八牧浩行 2020年1月2日(木) 9時0分
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米中経済摩擦はひとまず「休戦」に向かうが、次代の「覇権争い」が絡むため中長期化するのは避けられない。中国経済ブレーンの「終結」大胆予想が注目されている。
米中の対立が冷戦時代の米ソのように鋭く対立しないのは、両国間に経済相互依存が存在するためだ。米中経済摩擦はひとまず「休戦」に向かうが、次代の「覇権争い」が絡むため中長期的に尾を引くのは避けられない。こうした中で中国経済ブレーンの「終結」大胆予想が注目されている。
◆米中首脳が合意を評価
2019年12月20日、トランプ米大統領と中国の習近平国家主席が電話首脳会談。トランプ氏は米中通商協議について「巨大な貿易協定に関して非常に良い話をした」「中国はすでに農産物など大規模な購入を始めている」などとツイート。中国国営新華社通信によると、トランプ氏は「第1段階の合意に米中のマーケットと世界は積極的に反応した。米中や世界にとって良いことだ。早期に署名し実行したい」と意欲を見せ、習氏も「中米と世界の平和、繁栄にとって有益だ」と評価した。
習氏は「(過去に)中米が連携を進める中で幾つかの食い違いが生まれた」と指摘。「中米貿易の関係を前向きに進めて両国のプラスにつなげよう」と呼びかけた。トランプ氏は「米中でコミュニケーションを密にとり続けたい」と応じた。
トランプ大統領と習主席は、抗議デモの続く香港や非核化交渉で強硬姿勢を強める北朝鮮の問題などについても意見交換した。習氏は台湾、香港、ウイグル、チベットをめぐる米国の言動について「中国への内政干渉であり、信頼と協力につながらない」と不満を表明。トランプ氏は「我々は意見の異なる問題でも折り合えると信じている」と答えたという。
◆朝鮮半島情勢でも「進展」
朝鮮半島情勢について、習氏は「各国が歩み寄り、対話と緩和の流れを維持することが共通利益にかなっている」と述べ、トランプ氏も「進展があった」とツイートした。
米中両国政府は、首脳電話会談に先立つ12月13日、貿易交渉で「第1段階の合意」に達したと発表。米国は15日に中国製のスマートフォンやノートパソコンなどを対象に15%の関税を上乗せする「第4弾」の残り1600億ドル分の発動を予定していたが、適用を見送ったほか、9月に発動したスマートウオッチなど1200億ドル分の関税率を15%から7.5%に引き下げた。トランプ米政権が対中制裁関税を一部緩和するのは米中両国が関税をかけ合う貿易戦争を始めた18年7月以降で初めてだ。
中国政府は同月13日夜、北京で記者会見を開き、第1段階の合意は米国産のトウモロコシなど農畜産物の輸入拡大、知的財産権保護、技術移転、金融サービス、為替、紛争解決など9項目に及ぶと明らかにした。この際中国政府は「米中協議が合意に達するのは両国の利益に合致し、国際社会の期待に沿うものだ」と強調。トランプ米大統領によると、米国からの輸入拡大額は年間500億ドル(5兆4千億円)に達するという。中国は15日に準備していた報復関税の発動も見送った。
トランプ大統領は同日すかさず「極めて大型の取引が実現した。合意には多くの構造改革と、農産物やエネルギー、工業製品の大規模購入などが含まれる」とアピールした。
トランプ氏が誇示する年間500億ドルの対中農産物輸出が実現すればこれまでの最高だった2010年(260億ドル)の実績を大きく上回り、大豆やトウモロコシ価格が急落し苦境に立たされている米農家が息を吹き返す。
◆両国共通の景気失速懸念
米中「部分合意」の背景となったのは、景気失速という両国共通の懸念だ。米国は製造業の景況感指数が10年ぶりの水準に悪化した。貿易不振で米製造業の業況がさらにダウンすれば、トランプ氏の再選シナリオが揺らぎかねない事情もあった。製造業の景況感指数は4カ月連続で節目の50を下回り「不況」に沈む。ウィスコンシン州など16年大統領選でトランプ氏が逆転勝利した激戦州では、直近1年間の製造業の雇用者数が純減に転じた。設備投資や輸出もマイナス基調が続く。国際通貨基金(IMF)によると、中国の成長率見通しは、19年が6.1%に下方修正。18年の6.6%から0.5%減速する。米国も、19年の成長率見通しは2.4%と18年の2.9%成長から0.5%も落ち込んでしまう。
米大統領選を1年以内に控えるトランプ氏は「貿易戦争の終結は間近だ」と吹聴するが、焦りの裏返しとの冷ややかな見方もある。一方で中国は産業補助金や国有企業問題での譲歩には慎重で、米大統領選も見透かし持久戦を展開する構え。今回の「休戦」により米中両国は貿易戦争の打開へ一歩踏み出したことになるが、中長期的には米中問題は世界経済の大きなリスクとして来年以降もくすぶり続けるシナリオも否定できない。
◆「トゥキディデスの罠」回避は可能か
米中関係は今後どうなるか。従来の覇権国家と新興の2番手国家がぶつかり合い、戦争が不可避な状態となる現象「トゥキディデスの罠」に陥ると懸念する声もある。米中間の世論戦、情報戦を含む激しい駆け引きはいつまで続くのか?
中国政府の経済ブレーンである林毅夫・北京大学教授・元世界銀行上級副総裁・主任エコノミストの米中関係に関する長期的展望が注目されている。その概要は以下の通りである。
(1)中国の発展に対する抑止は米国政界のコンセンサスになっており、我々も持久戦の心構えだ。
(2)当面の段階的合意をめざすが、これで米中関係が大きく好転するのを期待していない。また、合意項目は中国自身がやらないといけない改革・開放の内容も含まれており、表面上対等と言えないが、合意・実施していく考えだ。
(3)貿易戦争が最大限に達しても中国が耐えられることは明らかになった。よって今後も中国経済の崩壊は想定していない。
(4)長期的で抜本的な対応は中国自身の改革と発展にある。さらに発展し、各国との関係も密接化していけば、米国の一方的な行動は最終的に自らの孤立を招くばかりだ。
林氏は「米国はいつになったら中国と手を打つか」について中国側の発言として初めて展望を示している。「中国の一人当たりGDPが米国の半分、経済規模全体が米国の2倍に達したとき、「米国は中国との友好共存を望み、今日のような矛盾と対立は消える」と託宣である。
国際通貨基金(IMF)、世界銀行などによると、中国のGDP総額が米国を追い抜くのは数年から10年以内と予想されているが、本当の米中共存の実現はその後も更に10年かそれ以上かかるとの見立てである。ただ経済実態を正確に表す購買力平価方式では中国のGDPは2014年に米国を抜いたとIMFや米国の経済学者が表明している。
◆トランプ氏「北京に行き第2段階協議始める」
一方、20年11月の大統領選での再選を目指すトランプ大統領にとって「中国への強気な姿勢が有権者へのアピールに欠かせない」(トランプ陣営幹部)との見方もある。トランプ氏は12月31日、「後日に北京を訪れて第2段階の協議を始める」と表明した。第1段階の合意が本格的な「終戦」に向かうかどうか見極めるのは難しそうだ。
(続く)
■筆者プロフィール:八牧浩行
1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。
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