<直言!日本と世界の未来>実感に乏しい「戦後最長の景気拡大局面」=米中経済への依存も懸念材料―立石信雄オムロン元会長

立石信雄    2019年2月3日(日) 5時50分

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今の景気拡大局面が今年1月で74カ月に達し、戦後最長を更新したとみられるとの政府判断が示された。雇用環境が好転し、6年を超す息の長い成長が続いているが、可処分所得の減退などにみられるように、実感に乏しく、課題も多いと思う。

今の景気拡大局面が、2012年12月から始まって以来今年1月で74カ月に達し、戦後最長を更新したとみられるとの政府判断が示された。雇用環境が好転し、6年を超す息の長い成長が続いているが、可処分所得の減退などにみられるように、実感に乏しい。労働生産性の停滞、財政・金融刺激策への依存など課題も多いと思う。

今回の景気拡大局面の実質国内総生産(GDP)平均成長率は1.2%。実質成長率は、平均11.5%だった1965~70年のいざなぎ景気や、同5.3%だった86年~91年のバブル景気には遠く及ばない。人口減少、少子・高齢化など成長制約要因を抱える日本の潜在成長率は1%弱にとどまっており、ここから成長力を引き上げるには労働生産性を上げていくしかない。

今回は第2次安倍内閣の発足と同時に始まり、株価や雇用が好転した。経済人としては歓迎すべきことだが、景気拡大を通じて国民がどれだけ豊かさを実感できるようになったか―が重要である。

雇用が増えたのは、人手不足を補うため採用された低賃金の非正規社員が増えたことが主因とみられる。勤労統計の不正が修正され、昨年1~11月分の賃金の伸び率が縮小。正社員も含めた1人当たり賃金は、景気拡大前に比べ物価変動を除いた実質で約3%も減った。

戦後最長の景気拡大は、日銀の金融緩和に伴う円安・株高など財政・金融面の刺激策と、好調な海外経済に支えられた面が大きい。この6年間は米国と中国という世界第1、第2位の経済大国がそろって成長し、好調な世界経済の恩恵が企業業績の回復や雇用改善に貢献した。

頼みの海外経済にも陰りがみられる。18年の中国の実質成長率は6.6%と28年ぶりの低い水準に鈍化した。IMFの最新見通しによると、19年、20年はともに6.2%に減速。米国景気も大型減税など財政刺激策の息切れや、米中貿易戦争の影響などで同年は2.5%にとどまり、19年には1.8%に減速する。ちなみに日本の19年の成長率見通しは1.1%、20年には0.5%と低迷する。

景気拡大局面がいくら続いたとしても、賃金が伸び悩めば、国民の多くは「好景気」と実感しにくい。日本は現在、高齢化と人口減少に直面している。企業が賃上げに慎重なのは、国内市場の縮小を見越して事業の拡大に後ろ向きだからだ。戦後の高度成長期は賃金も自然と右肩上がりだったが、今は企業が稼いだ利益を内部留保の形で貯めこむエースが多く見られるが、できるだけ社会に還元するように努めなければ経済全体の底上げにつながらない。

財政・金融政策ともに、次の景気下降局面では刺激策の余力が限られることだ。08年のリーマン危機後は中国をはじめとする主要各国が大型景気対策をとって危機を脱したが、次に世界経済の下降局面が来ても、中国や日米欧にも景気対策の余力は10年前ほどはない。特に日本は超低金利政策と大幅財政赤字が続き、対策手段が限られる。

日本が取り組むべきは中長期的な成長力強化のための投資や構造改革だ。政府も企業が賃上げしやすい環境を整えるべきだ。イノベーションの推進などで企業の生産性向上を後押しする必要がある。戦後最長景気の更新は実感に乏しく、脆弱である。逆風が来ても倒れないようにする日本経済の体質強化が今こそ重要だろう。

<直言篇79>



■筆者プロフィール:立石信雄 1959年立石電機販売に入社。1965年立石電機(現オムロン株式会社)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。 日本経団連・国際労働委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC)会長など歴任。「マネジメントのノーベル賞」といわれるSAM(Society for Advancement of Management)『The Taylor Key Award』受賞。同志社大名誉文化博士。中国・北京大、南開大、上海交通大、復旦大などの顧問教授や顧問を務めている。SAM(日本経営近代化協会)名誉会長。公益財団法人・藤原歌劇団・日本オペラ振興会常務理事。エッセイスト。

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