八牧浩行 2018年1月3日(水) 5時0分
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「3カ月行かないと別の国!」とまで言われる中国。「IT・AI技術立国」「超キャッシュレス社会」への変貌ぶりには驚かされる。世界最大の人口や消費市場の利点を生かした膨大なビッグデータが活用されている。写真はドローン。
「3カ月行かないと別の国!」とまで言われる中国。昨年2回にわたって訪れたこの国の「IT・AI技術立国」「超キャッシュレス社会」への変貌ぶりに驚かされた。世界最大の人口や消費市場の利点を生かした膨大なビッグデータを活用。人工知能(AI)やロボット、フィンテック(金融技術)、情報技術(IT)、医療など世界的に注目を集める次世代産業で、中国の存在感が急激に増している。
世界の自動車メーカーやグーグル、アップルなどが覇を競う自動走行分野で、IT大手の百度(バイドゥ)は自動走行車のプラットフォームを、各国の大手自動車メーカーに公開。中国は世界最大の自動車市場で、規制も緩いため実証実験やテスト走行を行いやすい。世界中を走る自動車から走行データを吸い上げることで自社のAIを強化させ、市場を独占したい狙いがある。
医療ヘルスケア分野でも、中国は世界の先を見据えている。中国ではすでにこの分野のベンチャー企業が数百社誕生しているが、その多くは医療情報のビッグデータを利用したものだ。ウェアラブル端末では血圧や体温、血糖値、睡眠時間などがクラウド上で共有され、スマホにフィードバックされる。また各患者のカルテやCT・MRI画像などをビッグデータ化し、治療に役立てるシステムも開発されている。
◆中国EC市場、全世界の4割超
海外企業のまともな競合が存在しなかったことから、中国ネット企業は世界最大のオンライン市場を胎動から急成長までを思うままに利用できた。中国のネット利用者数は2010年以降倍増して約9億人。中国は断トツで世界最大のオンライン小売市場となっており、全世界のオンライン販売の4割超を占めている。アリババのプラットフォーム上の取引だけで16年に総額5000億ドル(約57兆円)に達した。これはアマゾンと米イーベイの取引額合計を上回っている。
人口や市場規模が巨大な上に、お金を自由に国外に持ち出しにくいため、国内での投資規模が大きいことも見逃せない。優秀な人材は起業を目指し、米国など海外に留学した人たちの間でも、現地のIT企業で働き、帰国してから起業するという流れが生まれている。
◆一日1万人が起業
中国では1日1万人以上が起業。中国の官民は産業構造の「創新(イノベーション)」を目標に掲げ、政府は巨額の補助金を支給している。アジアのシリコンバレーと言われる深センでは、ドローンや教育用ロボットなどの世界先端企業に躍り出た。
中国は科学技術の推進を国家の最優先課題として突き進んでおり、米ロに続く有人宇宙飛行を実現した宇宙開発技術、世界第1位のスーパーコンピューターなど、急速な進歩を遂げている。
中国では研究員が急増し、約150万人と米国の約125万人を凌駕。研究論文数や特許出願数でも米国に肉薄する勢いだ。米国から見た国際共著論文の相手先は中国が総合1位。かつて総合1位だった日本は7位に転落。8分野中、中国は化学、材料科学、計算機科学・数学、工学、環境・地球科学、基礎生命科学など6分野で1位と米中は強固な協力関係にある。特許出願件数でも米国に並び、科学技術大国に発展する可能性がある。日中の立場は、ひと昔前とは完全に逆転している。
2017年の世界の新規株式公開(IPO)状況によると、国・地域別では中国(香港を含む)が554件と最も多く、前年に比べ5割増加。世界全体に占める割合は32%に達した。
◆「超キャッシュレス社会」世界に先駆けて実現
中国では商店街でも地下鉄車内でもスマホが溢れていた。スマホは個人の身分証明書の役割も果たし、シェアエコノミーが大はやり。利便性は格段に向上したが、一方でリスクも交錯する。
中国では大都市だけでなく内陸部でも、スマホ一台さえあれば、買い物・食事でも、交通でもどんな支払いも決済アプリで簡単にできてしまう。大型ショッピングセンターでは、会計はスマホを機械に通すだけ。注文もスマホで処理され、伝票も見かけなかった。
屋台のような小さな店舗でも、専用の二次元バーコード「QRコード」をレジに貼り、顧客のスマホに読み取ってもらうことで代金が受け取れる仕組みが導入されている。個人と個人のお金のやりとりや、大人数の食事の“割り勘”も簡単。物乞いの人たちにとってもスマホが必需品といわれる。スマホ決済が急速に普及したことによって、紙幣を持つ必要がなくなったため偽札が激減、賄賂も渡しにくくなった。
◆無人店舗も急増
中国では店員のサービスの質がもともと高くないこともあり、消費者が買い物に利便性や合理性を求める傾向が強い。スマホなしで、「顔」の認証だけで支払い可能なサービスも登場している。タッチパネルで食べ物を注文し、自分の顔をカメラに向け、携帯電話の番号を入力すればOK。顔認証は始まったばかりだが、ネット通販最大手のアリババの「アリペイ」やスマホ用対話アプリ大手のテンセントの「ウィーチャット・ペイ」など、従来のモバイル決済の規模は昨年、前年比で五倍の約59兆元(約1000兆円)にも達した。世界のモバイル決済規模の半分以上に達し、欧米や日本を大きく引き離している。
無人コンビニも次々と開店している。スマホ決済サービスに個人情報を登録しておけば、出口のカメラで顔認証をするだけで自動的に決済できる。中国での無人店舗の普及は、リアルの小売店がネット通販に押され、顧客減に直面していることが背景。多くの小売店が賃貸料や人件費の高騰で収益が圧迫される中で、省スペースで人件費を抑えられる無人店舗は、顧客にとってレジに並ぶストレスが軽減されるほか、経営者にとっても偽札をつかむリスクがないという利点がある。
◆街中に溢れる「シェア経済」
スマホ決済によって、レンタル事業、シェアエコノミーも大きく発展した。シェア自転車は16年になって爆発的に普及し、既に数百社がサービス合戦を展開。日本円で30分、15円ほどの安価料金でスマホ決済、乗り捨て自由だ。GPS機能があり、自転車のある場所がスマホ画面地図で一目瞭然。自転車に付いているQRコードにかざせば開錠される。自転車に続いて、シェア自動車、シェア傘、シェアハウスなどなど、シェア経済が一挙に開花。あらゆる分野に拡大した。
◆個人の行動は“丸はだか”?
一方で、便利さと引き換えにリスクも浮上。決済のたびに、どこで何をいくらで買ったか、支払い情報が個人の銀行口座や住所、電話番号などとともに金融サービス会社に全て蓄積されていく。中国では携帯電話の使用やネットアクセス、さらには航空便や高速鉄道などに乗ったり、ホテルに宿泊したりするのも身分証やパスポートによる「実名登録」が必要。支払いもモバイル決済となれば、個人の行動は全て監視が可能になる。顔認証は防犯カメラとも連動ができ、治安維持を理由に中国当局から情報提供を求められれば、事実上拒否できない。ところが慣れてしまえば便利すぎて前の暮らしには戻れない。大企業や政府に個人情報を握られても、実害を被らない限り批判の声が上がることはないようだ。(八牧浩行)
「<連載コラム・東アジアの光と影(4)>北朝鮮、南北融和へ動く=「連絡チャンネル」再開、平昌五輪に参加へ=米朝開戦なら「成長シナリオ」は破局>」に続く
■筆者プロフィール:八牧浩行
1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。
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