<海峡両岸ななめ読み>(8)「観光客はミタ」北京編2〜「内なるアメリカ化」の始まりか

Record China    2012年8月19日(日) 10時27分

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前回のコラムでは進展する北京の大衆消費社会化を紹介しながら、その影の部分をも描写した。今回、テレビ番組の分析や芸術空間探訪などを通じ、北京での市民レベルでの「対外」感覚を探りたい。写真は湖南電視台のお見合い番組「我們約会●(口へんに巴)」の一コマ。

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前回のコラムでは進展する北京の大衆消費社会化を紹介しながら、その影の部分をも描写した。今回、テレビ番組の分析や芸術空間探訪などを通じ、北京での市民レベルでの「対外」感覚を探りたい。

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▽ストレートなお見合い番組

一見無関係な話題からの導入で恐縮だが、筆者は日本でも外国でもテレビを比較的見る方である。筆者の回りのいわば知的階層に属する友人たちはテレビを見ない人の方が多いので、筆者は珍しい部類に入るだろう。

 

そんな筆者にとって中国でも参ってしまったのは、ロンドン五輪である。代表的なテレビ局の中央電視台は始終中国選手を中心に実況し、朝のニュースも30分以上かけて報道する。まあこれは日本国内でも同じなのだが、こういう状況下ではテレビというメディアの眼目である日常性というものを測ることが難しくなる。

 

幸い日本と違って中国ではチャンネルは60〜100くらいある。「あれ? 情報統制が進んでいるはずだが…」と思われる向きもあるかもしれないが、中国では中央電視台以外に、地方局が衛星を飛ばして中国全土で視聴が可能。いわば日本のローカル・ノンキー局が衛星局になって東京でも視聴可能になった事態を考えてほしい。「社会主義市場経済」化の賜物ではあるが、こうした地方局の中には利潤追求の目的もあって思い切った番組を作っているところもある。

 

米「アメリカン・アイドル」の中国版である「超級女声」で一躍有名になった湖南電視台もその一つ。今回筆者はホテルでザッピングをしているうちに同局のお見合い番組「我們約会●(口へんに巴)」(デートしましょう)という番組を見つけた。実は似たような番組を作っているのは浙江電視台などもあるのだが、湖南電視台のこの番組はエグいほどにストレートなのだ。

 

この番組では結婚を前提にした相手を探したい男性が一人登場し、30人もの独身女性が次々と質問を浴びせていく形式なのだが、これが本音丸出しで、日本の一昔前の「パンチDEデート」などを想定していては面食らう。

例えば大学で数学教師をしている33歳の男性は、学術関係者らしく世間におもねらず、いわば清貧の中でも自分らしく生きていくことを主張したが、この男性に対しある独身女性が「新居は購入するつもりはあるんですか?」と質問。「ない」と答えた男性に「今時新居もなくて嫁さんの来手があるわけないじゃない!」とバッサリ。こうした応答の過程で他の女性も男性に☓印をつけていくわけだが、その理由を聞かれると「容姿も性格もとんでもなくて全くワタシ好みじゃない」と手厳しい。結局この男性を選ぶ女性は一人もいなくなってしまった。

この手の番組以外でもプロの歌手と全くの素人がともに出演して歌声を競う番組などもあったが、一連のこうした地方発の番組を見ているうちに思い出されたのが米国のテレビ番組、特にFOXテレビのそれだ。テレビ番組には輸出用フォーマットというべきものも存在するので、そういうものを利用している可能性もあるが、いずれにしても中国人特有のストレートな部分がこうした米国スタイルにも促されて強く出ているという感じを受けた。そういえばこれは伝聞だが、中国の最近の学術エリートによる討論が米国のそれに酷似しているという指摘もある。日本社会では高度成長後、生活のアメリカ化が進み、1960年代以降「内なるアメリカ化」が始まったとする言い方があるが、これに基づけば中国でもついに2000年代以降本格的に「内なるアメリカ化」が始まったといえるかもしれない。

▽今回の旅の本当の目的は…

ところでそれほど強いモチベーションを持っては臨まなかった今回の北京滞在ではあるが、当然テレビ鑑賞が主たる目的ではない。いちおう探れればいいなあと思っていたのは、この連載の趣旨とも関係するが、中国の市民レベルあるいは若年層レベルでは台湾をどのように捉えているのか、また当局系あるいはそれに近いレベルでは建前はともかくとして本音レベルでは、事実上実効支配の及んでいない地域として、どのように台湾の近代化過程を参照し、自らの参考あるいは反面教師にしようとしているのかという点にあった。

 

残念ながらこれらの点についてはそう大きな成果は得られなかったかもしれない。ある文化人系列の集まりで、これらの疑問点を思い切って口にしてみたのだが、ふっと「はっきりとは答えにくいなあ」というような空気が流れたのでそれ以上は触れることはしなかった。文化人なら庶民とは違い台湾関係で何らかの考えを持つことは想定される。しかしそれを口にするとやや敏感な問題に触れざるを得ない―という判断だろう。何人かの発言を自分なりに解釈すると中国と台湾の発展過程を同等に扱っていくには「まだちょっと早い」という反応であったようだ。

 

では文献レベルではどうかということでいくつかの書店、図書館をめぐってみたが、当然のことながら、中華人民共和国、共産党の見解を超えるものは出ていなかったが、逆にどのへんが「限界」なのかはよく分かった。例えば台湾において70年代末以降の民主化に関する記述は、時に韓国と対比されながらなされているが、それについても極めて「客観的」な筆致で展開されておりよく研究されていることはわかるものの、中国自身との比較という視点は当然ながら敏感なところに触れざるをえないだけに欠落していた。このあたりはもう少し中国国内の研究者と個別の人間関係ができていけばあるいは深い次元を聞きだせるかもしれないが、それにしても記述としては無難なものにならざるをえないだろう。

 

 市民、あるいは若年層レベルではどうかということだと今回は一部の若年世代とはお会いする機会はあったものの、サンプル数がまだ少ないので今後増やしていくよう検討したい。運動関係、NGO関係者の中には70年代末以降の台湾の変動を大きく意識している人もいるようだが、一般レベルの市民や若年層だとまだまだそこまではないようである。ただ北京編1で書いたように旅行ガイドなども台湾関連のものが多くではじめているし、地下鉄の中で台湾旅行経験者が「台北では地下鉄のことを「捷運」(『捷』は音訳でジェットの意味)ていうんだよね。うまい表現だね」などと屈託なく話しているのを耳にした。こうしたところから見れば徐々に関心が高まりつつあるともいえるかもしれない。このへんを探っていくにはやはり中国国内のネット空間を手始めにしたほうが良さそうだ。

 

▽芸術空間ようやく探訪

 最後に書いておきたいのは、筆者としては初めて、北京市内東北部、いわば市内中心部と空港の中間に位置する複数の芸術空間を訪ねたことである。以前から、拡大著しい北京においては既に発展が飽和状態になっている中心部よりは、郊外のほうが外来人口も含めて人間的に面白い層が存在している、とは指摘されていた。特に市内東北部のこの地域はそう言われており、筆者としても長年行きたかったところだったので、今回訪問が実現して本当に良かったと思っている。

 

 郊外で最近韓国人人口の増加著しい望京という街を経由して最初に向かったのは「798芸術区」である。ここは中国関連の人の間ではあまりにも有名なところであり、その数字の名前が示すように国有工場の並ぶ地域であった。しかし改革開放とともに経済構造の転換が進む中で、国有工場としての需要が徐々に減っていったことがこの地域の芸術区への転換を進めたということは間違いなさそうだ。こうした転換ぶりが中国内外で話題になり脚光を浴び続けてきたが、近年は商業化し過ぎではないかとの批判もある。

 

 筆者が訪ねた際はたまたま写真関連の施設を中心に巡っていたが、最近の日本における「カメラ女子」同様に、一眼レフをぶら下げた二人組以上の女子高生または女子大生世代が目立った。展示場はもともとの生産施設を利用しているせいもあってだだっ広いところが多く、中には国有企業時代の生産機械をそのまま展示してあるところもある。798に関しては多少は日本の影響や進出しているギャラリーなどもあるようだが全体的には欧米の影響のほうが強いようだ。

 

 798を後にして次に向かったのは、もう少し地味な、言い換えれば、まだそれほど商業化されていない芸術区「草場地」である。ここではたまたま、アラーキーこと日本の著名写真家である荒木経惟氏の個展が開かれていた。中国ということもあって、アラーキーワールドも全開というよりは若干抑え気味であったが芸術性の高い次元の写真に関してはほぼ全開であったといってもいいだろう。北京でアラーキーの世界に遭遇するとは思ってなかったが、荒木氏のある意味ラディカルな世界を求め、受け入れる懐の深さというものも感じた。

 

 以上北京再訪に関しての実感を綴らせていただいたが、一週間強でもまだまだ物足りなさがあり、文字通り「ななめ読み」となってしまったところもあるかもしれない。次回以降はもう少し腰を据えて取り組みたいという気もしている。

(本田親史/国士舘大アジア・日本研究センター客員研究員<PD>)

●写真一枚目=湖南電視台のお見合い番組「我們約会吧」の一コマ、二枚目=798芸術区の入口。

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