<令和新時代>人口減少社会を乗り越えるために=社会主義的“ぬるま湯”からの脱却を―若い世代の起業に期待

八牧浩行    2019年6月5日(水) 8時40分

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「平成」から「令和」へ改元され、新天皇・皇后陛下に多くの国民が期待を寄せる。平成時代から続く人口減少と世界的な保護主義・ポピュリズムの蔓延といった厳しい内外情勢が継続するのは必至、経済再建へ官民の不断の努力が求められる。

元号が「平成」から「令和」へ改元され、新天皇・皇后陛下に多くの国民が期待を寄せる。平成時代から続く人口減少と世界的な保護主義・ポピュリズムの蔓延といった厳しい内外情勢が継続するのは必至、経済再建へ官民の不断の努力が求められる。

◆平成の30年、処方箋を見いだせず

平成の30年強、成長鈍化や人口減社会という新たな課題への処方箋を見いだせなかった。1人当たり国内総生産(GDP)、国際競争力などほとんどの指標で日本の地位が急降下、人口減少や格差拡大などの問題が深刻化し、財政赤字が膨らんだ。大きな災害に見舞われたとはいえ、反省の上に、豊かな令和時代に繋げなければならない。

株式時価総額ランキングをみると、平成元年(1989年)には世界の上位20社のうち、NTTを筆頭に14社が日本企業だったが、今はゼロ。トヨタ自動車の41位が最高で、上位層は米国や中国のデジタル企業が占める。

マクロの経済指標でみても、89年には世界4位だった日本の1人当たりGDPは2018年には26位まで下落した。日経平均株価も1989年末に付けた3万8915円をピークに下落、30年後の今も半値強の水準にとどまり、日本はかつて世界に誇った豊かさを失いつつある。

原因として指摘されるのは長期の人口減少とデフレ経済だが、それだけではない。人口減が全体の経済規模にマイナス影響を与えるのは事実だが、絶対的な制約ではないように思われる。例えば人口がほとんど横ばいだった中国は最近まで2桁の経済成長を実現してきた。人口が増加しない中でも、工夫次第で高成長は可能である。

◆人口減少社会をどう乗り越えるか

昭和は悲惨な戦争と戦後の高度成長の記憶とともに歴史に刻まれた。焼け野原から世界も驚く復興を成し遂げ、昭和の終わりには製造業の技術力と価格競争力で米国を脅かす状況すら生まれた。

その後、バブル経済の熱気が社会のひずみを際立たせた。1990年代に日本が直面したのは、バブル崩壊の後遺症といえる金融機関の不良債権問題や長期デフレ、冷戦後の国際政治の激動という現実だった。グローバル化の進展に伴って日本は産業構造を変え、成熟国家として社会の形を見直す必要に迫られた。しかし政府も企業も過去の成功体験を引きずり、痛みを伴う改革を先送りした。国際的な地位低下と財政の悪化に、有効な手を打つことができなかった。

「失われた30年」は平成時代にほぼ重なる。最大の試練は、人口減社会の到来。少子高齢化で人口が急減する恐れは早くから指摘されていた。しかし若年層の雇用や所得水準はむしろ悪化し、出産や育児、教育への支援策も後手に回った。

日本の総人口は2008年をピークに減少に転じた。厚生労働省は今年1月、40年の国内の就業者数について17年比で20%減る可能性があるとの推計を公表した。政府は外国人の受け入れ拡大に動き出したものの、人手不足が成長の阻害要因になり始めている。

日本は2010年に経済規模で中国に抜かれ、その差は現在では3倍規模に拡大した。欧米では「米国ファースト」を標榜するトランプ政権に象徴されるポピュリズムと自国中心的な流れが主流になりつつある。日本は先進民主国家として、法の支配や自由貿易、最先端の科学と文化を通じ、世界で存在感を高めていく戦略と努力が重要だ。

◆「敗北」脱皮へ企業活力回復を

平成時代の経済低迷の背景として企業の活力の低下が挙げられる。日本企業が世界をけん引する新製品や新サービスを生み出せなくなって、企業と経済の成長が止まり、日本の地盤沈下が進行した。戦後の荒廃から立ち上がり急成長した日本企業も、徐々に保守的な組織になったと指摘される。経済同友会の小林喜光氏は平成時代を「敗北の時代」と厳しく分析。多くの企業経営者が“進取の気性”を失いリスクを取らなくなったことが原因との見方もある。

リスクを取ることが会社にとって必要だとわかっていても、共同体型組織のなかで「失敗」を恐れる意識が経営者を保守的にさせる。このような意識は経営者だけでなく、一般社員の間にも充満している。リスクを取って積極的にチャレンジできる企業構造に変革しなければ、令和時代になっても平成の「敗北」はそのまま持ち越されるだろう。

財政健全化への取り組みは何度も先送りされた。消費税は1989年4月に税率3%で導入されたが、税率引き上げは思うように進まなかった。政治は増税の先の将来ビジョンを示せず、国と地方の債務が1千兆円を超えた。一方で社会保障制度改革は遅れ、医療や介護、年金などの歳出膨張に歯止めがかかっていない。

◆日銀が“株購入”、上場企業の半数で大株主に

株式市場では日銀の上場投資信託(ETF)購入が日常茶飯事となり、上位10位以内の株主を指す「大株主」基準では、上場企業の半数で日銀が大株主になった。公的年金の日本株保有も合わせると、公的資金が株価を支えている構図で、業績にかかわらず株価は下がりにくい。市場原理が働きにくい市場は社会主義的で、経営者の多くは安穏としており、経済が活性化するはずはない。

今世紀初めは日本企業の技術革新に加え、小泉政権の構造改革が生産性を向上させた。不良債権処理や公共事業の大幅削減といった痛みを伴う改革や、派遣労働の規制緩和などを進めた小泉政権に対し、安倍政権の経済政策はポピュリズムに他ならない。人手不足が深刻化しているのに公共事業を積み増し、財政赤字が増える中で幼児教育などを無償化。加えて消費増税延期論もくすぶっている。

一方で社会保障改革や岩盤規制に大ナタを振るう気配はみられない。大胆なのが金融緩和だけでは、生産性は上がらない。痛みを伴う改革は格差を生み、敗者からは恨まれる。それをしないから政権は安定しているが、日本経済は生産性の低下というツケを払っている。

◆優秀な起業家出でよ

平成時代には、95年の阪神大震災、2011年の東日本大震災など大規模な自然災害が相次いだ。今後首都直下地震や南海トラフ地震などがいつ起きるかは分からない。度重なる災害と復興で得られた教訓を、今後の防災や減災に生かしていく努力が必要だ。

「平成の桎梏」から抜け出し、令和を活力あふれる時代にするカギは、若い世代の活躍だ。特に今後の成長の核になるデジタルやAI(人工知能)の領域で、優秀な起業家が多く輩出されることが、日本経済再出発の条件といえよう。

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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