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<インタビュー>中国が直面する壁はバブル、格差、環境―河合正弘・アジア開発銀行研究所長(2/3)

八牧浩行    2010年10月12日(火) 5時14分

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アジア開発銀行の河合正弘・研究所長はインタビューの中で、中国が直面する課題として、インフレバブル、拡大する格差、深刻化する環境問題、3次産業の育成などを挙げた。

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アジア開発銀行河合正弘・研究所長はインタビューの中で、中国が直面する課題として、インフレバブル、拡大する格差、深刻化する環境問題、3次産業の育成などを挙げた。(聞き手・八牧浩行Record China社長)

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米国との間で人民元をめぐる確執があります。今は米国で、民主党の一部や保守派が中国からの輸入を抑制せよと要求しています。米中の間にはいろいろなパイプがあり大人の関係が維持されているように思いますが、いかがでしょうか。

中間選挙後にオバマ大統領が依然としてリーダーシップを取れるかが重要な点です。今までは、大統領は議会のなかにある保護主義を何とか押さえてきましたが、こうした状況が中間選挙後もつづけられるかどうか分からない。中国もそれは理解しているでしょうが、米国から言われてハイハイというわけにもいかない。

―中国は米国の言うことをそのまま聞かないですね。

基本的に日米関係と米中関係は違います。かつての日米関係では、米国は第二次世界大戦で日本に勝った西側戦勝国として日本の安全保障を担ってきた、戦後の日本の経済復興と発展を助けてここまで育ててきたという意識がある。そうした関係から、貿易問題や通貨問題で日本が米国の言うことを聞くのは当然だという潜在意識もあるようです。その一方で、中国は日本と違って米国に守られているわけではなく、政治体制は異なり、独自の軍事力を持ち、核兵器も持っている。大国としてのプライドがあり、米国のいうことをハイハイと聞くような国ではない。ただ中国としては、国際協調の中で経済運営を行うべきだという意識が徐々に強まっており、通貨面でも協調的な方向に向かっていくと思う。国内的に見ても、人民元を切り上げなければ、外貨準備が増大を続け、賃金が大幅に上昇し、それが物価インフレにつながったり、資産バブルになりかねません。

―中国のインフレやバブルを懸念する人は多いですね。

天安門事件の原因の一つはインフレの高進でした。事件の起きた1989年6月までの一年間の消費者物価の平均的なインフレ率は26%にもなった。中国はこれほど高いインフレになるとは思えませんが、インフレが高くなると社会的な不満や不安感が出てくるので、中国政府も警戒的にならざるをえない。インフレやバブルになるのはいやだということになると、うまく通貨調整を行い金融引き締めで対応していくほかない。

―中国が一番懸念しているのは国民大衆の不満が高まることですね。

人民元を大幅に切り上げると輸出減から経済成長が鈍化するので困るが、同様にインフレやバブルになるのも避けたいということです。主要都市では不動産価格が相当高くなっており、政権としても、これ以上の不動産価格の上昇は望まないところでしょう。

―国有企業にお金が蓄積されているらしいですね。格差が沿海部と内陸だけでなく、都市の中でも富裕層と貧困層の格差が出ている。解決のために、どのように見ていますか。

おっしゃるように、中国国内では社会的な格差が拡大しています。都市住民と農民との間の格差、沿海省と内陸省との間の格差、都市部の中では富裕層と低所得層の間の格差が大きな問題になっています。こうした格差を是正するには、包括的な政策が必要です。一つは、戸籍制度を自由化して、農民に自由に都市に移ってもらい、経済構造全体を農業部門からサービス・製造業部門に移していくことです。

―中国では第3次産業が育っていませんね。

質の高い第3次産業の育成が必要です。北京などの公園に行けば床屋さんがいますが、もう少し付加価値の高い形で理髪店をつくって沢山の客に来てもらえるようなことをやっていくこと。都市に移ってきている人たちのために医療・保健、教育、住宅などをサポートしたり、交通、上下水道、電気などのインフラを整備していくことが重要です。都市住民だけではなく、全国の人々に健康保険制度や年金制度が行き渡るようにしていくことも課題です。

日本では1961年に国民皆保険・皆年金制度が導入されましたが、中国でも医療・年金の国民皆保険制度を導入すべき時期にきていると思います。ただそれには財政資金が必要です。たとえば、国有となっている土地を人々に売却してそれを原資に保険制度の構築にあてることが考えられます。あるいは、国有企業に貯まりすぎている巨額の利潤を中央・地方政府が配当金としてうまく吸い上げて、それを社会インフラつくりや制度つくりの目的に使っていくのです。ただ国有企業は政治的にパワフルなのでこれはなかなか難しいかもしれません。

―民間企業がつぶれてそれを国有企業が吸い上げて肥大化していますね。

そうですね。今回の世界金融危機に対して中国政府は4兆元に上る景気対策を打ち出しましたが、その結果うるおっているのは国有企業です。アジア開銀研究所に国有企業の研究を行っている中国人の教授がいて、国有企業に勤めている従業員と非国有企業に勤めている従業員の給与水準を比べると、その差が非常に大きいという話をしています。今まで中国政府は国有企業を民営化してきたわけですが、本当にもうかっているところはなかなか民営化されていない。通信、エネルギー、金融など独占的・寡占的なところが多いので超過利潤が入ってくる。また、企業にとっては、賃金、地代、資金コスト、エネルギーコスト、環境保全コストが極めて低く設定されており、これも高い利潤を維持する上で役立っているようです。

―世界の企業のトップランキングに入っているのは国有企業が多いですね。

これから国有企業をどうするのか、中国政府は考えていく必要があると思います。国有企業はこれまで過剰な利潤を生みだして、それを必ずしも健全とは思われない投資にも振り向けてきていました。国有企業にはもっと公正な競争を促し、過剰利潤と過剰投資を抑制していくことが重要だと思います。

―中国、インドをはじめとするアジアの新興諸国が世界経済を引っ張って行かざるを得ませんね。

中国だけでなく、インドでも所得格差が広がっています。かつインドでは農村の規模が相対的に大きいので、農村開発を本気になって行い、農民の生産性と生活水準の底上げを図ることが最大の課題です。同時に、中国よりも時間をかけて、経済構造を農業からサービス・製造業にシフトしていくこと、教育・医療など社会部門の充実が必要で、そのことが社会格差をなくしていくことにつながります。ただ、交通・通信・エネルギーなど膨大な国内インフラ投資も必要で、世銀やアジア開銀、あるいは日本のJICA(国際協力機構)やJBIC(国際協力銀行)などの支援が必要です。インドの人口構成は若いので、長期的には中国よりも大きな潜在力をもっています。

また中国、インドでは環境問題も深刻化しており、それぞれの政策当局者が環境・公害問題を自分たち国民の生命や健康にかかわる問題だと認識して対応しつつあります。経済発展とともに拡大する、大気、河川、土壌の汚染は国民生活に大きな影響を与えます。環境・公害問題を解決しないと、社会的安定性が保たれません。日本では1960年代から公害問題に本格的に対処してきました。

―イタイイタイ病、水俣病、四日市ぜんそくなど深刻化しましたね。

日本では、メディアが市民の眼から産業公害を告発してきました。四大公害病をはじめとする各種の問題案件では裁判制度が利用されてきました。そうした経験を踏まえると、中国やインドではメディアの力を高め、司法制度の改革を行っていくことが有効だと思います。公害問題のしわ寄せは一般大衆ことに貧しい人たちに行くので、企業が責任ある行動をとるように法制度を整備して、厳格に施行していくべきです。やるべきことは山積しており大変ですが、これだけ成長しているのでやっていく余地は十分あると思います。

―財政的に貯まっているお金があるわけですから。

日本としては、中国やインドなどの環境問題に対して、技術やノウハウの面から支援できることが多くあります。エネルギー利用の効率化や環境保全型のビジネスモデルの促進など、日本は技術・ノウハウの面で補完的な役割を果たせます。(続く)

●「<インタビュー>中国膨張主義は脅威、「平和的台頭」目指せ―河合正弘・アジア開発銀行研究所長(3/3)」に続く。

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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