<在日中国人のブログ>のばしのばしになる帰郷

Record China    2008年9月23日(火) 13時37分

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お盆休みの帰郷を中止にしたわたしに、故郷の両親は不満顔だ。しかし、このところ噴出する粉ミルクなどの食品問題で、さすがの両親も孫娘の安全を心配して「今回は帰ってこなくていいわ」と漏らした。写真は帰省ラッシュに湧く北京空港。

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お盆休みは東京の自宅でのんびり過ごした。本来は、中国の実家に戻る予定だったのだが、ふだんの疲れがかなり溜まっていたし、このところ、退社後の時間はすっかり北京五輪観戦にあてていたので、家族サービスのほうもすっかり怠りがちになっていた。したがって、わたしは両親との約束を破り、1週間の休暇を、妻や幼い娘とゆっくり過ごすことにした。

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このことを実家の母に伝えると、母は明らかに落胆し、いくらか腹を立てた様子で「何なのよ?こっちはいろいろと用意して、楽しみしていたのに!」と不満をぶちまけた。両親は、わたし以上にわたしの娘、つまり孫娘の帰郷を心待ちにしていたのである。

というのも、娘は生まれてからしばらく、実家の両親が面倒を見ており、今年の春、日本に暮らすわたしが娘を呼び寄せて以来、両親は孫娘の不在をひどくさびしがっていたのだ。周囲の日本人がこのことを知るとみな一様に驚き、理解を示してくれる人は少ないのだが、中国は夫婦共働きが浸透している社会ゆえ、このように祖父母が孫の面倒をみるのは、ごく当たり前のことなのである。例に漏れず、わたしの両親も「第2の育児」に奔走したわけなのだが、現在は退職している両親は、現役時代は仕事に忙殺され、余暇にマージャンをする暇もなく(注:中国人にとってマージャンは、日常生活に密接した大切な娯楽である)、かといってほかの趣味もとくに持ち合わせていなかった。そんな両親にとって、孫娘の育児はふって沸いたような「生きがい」だったのだろう、とても大事に孫娘を育て、そして彼らの間に強い絆が生まれた。

だから今年の春、娘を日本に連れてきたとき、両親はひどく悲しがった。その後、母は毎晩のようにうちへ国際電話をかけてくる。そして「食事はちゃんととっている?」「幼稚園での生活は慣れた?」「中国語の歌はまだ覚えているかしら?」と矢継ぎ早に質問してきて、わたしも辟易気味だ。そんなわけで、今回の帰郷を取り消したことについて、両親の落胆がいかほどのものか、想像に難くないだろう。わたしは「お盆期間は航空券が高騰するから」と、なんとか両親を説得し、10月の3連休には必ず里帰りする、と再び約束した。そして、電話の最後、両親にこう提案してみた。「退職後の今の時期は、人生を最も謳歌できる時間じゃないだろうか?時間もたっぷりあるし、経済的な不安もなく、余裕のある生活ができる。孫娘のことばかり考えてもきりはないのだし、逆に今の時間を利用して、2人でゆっくり旅行でもしたらどうか?」と。すると、両親はすでに秋のバス旅行を計画しているところだと答え、わたしもひと安心した。

そして昨夜、両親から定番の電話がかかって来た。「もう10月の航空券は手配したの?」と尋ねる母に、わたしは「毎日仕事で忙しいのに、そんなことばかりしている暇なんてないよ」と少々イラついて答える。すると、母は「よかった!」とうれしそうに言ったのである。「あなた、今回は帰ってこなくていいわよ。最近こっちでは、粉ミルクやら牛乳やらまで汚染されて、たいへんなの。大事な孫娘に何を飲ませたらいいのかわからないわ。日本にいたほうがこっちも安心よ。」と言うのだ。

それを聞いたわたしは、両親に対しても以下のように注意を促し、提案した。「今月末のバス旅行、あれも中止にしたほうがいいですよ」と。日本でも報道されたが、北京五輪閉幕後、中国では全国各地で惨事があいついでいる。四川省ではバス転落事故で51人が死亡、山西省では人災と言える土石流事故で250人以上が死亡、河南省では炭鉱事故で31人が死亡、そして昨夜、広東省ではナイトクラブの火災で43人が死亡した。どこに行っても危険なので、家でおとなしくしているのが一番のようだ。

結果、わたしたちは代替策としてすばらしいアイディアを思いついた。わたしたち家族の中国帰省も中止し、両親の国内旅行も中止し、次のお正月休暇に両親を日本に呼び寄せることにしたのである。妻に事情を説明したあと、わたしは「しかし、なんで中国ってこんなにトラブルが多いかな?」とつぶやいた。

妻は娘を抱き上げながら、「さあ……どうしてだろう。亡くなった方たちはほんとうにお気の毒だけど……」とひとしきり考えた後、今度は包丁を握りながら「国が大きいから、管理体制がしっかりしていないとまずいわよね。」と言った。

僕は妻の言葉にうなずきながらも、ふと考えた。いま、僕たちが住んでいる日本はどうだろうか?と。祖国で惨事が頻発しているが、僕たちが住んでいる日本にだって問題は山積している。たとえば、諦めの早い日本の政治家たち。もう少しがんばって、少しでも長く政権を維持し、初志貫徹してはくれないだろうか。祖国に対する愛もあり、また10年を暮らした日本にも愛着があり、しかし、だからこそ、それぞれの問題点もよく見える。不満や不安を持つのも、愛情の一種の裏返しなのかもしれない。(38歳男性/在日10年/会社員)

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