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<コラム>ハンドメイドスーツという「作品」、在日中国人デザイナー孫滌非の人物像

黄 文葦    2019年9月6日(金) 22時20分

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「服は商品ではなく、芸術品である」この言葉は、昨年に出会ったスーツデザイナー・経営者の孫滌非さんが発するもの。孫滌非さんは中国瀋陽出身、現在埼玉県八潮市に在住。ナポリ南方工法の伝承者、世界文化財の保有者、ハンドメイドスーツの第一人者だと言われる。

「服は商品ではなく、芸術品である」この言葉は、昨年に出会ったスーツデザイナー・経営者の孫滌非さんが発するもの。孫滌非さんは中国瀋陽出身、現在埼玉県八潮市に在住。ナポリ南方工法の伝承者、世界文化財の保有者、ハンドメイドスーツの第一人者だと言われる。自身の名前DIFEI(ディフェイ)をつけたスーツブランドが日本で高く評価されている。

孫さんは「文化」に執着心を持ち、常に周りの人に中国の伝統文化を熱く語っている。30数年間、日本と中国の間で生きている。そして独自の感性と価値観を養ってきた。「日本文化と中華文化の共通点は多く、例えば、すべての文明と自然に対して敬意を払い、人々が互いに尊重しあうこと。西郷隆盛が好んで使う『敬天愛人』という言葉は、中華文化の儒教・仏教・道教にもよく教わるものである」、孫さんは文化の力を自身の作品(商品)に仕込もうとしている。デザイナーの身分以外に、孫さんは画家・教育者でもある。

孫さんは1988年に来日。1992年、宮城教育大学グラフィックデザイン専攻(修士)を卒業した後、八潮市にある工作機械を製造する会社に就職、図面書きの仕事を5年間していた。1997年、中国に戻り、市場(テーラー)代表者になった。2000年、大連双葉服飾有限公司の首席設計師を務めた。2003年、日本で有限会社ディフェイを立ち上げ、自ら社長・チーフデザイナーを担当する。2010年から6年間、中央美術学院の教授を務めていた。3年前に日本に戻り、紳士服職人という天職を全うすると決意した。2019年4月から、デザイナーの仕事をしながら、東京にあるファッション専門学校で教鞭を執る。

20数年たっても、変わらないことがある。孫さんはほぼ毎日アイロン台の前に立つ。自らスーツ一着一着に心を込めて丁寧にアイロンをかける。それでも芸術を創作する過程、そういう作業をいつも一人で孤独に楽しくこなすという。「自分が芸術家であり、生きることには、孤独は第一の条件、孤独を楽しめる力こそ私のプライドです」と孫さんが語ってくれた。

日本で注文をうけ、中国大連にある工場で製作するという形でハンドメイドスーツ事業を営んでいる。DIFEIスーツを製造するには570の工程を経なければならない。一着のスーツには150時間かかるという。最初に服のデザインを練るのは孫さんである。手順の最後も自分の手でハンドメイドスーツという「作品」を出来上がらせる。その達成感の大きさを想像できる。

「デザインの理念は、飾らないで真実を伝えること。人に思いやりを持ちながら、人のためにものを作る。言うまでもなく、家族の間も思いやりが大事で、親子関係も、夫婦関係も、思いやりがなかったら、家族が崩壊する。ずっと自分のデザインは全部面白くて全部よかったと思っている。デザインは私の『遊び』だと言いたい。デザインは本能、テクニックは二の次です」と孫さんは自信満々にデザインの理念を語った。

なぜハンドメイドにこだわるのか。「ハンドメイドのものは温もりと温度感がある。人間的に考え方が込められている。私は機械が嫌いです。機械を生かせば大もうけできるかもしれない。それは立派な商売人・成功者だけれど、芸術家とは無縁である。私は『芸術』を経営・販売する。私の中では、服は商品ではなく、芸術品である。『芸術品』でぴったり体に合うハンドメイドスーツをまとって、ゴルフでも気軽にできる。現在、お客さんはほとんど日本人。残念ながら現在中国は正真正銘のスーツ社会になっていない。日本ではスーツが普及している。日本のスーツ市場がいい。これから、経済面には豊かになってきた中国でもだんだんハンドメイドスーツ文化を普及できればと思う」と話してくれた。

孫さんにとって、経営上の失敗と言えば、大手アパレル会社との取引を中止させたこと。その時、自身がつくりたいものがあるから。つまり、ハンドメイドにこだわっているため、機械による量産に抵抗があった。大手アパレル会社は量産でもうけようと主張した。「相手は実力のある大手会社、私は感性と技術を持ち、力を合わせれば大きな成果が出るはずです。相手とうまく協調できれば…」と孫さんは後悔していた。それは人生の挫折の一つ。性格を言えば、基本的に楽観的で人に喜びを与えようとしているのが、欠点も隠せないもの。時には怒りっぽく人の非を厳しく追い詰め、鋭すぎて、人を傷つけてしまう。情熱的プライドの高い芸術家がビジネスで「損」をした体験がある。

失敗しても、めげずに前へ進む。仕事に対し、孫さんは反省しながらも、今まで「オーダー」と「ハンドメイド」に執着してきた。「作品」(洋服)作りに妥協せず、ずっと「最高峰ブランド」を追求し続ける。これから、自身のブランドをもっと日本に浸透させるため、もっと多くの男性におしゃれをさせるため、デザイナーの感性を生かすパターンオーダー(相対的に安いオーダー)の新事業を展開したいという。

孫さんには、すべての取引先の方・お客さんは仲間・友達のような存在で、互いに仕事の話でも世間話でも面白く交わすことができる。お客さんの中には大物俳優もいる。「お客様は神様だとよく言われるが、私はお客さんに『私の言うことを聞いてください。絶対にいい商品ができる』と言う。お客さんの言う通りにするのではなく、最高のデザインをお客さんに納得させる」、と自己流の仕事ぶりを述べた。「私の愛車は普通軽自動車、大勢のお客さんの車はベンツなど名車です」と孫さんが大らかに微笑んだ。八潮にあるDIFEI事務所の店構えは一見簡素だが、中に入ると、数十着の高級スーツが輝かしく見える。一流プロの仕事道具が備えられている。

余談だが、孫さんは油絵を描くために、顔料を買うのではなく、いろんな材料を揃えて、自ら顔料を作る。この夏休み中、お酒好きの孫さんは自宅で酒を醸しているという。また、孫さんは多彩な趣味を持ち、園芸・料理など創作活動にも力を入れる。まさに、あれもこれも「ハンドメイド」にこだわる人生である。

■筆者プロフィール:黄 文葦

在日中国人作家。日中の大学でマスコミを専攻し、両国のマスコミに従事。十数年間マスコミの現場を経験した後、2009年から留学生教育に携わる仕事に従事。2015年日本のある学校法人の理事に就任。現在、教育・社会・文化領域の課題を中心に、関連のコラムを執筆中。2000年の来日以降、中国語と日本語の言語で執筆すること及び両国の「真実」を相手国に伝えることを模索している。

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