<コラム>韓国の正月の風物詩「ゴーストップ」、日本の花札から発展

木口 政樹    2019年1月4日(金) 21時40分

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韓国で「ゴーストップ」を知らない人はいない。最近は、ひところと比べてあまりゴーストップの話を聞かなくなったが、しかしやはり依然としてゴーストップは盛んだ。資料写真。

今の子どもたちは花札というものを知っているだろうか。ゲーム機の任天堂が、実は花札の会社だったということを知る子どもはあまりいないだろうと思う。小学校のころ、冬休みに入る前のある日、学校帰りに祖母のお使いで任天堂の花札を買って帰ったことが懐かしく思い出される。今回のテーマはこの花札である。

韓国で「ゴーストップ」を知らない人はいない。最近は、ひところと比べてあまりゴーストップの話を聞かなくなったが、しかしやはり依然としてゴーストップは盛んだ。お正月やチュソクなどの名節のときになると韓国での風物詩といった趣きがある。わたしはこちらへ来たてのころ、ゴーストップが何なのかわからなかった。日本から伝わった花札を使ったゲームのことだと知ったのは、だいぶあとになってからだった。ゲームの途中で「ゴー」といったり「ストップ」といったりするところからその名がついたようだ。

花札は日本と同じものであるが、「ゴーストップ」という遊び方は日本の花札遊びの「こいこい」を韓国式に変形させたものだ。このゴーストップ、わたしのかみさんが達人である。いつかのチュソクのとき、2番目のおばさん(韓国語でコモ)の家に親戚連中が集まり、夫婦、家族単位でゴーストップをしたことがある。1点に100ウォン(約10円)だったかをかけてやった。非常に興奮するものだとその時はじめて知った。

声をはりあげ、手をたたき、足をドンドンならし、相手をたたき、歌をうたい、怒り、とその場はまさに修羅場のような様相を呈し興奮のるつぼと化していた。

この家の主人である2番目のコモは、このゴーストップがめちゃくちゃ好きで、人が集まるといつも「あれ、やろう」と言っていたものだ。わたしら夫婦は、なにせかみさんがほとんどプロの域である。勝ちつづけてしまった。7、8時間ぐらいぶっ通しでやり続けていたような気がする。

結局いちばん勝った我々夫婦が、ジャジャンミョン(ジャージャーメン)などを出前で頼み、親戚連中にふるまうことになった。忘れられない思い出である。

ゴーストップは韓国では知らぬもののないゲームであるが、ルールが地方によってすこしずつ異なっているそうだ。それで全国統一案というのもあったりして、最近ではインターネットで見られるそうである。

花札の中の雨の20点、1人の男性がかさをさして柳の木のそばを歩いている絵がある。その足もとにはカエルが飛びはねようとしている。この絵、ご存知の方も多くいらっしゃると思うけれど、実は書家として有名な小野道風という約千年前の書道家をモチーフにした絵である。

道風がまだ大家として名を成す前、書道の練習に励んでいたが、スランプに陥ったことがあった。雨の降る日であったが、散歩にでも出かけようとして傘をさして外に出た。歩いていくと柳の木の枝がしなって地にも届くほどであった。見ると、小さなカエルが柳の枝に飛び付こうとして何度も飛んでは落ち、飛んでは落ちを繰り返していた。こんな小さなカエルさえ、こんなに努力しているじゃないか。人間である自分がさらにがんばれない理由はない、と決意を新たにして家に戻り、精進を続けたすえ、後世に残る書道の大家となったというエピソードを絵にしたものであるという。

韓国の人にこの話をすると、みな感心して聞いてくれる。花札もそう捨てたもんでもないね、ということであろう。花札に関しては、家庭で楽しく遊ぶのは問題ないけれど、ときおり花札賭博団が逮捕されたというニュースが流れたりする。主婦らが10人20人と手錠をはめられて連行される光景が花札事件の定番だが、これはあまり感心したものではない。何年かに一度のサイクルで見られる情景だけれど、筆者がこちらへ来て3回以上は見たと思う。つまり10年に一度ほどのサイクルということか。

花札は韓国語の発音は「ファットゥ」。漢字で書くと「花闘」となる。日本の植民地時代(1910~1945)に日本から入ってきたものである。絵もほとんど同じだが、1点だけ違っているところがある。それは、20点札5枚の右下に直径1センチぐらいの「光」という字が丸囲みでついている点である。同じようでいて違っているものを見るのは、どこかユーモラスで愉快なものである。

■筆者プロフィール:木口 政樹

イザベラ・バードが理想郷と呼んだ山形県・米沢市出身。1988年渡韓し慶州の女性と結婚。元三星(サムスン)人力開発院日本語科教授、元白石大学校教授。趣味はサッカーボールのリフティング、クラシックギター、山歩きなど。著書に『おしょうしな韓国』、『アンニョンお隣さん』など。まぐまぐ大賞2016でコラム部門4位に選ばれた。

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