高野悠介 2021年5月28日(金) 15時20分
拡大
テンセントの楽天への投資が議論の的だ。日米の政府が情報漏れを警戒、監視を強めるべきという。写真はテンセントの店舗。
テンセント(騰訊)の楽天への投資が議論の的だ。日米の政府が情報漏れを警戒、監視を強めるべきという。楽天の三木谷社長は、“純投資”であるとして、これをきっぱり否定した。テンセントは事業会社であるとともに、中国を代表する投資機構の1つである。ここでは、テンセントの投資戦略について、中国ネットの記事から分析しよう。議論の参考となるはずである。
■テンセントの収益構成…主要4部門+投資
テンセントは1998年11月、馬化騰(ポニー・マー)ら5人の若者により、深センで設立された。ゲームとコミュニケーションツールを看板事業として発展、今やアリババを抜き、株式時価総額の中国トップ、世界7位(2021年4月末)の巨大企業である。
2020年の売り上げは4821億元、前年比28%増、利益は1598億元、前年比71%増だった。部門別の売り上げと構成比は以下の通り。
ゲーム…1561億元、32.3%
SNS…1081億元、22.4%
広告…823億元、17.0%
金融・企業サービス…1281億元、27.0%
ゲームの構成比は年々減少している。2017年は41%だった。その結果、現在では、主要4部門のバランスが取れている。さらに決算書には、投資による収入が695億元(約1兆1800億円)ある。
■投資部門を率いる“最強の軍師”
2020年1月、テンセント総裁・劉熾平は、テンセントの投資先は800社を超え、そのうち70社が上場を果たし、ユニコーン企業(企業価値10億ドル以上のベンチャー)は160社以上、と明らかにした。
そして2020年は168件、478億元(約8100億円)の新規投資を行った。これにより、投資企業は国内外1000社、上場は100社となり、ダブルで大台に乗せた。
劉熾平は1973年、北京生まれの香港人。米国ノースウエスタン大学経営大学院で修士を、ミシガン大学の電子工程、スタンフォード大学の電子工程でそれぞれ学位を取った。その後香港で、マッキンゼー&カンパニー、ゴールドマンサックスで勤務する。ゴールドマンサックスでは、アジアの電気通信、メディア、ハイテク部門の投資責任者を務めた。ゴールドマンサックス在籍中の2005年、劉熾平はテンセントの香港市場上場を手掛ける。このとき馬化騰は彼の才能を高く評価、スカウトした。ポジションは、戦略、投資、M&A、広報を担当する首席戦略投資官だった。以後、馬化騰の“最強の軍師”と呼ばれる。
■“神秘的部門”の戦略
劉熾平は2008年、騰訊投資を立ち上げ、投資業務を本格化させた。10人でスタートし、現在は70人、北京、上海、深セン、香港にオフィスを持つ。その大成功によりテンセント社内の“神秘的部門”とされている。投資理念は以下の通り。
1.戦略は“不変”、方向は“変”…戦略的に投資先を選定する。ITスタートアップ企業の多くは短期収益が望めない。テンセントのエコシステムにアクセスすることで、間接的な企業価値上昇を図る。
2.長期の投資価値を重視…初期投資、晩期投資の区別なく、将来大きな価値を見込めるかを重視。
3.優秀な創業者をサポート…持ち株比率は10~30%にとどめ、創業者に意思決定をゆだねる。ただし、SNSやコンテンツ作成など、テンセントの“核心領域”では、買収合併も排除しない。
4.世界的視点…海外投資を活発化。
5.リターン重視…年間利回り目標30%。高すぎる買い物はしない。
■主要投資先(ゲーム以外)
“核心領域”ゲーム関連会社への出資では、世界的に業界支配を強める明確な意思が見て取れる。ここではゲーム以外の主要投資先を見てみよう。
中国国内
京東(JD)…総合通販、自社物流に強み。
拼多多…共同購入型総合通販。
美団点評…フードデリバリー、シェアサイクル等、生活総合サービス。
知乎…Q&Aアプリ、3月末、米国市場へ上場。
Bilibili…オンライン視聴、動画共有。アリババも出資。ソニーと提携。
滴滴…配車アプリトップ。2021年上場か。
捜狗…検索エンジン。
快手…ショートビデオ2位、TikTokのライバル。
58同城…不動産、求職サイト等、生活総合サービス。
虎牙直播…オンライン視聴。
喜馬垃雅FM…音声コンテンツ。
貝殻…オンライン不動産売買。
同程芸龍…オンライン旅行。
猿輔導…オンライン教育。
丁香園…オンライン医療、健康科学。
蔚来(NIO)…EV。
途虎養車…オンライン自動車整備。
海外
テスラ…2017年、5%取得。
スナップチャット…2017年、12%取得。
Reddit(レディット)…2019年、3億ドル出資。
スポティファイ…2018年、上場子会社テンセント・ミュージックと株式持合い。
ユニバーサルミュージックグループ…2019年、10%取得。
Go-Jek…インドネシのア配車アプリ。2018年、12億ドル出資。
See…シンガポールのネット通販Shopeeの運営会社、39.8%出資。
■東南アジア市場優先か
小売事業はテンセントにとって“準”核心領域といえるだろう。それでは楽天への出資3.65%はどう捉えるべきだろうか。成長市場の東南アジアで、アリババと激しく争うSeeへは40%近く出資している。今月、インドネシアでは、Go-Jekと、アリババ出資のネット通販Tokopediaの合併が発表された。市場は激動している。最優先課題は、東南アジアでの勢力圏構築だろう。
成長性に乏しい日本市場、さらに技術的アドバンテージがあるわけでもない楽天に、高い戦略的重要性があるとは思えない。むしろ楽天の海外進出を、封じた感がしないでもない。残念ながら、日米政府が心配するほど、楽天と日本市場の投資価値は高くない、というのが実情ではないだろうか。
■筆者プロフィール:高野悠介
1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。
この記事のコメントを見る
Record China
2009/12/24
2020/9/9
2019/10/4
2018/11/7
2021/1/30
2021/5/22
ピックアップ
we`re
RecordChina
お問い合わせ
Record China・記事へのご意見・お問い合わせはこちら
業務提携
Record Chinaへの業務提携に関するお問い合わせはこちら
この記事のコメントを見る