・工芸品が埋葬されているわけだ。

 だから、別に秦の始皇帝陵を擁する中国や、アジアにとどまらず、アフリカのピラミッドや欧州、中東など世界各地で、権力者・お金持ちの墓は、財宝を狙う “彼ら”に荒らされるのがむしろふつう。逆に無傷のまま現代に発見・発掘されれば、文化財として尊重・保護される時代に蘇ったのが極めて幸運だったといえる。(本当はプライベートな個人の墓なんですけどね)

 それでも、これまで安らかに眠っていた先祖の遺品・遺骨が、欧米先進国の勝手な文化的基準で発掘され、どれほど「文化遺産」などといわれようとも、持ち去られ、大英博物館に大量に展示されているミイラのように、陳列ケースでさらし者にされるわけだ。かつてアフリカ、アジア、中東などの現地では、欧米の考古学者らが遺跡に殺到し、発掘した遺物を自国に持ち去るような状況はとても耐えがたかったろう。

■映画の中の「A」〜ジェット・リーの「動き出す」世界遺産?

長い前置きとなったが、要するに「墓どろぼう」というおどろおどろしい語感とは裏腹に、洋の東西、時代を問わず墓荒らし(tomb raider)あるいは考古学者たちによる実質的な「墓荒らし」は実に身近なもの、あるいは一般人から見ると結構刺激的な存在であり続けた。

tomb raiderというと、意味が分かりにくいけれど、英国製のゲームを基にした同名の映画「トゥーム・レイダー」に主演するハリウッド女優アンジェリーナ・ジョリーちゃんも所詮そうした「墓荒らし」役だ。現在新作をロードショー中のハリソン・フォード主演「インディ・ジョーンズ」シリーズも、まあ「泥棒」ではなくちゃんと大学で講義もする「考古学者」(ちなみに本コラム名の「A」は英語の「考古学=Archaeology」の頭文字)だが、今編も映画の中でやっていることは、泥棒目的ではないがかなり乱暴な「荒らし」=文化財の破壊行為、だったりする。

でも、映画に描かれる“彼ら”は、美男美女が演じるせいもあり、実に生き生きとし、魅力的だ。日本では考古学者を描いたこれほどメジャーな映画が思い浮かばないが、こうしたダイナミックな映画は欧米の観客に対し遺跡や古代文明、アンティークなどへの好奇心を随分と刺激してきた。

8月に公開予定のジェット・リー出演作「ハムナプトラ3〜呪われた皇帝の秘宝」では、ついに中国考古学、アート史上の世紀の大発見である秦の始皇帝陵の兵馬俑を思わせる軍団(英語ではTerracotta Army)が動き出し、「時を超えて生き返った皇帝のミイラ」とともに戦うようだ。考えようによっては、かつてのツタンカーメンの呪いみたいな安直な設定だが、兵馬俑のような美術・工芸品的な価値も認められている世界遺産が動き出すというのはなかなかに愉快だ。中国の若者の好奇心を改めて“刺激”することだろう。

■つぶされれば “ただの素材”、骨董市場に流通する例も

ハリソン・フォードは違うが、たちの悪い墓荒らしは、獲得した金銀財宝を素材として処分してしまうので、たとえば金細工はもはやただの金の塊りに戻ってしまい、せっかくの時代を伝える加工技術や美的な創意工夫が無に帰してしまう。ただ、そうした墓荒らし行為がすべて破壊の「絶対的な悪」だったかというと、本来であれば墓の主とともに消え去ってしまうはずの「文物」が長い時を経て現世に戻る。

中国が政府として文化財の保護活動に力を入れる現代、山西省の墓荒らしを同列に論じて正当化することは許されないが、過去には盗掘された物品が骨董市場などに流通してきたのも現実だ。以前にこのコラムで紹介した沈没船の引き揚げも墓でこそないが通ずるところがある。

蛇足だが、中国語の「文物」という言葉について、英語の辞書に当たると、「Cultural heritages」「Cultural relics」「antiques」「things」などとされている。つまり文化的な遺産、遺物、骨董など。私は結構な年齢の日本人なのだが、「遺産、遺物」なら日本語と分かるが、「文物」というのがどうも中身がピンと来ないで困っている。

(文章:Kinta)

プロフィール Kinta:大学で「中国」を専攻。1990年代、香港に4年間駐在。2006年、アジアアートに関する大英博物館とロンドン大学のコラボによるpostgraduateコース(1年間)を修了。最近「このごろチャイナ」を主体とした個人ブログ「キンタの大冒険」をスタート。

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