<コラム>中国国家鉄路集団が1兆5600億円の大損失!

内藤 康行    2020年10月25日(日) 10時10分

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今年上半期の中国国家鉄路集団の営業利益は4000億元(約6兆3000億円)を超えたが、1000億元近くの損失を出した。それはなぜか?写真は中国の鉄道駅。

今年の「ブラック・スワン(新型コロナ蔓延)」(※)の影響で、世界の経済活動は急激に落ち込み、大企業であれ中小企業であれ、経営に大きな影響を与えた。世界最大の石油会社であるサウジアラムコでさえ、初めてとなる収益急落を経験した。 更に、海外投資プロジェクトでは「一時停止のボタン」が押された。この異常な時期に、業界の巨人は投資を削減し、すでに寒冬期を乗り切る準備を始めている。※「ブラック・スワン」とは事前にほとんど予想できず、起きたときの衝撃が大きい事象のこと。

世界に目を移すと、本年上半期の英国BP、ロイヤルダッチシェル、米国のエクソンモービルなどの大手石油会社なども程度の差はあれ新型コロナ禍で業績低下し、損失を出している。

中国の二大石油企業も例外ではない。本年上半期では500億元(約7871億円)以上の損失を出しており、「ブラックスワン」到来と石油価格の急落によるダブルパンチを受け、業績は惨憺たるものとなった。シノペックやペトロチャイナに加えて、この二大石油企業を遥かに超える955億元(約1兆5900億円)もの損失を出したのが、中国最大の中央政府系企業「中国国家鉄路集団」である。

■中央政府系企業グループ 「中国国家鉄路集団」が955億元の大損失

現在100を超える中国内の中央政府系企業グループの中で、トップを走るのが中国国家鉄路集団である。登録資本金は1兆7300億元(約27兆円)で、総資産額でも20兆元(約314兆円)を超える資産総額最大の中央政府系企業である。

すでに公開されている資料では、中国国家鉄路集団は、大型国有独資企業で、部庁(省庁)級の中央政府系の大企業でもある。前身は中国鉄路総公司で、昨年6月正式に中国国家鉄路集団として再編された。 ここで重要なのは、中国国家鉄路集団は204万人の職員を抱え、単純に職員数で見ても中央政府系企業で最大で、まさに「数ある中央政府系企業グループでトップ中のトップ」である。

中国国家鉄路集団は4000億元(約6兆3000億円)以上の収益を上げながら、本年上半期たった6カ月で955億元(約1兆5600億円)もの損失を出した。中国国家鉄路集団が発表した「業績レポート」によると、中国国家鉄路集団は本年上半期4039億元(約6兆4000億円)の営業利益を達成したものの、前年同期比で1200億元(約1兆9000億円)以上の収益減となっている。純利益の観点から、上半期で損失額955億元(約1兆5600億円)を出した理由は、「収入減」と「支出増」である。

■中国国家鉄路集団の収益が大幅減少

本年上半期の中国国家鉄路集団の営業利益は4000億元(約6兆3000億円)を超えたが、1000億元(約16兆円)近くの損失を出した。それはなぜか?中国国家鉄路集団の財務報告によると、上半期の損失は紛れもなく、本年初頭に発生した新型コロナの影響によるもので、鉄道乗客数が激減し、貨物やケータリング、輸送などのその他事業の収益も減少したことにある。

本年第1四半期を振り返ると、当時は新型コロナ流行でほとんどの人が外出をひかえたことで、鉄道利用客数が激減、その結果、中国国家鉄路集団の乗客収入は50%以上も減少、前年同期の半分以下の減収となっている。更に追い討ちをかけるように、同集団の貨物部門の収入は、比較的影響が少ない上半期に3%近く減少し、非輸送部門の収入も100億元(約1574億円)以上も減少している。収入の減少は乗客数減少が主因であったことがわかる。

■職員204万人以上が賃金カット

中国国家鉄路集団は全国で204万人以上の職員を抱えている。新型コロナ流行期間も、賃金の支払いが続き、莫大な支出負担が経営を圧迫する形となった。204万人の職員の賃金支払いでは、国営企業と中央政府系企業だからこそ、その負担保障ができるが、民間企業でこのような莫大な賃金支出の負担保障は不可能である。現在、中国国家鉄路集団は経費削減と損失額の低減のため、子会社に対し、実情に照らし職員の賃金を減額するよう求める通知を出している。

■鉄道網と高速鉄道網建設投資が重圧

中国国家鉄路集団はまた、中国全土の鉄道網と高速鉄道網の建設投資を担当しており、本年上半期には1800億元(約2兆8000億円)以上のインフラ投資をしている。そのうち700km以上が高速鉄道網の投資だ。専門家によると、中国の高速鉄道1km当たりの建設コストは1億3000万元(約20億円)が掛かり、700km建設では900億元(約1兆4000億円)以上に達する。この巨大投資も収益減少と経営資源の圧迫の一要因となっている。

■筆者プロフィール:内藤 康行

1950年生まれ。横浜在住。中学生時代、図書館で「西遊記」を読後、中国に興味を持ち、台湾で中国語を学ぶ。以来40年近く中国との関わりを持ち現在に至る。中国の環境全般と環境(水、大気、土壌)に関わるビジネスを専門とするコンサルタント、中国環境事情リサーチャーとして情報を発信している。著書に「中国水ビジネス市場における水ビジネスメジャーの現状」(用水と廃水2016・9)、「中国水ビジネス産業の現状と今後の方向性」(用水と廃水2016・3)、「中国の農村汚染の現状と対策」(CWR定期レポ)など。

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