<激動!東アジア>ファーウェイ取引容認!経済戦争“休戦”の狙い=米朝電撃首脳会談もトランプ再選戦略の一環

八牧浩行    2019年7月1日(月) 7時50分

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米国のトランプ大統領と中国の習近平国家主席による首脳会談で米中経済摩擦が緩和に向け舵が切られた。その後トランプ氏と金正恩北朝鮮委員長との南北非武装地帯・板門店での電撃的な会談が実現。東アジアを中心に、地政学的な大変動が起きていることを実感した。

大阪で主要20カ国・地域(G20)首脳会議が開かれ、米中、日米、米ロなど主要国間の首脳会談が開催され世界中の耳目が集中した。米国トランプ大統領と中国の習近平国家主席による首脳会談で米中経済摩擦が緩和に向け舵が切られた。その後トランプ氏と金正恩北朝鮮委員長との南北非武装地帯・板門店での電撃的な会談が実現。東アジアを中心に、地政学的な大変動が起きていることを実感した。

日中両首脳は5月に事実上決裂した貿易協議を再開することで一致。米国は中国製品に新たな第4弾の追加関税をかけない方針を表明した。トランプ氏は「予想を上回る結果で、(両国関係は)再び軌道に戻った」などと会談を評価。習氏は「中国と米国は協力すれば共に利益を得られ、戦えば共に傷つく」と呼応した。

トランプ大統領は中国の大手通信機器会社ファーウェイへの米国製品の販売を認める方針を打ち出したほか、中国の米国への留学生を他の国の留学生と同様に扱うことを明言した。世界経済を脅かす米中貿易摩擦が緩和に向け踏み出したことに米中両国だけでなく世界各国の多くが歓迎した。

米中の報復関税で打撃を受けるのは中国の業者だけでなく、米国の農家や工業・商業企業も同様で不満が高まっていた。来年の大統領再選を目指すトランプ氏も習氏との対話で「手打ち」したかったのが本音だろう。

中国では、中国経済の減速が続くなか、長期戦への覚悟を国民に求めるかのような報道も出始めた。持久戦に持ち込み、時間稼ぎをすれば大統領選への影響を懸念するトランプ氏が矛を収めるとの思惑も否定できない。

◆2期目勝利VS持久戦略

これまでの米強硬姿勢の背景にはハイテク覇権争いでの中国封じ込めや米中貿易交渉で譲歩を迫るという狙いがあるが、クアルコムやマイクロソフトといった米IT企業にとってファーウェイは大口顧客であり、取引停止は経営上の痛手となる。ファーウェイはソニーや村田製作所など日本企業からも年間66億ドル(約7千憶円)に及ぶ電子部品などを調達している。

長期的にみて深刻なのはイノベーションの停滞。5G(次世代通信システム)を主導するファーウェイの排除で5Gネットワークの整備が遅れると、その上で実現する自動運転や遠隔診断など次世代サービスも遅延する。米中ハイテク新冷戦は世界経済にとって大きなリスク要因となる。輸出品に米国原産の機微技術や部品が使われている場合は取引が差し止められ、違反すれば米国から制裁を受ける恐れもあるだけに、戦々恐々だった。

◆欧州・アジアは米の要請に乗らず

ところが「ファーウェイ包囲網」は広がらなかった。ファーウェイが標的になったのは、同社が次世代通信「5G」の技術で米国などを大きくリードしているためだ。技術力や品質を誇るドイツは「安全対策は通信法で定められ政府によって検証もされている」と、ファーウェイを政府調達から排除しない判断を下した。英国は「5Gについては各国が判断する」と米国に追随しない考えで、マクロン仏大統領も「ファーウェイを排除することは考えていない」と明言した。世界の大勢は「経済的なメリット」を重視している。

トランプ氏は自身の業績を株価の上昇と重ねてきたが、米中摩擦が激化すれば株価がさらに下落しシナリオが狂う。強気の背景になっている米国景気拡大も陰りが見え、米小売り額がマイナスに陥り、製造業景況感指数などが徐々に弱さを示し始めた。

◆5月中の株価下落で、世界の時価総額540兆円減少

トランプ氏が対中制裁関税の引き上げを表明した5月初旬以降1カ月余りで世界の株式時価総額は5兆ドル(約540兆円、6%)減少した。なかでも米アップルや米クアルコムなどIT(情報技術)関連企業が含まれる電子技術が8000億ドル(約87兆円、12%)減、米キャタピラーや日本の空気圧制御機器トップSMCなどの製造業が4200億ドル(約45兆円、9%)減と目立つ。2つのセクターの合計では130兆円余りに達する。

さらに米通商代表部(USTR)が打ち出した中国への制裁関税「第4弾」方針は身近な消費財を一気に網羅した。特に大きいのがスマホなど中国に依存するIT機器だ。スマホなどへの関税引き上げは中国の工場だけでなく、米国の消費者も打撃を受ける「もろ刃の剣」だ。

第4弾が実際に発動され中国も報復すれば、双方の経済が打撃を受ける。IMFの試算によると、このままでは米中の貿易は長期的に30~70%落ち込み、世界全体の国内総生産(GDP)を0.5%押し下げるという。このまま対立が激化すればさらなる大波乱に陥るリスクがあった。

◆「経済」が国家統治の決め手に

このまま米中の対立が激化すれば、世界が2極に分かれるリスクもある。その場合、覇権国家・米国が主張する「政治的安全保障」より、消費大国・中国を中心とした「グローバル経済」支持に多くの国が傾く可能性もある。グローバル化が進み国境の垣根が低くなった現在、経済的実利のウエイトは安保・軍事よりはるかに大きく、どの国も「経済」が統治の決め手になる。日本、インドを含むアジアから欧州、南米、アフリカ諸国の大半は中国が主要貿易相手国となっており、米国も例外ではない。

G20の翌日の6月30日には、トランプ氏と金正恩北朝鮮委員長による首脳会談が南北非武装地帯・板門店で電撃的に実現。「稀代の演出家」トランプ氏ならではのパフォーマンスだが、平和を希求する大統領として恰好の再選へのアピールとなった。米朝会談の根底にあるのは米中会談と同様、大統領選対策である。

金正恩氏は会談で「この場所は南北分断の象徴であり、この場で平和の握手をすることが、今後より良くできることを示すことになる」と米朝関係の改善に意欲を示した。トランプ氏は金正恩氏をホワイトハウスに招待。金正恩氏もトランプ氏を平壌に招待すると伝えた。

米朝首脳会談の前後に文在寅韓国大統領も交え、3首脳が初めて一堂に会する場面もあった。戦後74年も続く分断国家の平和的な統一にもつながる歴史的なエポックと言える。東アジアを中心に、地政学的な大変動が起きていることを実感せざるを得ない。

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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