<コラム>君主を説得することは難しい

海野恵一    2019年6月26日(水) 21時20分

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君主を説得することは難しい。それは君主を説くに相応しい知識を身につけることが難しいのではない。また弁舌爽やかに自分の意見をはっきりと伝えることでもない。さらに自在に弁じたてて言いたいことを全て言い尽くすことが難しいのでもない。写真は東京。

前回は生まれたままの心と善悪の判断基準について話をしました。その前の回では善悪の判断はあなたが決めるのではありませんということをお話しました。決めるのは相手の人であり、あなたではないと言いました。昨日、私の運営している海野塾では韓非子を講義しました。メルボルン大学のDavid Holm教授の大学院での講義の内容を解説しました。その中の説難(ぜいなん)の一説で、韓非子は以下のようなことを言ったのです。

君主を説得することは難しい。

それは君主を説くに相応しい知識を身につけることが難しいのではない。また弁舌爽やかに自分の意見をはっきりと伝えることでもない。さらに自在に弁じたてて言いたいことを全て言い尽くすことが難しいのでもない。その難しさとは、相手の心を読みとった上で、自分の意見をそれに当てはめることができるかにあるのだ。

この相手の心を読みとることすら、できない人が多いのです。私も最近、ある偉い方からそうした指摘を暗に受けて、ハッと気が付きました。相手の立場とか相手の心理を全く読んでいなかったのです。それで、私の提案はだめだったと勝手に解釈していました。私に指摘をした方は私の勝手に考えている姿勢を批判してくれました。70過ぎても、こうしたことがあります。しかもこうしたことを教えている立場にあるにもかかわらず、こうした過ちを犯します。ですから、若い方はもっとその可能性が高いはずです。今回は更に話を進めて、自分の対応する心の状態についてお話をします。

対応する相手によって心が動いてはいけません。

四書五経の「大学」に次のような言葉があります。

人は家族や親族に対しては、その愛情に溺れて偏った判断をします。人は身分の低い者にたいしては、賤しみ蔑みの感情にとらわれて偏った判断をします。人は身分の高い者に対しては畏敬の念に惑わされて偏った判断をします。人は困窮している者に対しては憐憫の情にほだされて偏った判断をします。人は気ままに暮らしてなまける者に対しては安楽に流されて偏ってしまいます。

現在でも、中国人とか韓国人だと彼らを卑下して、彼らの話を聞こうとしない日本人は多いです。それではだめなのです。こうしたことはなかなか出来ないことですが、どのような相手に対しても、同じ姿勢で対応が出来なければなりません。そうした姿勢が取れないと余裕を持って、相手と会話をすることが出来ませんし、また、きちんと相手を理解することも出来ないのです。

好きでない相手に対しても、その善いところを知ろうとする心構えが大事です。そのためには相手の気持ちをいつも受け入れられるような自分の姿勢が大事になります。相手から疑われてしまうような態度では相手の心を開くことはできません。相手の欠点に目をつぶって、どんなに腹が立っていても、相手の言う言葉に耐えることはなかなかできることではありません。そうした修練の最も適した相手が家庭であり、妻なのです。

だから、よく家庭と職場が両立できるかということを議論する方がいますが、そうした議論は的を得ていません。家庭があって、そこでの妻との会話がとりもなおさず、仕事につながっていくのです。仕事と家庭の両立という考え方はナンセンスです。「大学」の修身斉家治国平天下で言うところの「斉家」とは「妻を理解し、耐える」ことであり、それが「修身」に通じ、仕事に直結するのです。ですから、家庭におけるあなたの行動とか発言が取りも直さず、企業にもそのまま反映されるということなのです。

今回は相手の話を聞くときの姿勢についての話をしました。私の妻が「あなた先程、ヤフオクで買った本を売った人は詐欺師だと言ったわよね。」と言ってきたので、私は「そんな事は言っていない。」と反論しました。確かに買った本は買おうとした本なので、そんな事は言わないのですが、彼女がそう言ったのです。彼女とは言った言わないで口論になりました。ですので、こうしたときには「そうか。そう言ったかもしれないな。まずいことを言ってしまったな。」とかるく、答えればいいのです。その場で、心が動いてはいけないのです。

■筆者プロフィール:海野恵一

1948年生まれ。東京大学経済学部卒業後、アーサー・アンダーセン(現・アクセンチュア)入社。以来30年にわたり、ITシステム導入や海外展開による組織変革の手法について日本企業にコンサルティングを行う。アクセンチュアの代表取締役を経て、2004年、スウィングバイ株式会社を設立し代表取締役に就任。2004年に森田明彦元毎日新聞論説委員長、佐藤元中国大使、宮崎勇元経済企画庁長官と一緒に「天津日中大学院」の理事に就任。この大学院は人材育成を通じて日中の相互理解を深めることを目的に、日中が初めて共同で設立した大学院である。2007年、大連市星海友誼賞受賞。現在はグローバルリーダー育成のために、海野塾を主宰し、英語で、世界の政治、経済、外交、軍事を教えている。海外事業展開支援も行っている。

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