吉田陽介 2020年2月20日(木) 22時40分
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中国政府は新型肺炎封じ込めのために様々な措置を講じている。外出制限もその一つだ。人々が当たり前のようにやっている買い物も変化しており、男性がその担い手になっている。写真は中国のスーパー。
新型コロナウイルス肺炎騒動が起こってから2カ月になろうとしている。感染者の増加ペースは鈍化しつつあるが、累計感染者数は7万人を超えており、予断を許さない状況が続いている。中国政府は新型肺炎封じ込めのために、様々な措置を講じ、国民に協力を求めている。外出制限もその一つだ。感染者数が比較的多い浙江省温州市など一部の都市では、各世帯の代表者1人が2日に1回買い物のために外出することを許可している。そのため、人々が当たり前のようにやっている買い物も変化しており、男性がその担い手になっている。
■スーパーは「主婦の溜まり場」から「男の戦場」へ
ここ最近、中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」に、スーパーで買い物する男性の姿が多くなったという投稿がみられる。それによると、奥さんから買ってくるものを指示されて、大量の生活用品を買う光景がよく見られるようになったという。その原因について「微博」は外出制限を挙げている。2日に1回しか出られないし、各家庭1人しか買い物に行けないのだから、まとめ買いをしなければならない。その場合、力の強い男性が買い物したほうがよい。
私の住んでいる北京は、団地の入口での検温、許可証の提示などの措置がとられているが、外出制限はないので、スーパーが「男の戦場」と化するということはなく、女性の姿もよく見かける。ただ、以前より男性の姿が多くなった。男の買い物というと、目当ての物だけ買って、さっさとスーパーを出て行くというものだ。もちろん、ブランドとかわずかな価格差はさほど気にしない。だが、今はちょっと違い、奥さんから指示されたものが多く、しかも買ってくるもののメーカーまで指定してくるので、買うもの買ってさっさと出るというわけにはいかないようだ。
わが家は妻がフルタイムで働いていることもあって、買い物は私の仕事だ。おつかいに行かされる子供のようにメモを持って買い物する。もし目当てのものがなければ、すぐに微信の電話で「○○がないんだけど、どうする?」とお伺いを立てる。私のまわりで買い物している男性も同じく、「豆腐ないんだけど」とか言って奥さんに“報告”している。本当かどうか分からないが、あるネットユーザーは「うちの亭主は11回も電話かけてきた」とつぶやく。もし自分の判断で適当に買ったものが、奥さんが気に入らなかったら、カミナリを落とされるのは必至だ。11回電話してきたというのも、あながちウソとは言えないと思う。私も自分の判断で勝手に買ってきたとき、妻のカミナリが落ちたことがあったので、“ホウ・レン・ソウ(報告・連絡・相談)”は欠かさない。
私はあまり人の買い物カゴを見る趣味はないが、彼らのカゴをチラ見してみると、野菜のほかに、冷凍餃子、乾麺などの主食を大量に買い込んでいた。野菜も白菜など比較的日持ちするものが多い。なぜ、そういうものを大量に買い込むかというと、出かける頻度を減らしたいからだ。中国政府は公式メディアで不要不急の外出を控えるよう呼びかけているし、人々の間でも、人の集まるところにはなるべく出かけないほうがいいという意識が広まっている。
2月10日に企業活動が再開する前は物流も活発でなかったためか、スーパーに行っても何もないとぼやくことが多かった。10日以降はモノが増えてきたが、まだ春節前のレベルには戻っているとは言い難い。例えば、手軽に食べられるインスタントラーメンなどは人気のあるメーカーのものは在庫がなく、あまり人気のないメーカーのものが並んでいる。種類も少ない。今の時期は自宅で仕事する人も少なくないためか、おやつ類も豊富とはいえない。特に人気のあるメーカーのポテトチップはあまり見かけない。野菜も普段よりも割高なうえに質のいいものも少なく、慎重に選ばないと、腐ったものを買ってしまうことになるし、少しでも遅くなると質の良いものがなくなってしまう。だから、買い物も「戦い」なのだ。
■「メシ、風呂、寝る」はダメ!マメに動く中国人男性
中国は男女平等が日本よりも徹底し、女性の社会進出が進んでいるためか、中国人男性は日本人男性よりマメで、家事分担は当たり前のことになっている。「80後(1980年以降に生まれた人)」以降の若い中国人は権利意識が強く、家事を女性ばかりに押し付けると、「不公平だ」という声が返ってくる。
そういうこともあり、私の友人の中国人男性は掃除だけでなく、料理もこなし、なかにはかなりの腕前の人もいる。妻の友人のご主人も普段から家事一般をこなし、料理も女性よりうまい。一度妻の友人の家に食事に招かれたことがあったが、食器のセッティング、料理の下ごしらえ、調理、食事の後片付けをすべてご主人が率先してやり、奥さんはサポートに回っていた。お客さんがいるから、そう振舞っているんだろうと思っていたが、後で妻に聞くと、もともとマメな人で、そんなことはいつものことだという。
人間は他人と比べるのはよくないと分かっていても、ついつい比べてしまう生き物だ。だから、妻からすると、こういう優秀な男性に比べて、私は「ただ食っちゃ寝するだけのポンコツ亭主」に映る。
私はフルタイムで働いていたとき、家のことをほとんどしなかったので、よくケンカになった。妻に言われたとおりのことをやっただけで、「俺も家事やったぞ」とドヤ顔をすることが何度もあった。すると、「そんなこと当然。だから何」と強烈なカミナリが落ちた。
妻の父も買い物だけでなく、掃除、洗濯何でもこなし、しかもソツがない人なので、私の家事スキルの低さには不満だったらしく、折に触れて、「あんたは、博士まで出て学歴は高いけど、家事の能力はゼロだ」と私を注意した。
今は日本でも、家事を分担する傾向にあり、私のような「男は家事しない」という考え方はもはや時代遅れだということを後で知った。今も叱られながら、自分の家事スキルアップに努めている。
■野菜の種類が全くわからない!?「家事マスター」の中国人男性
私の周りの中国人男性は優秀なので、私は「中国人男性=家事マスター」というイメージがあり、買い物もきっと文句を言われないレベルなんだろうと考えていた。
「微博」の投稿をみると、そうでもなく、私の「中国人男性像」が崩れる内容があった。
あるユーザーは「夫が野菜を買ってきたけど、腐っていて使えない。夫にそれを言うと、買って来いといったから、買ってきたんだと逆ギレされた」とつぶやく。
また、「うちの冷蔵庫にある腐りかけたトマト、傷んだトマトはうちの男が買ってきたものだ」と皮肉ぎみにつぶやくユーザーもいた。
さらに、「私と同居している彼は小さいネギと、ニンニクの芽の区別もつかない」と男の野菜に対する知識のなさを嘆くつぶやきもあった。
これを見て、「家事マスターの中国人男性がそんなことありえない、ウソだろ」と思ったが、前述した男女の買い物の姿勢に対する違いがこういうつぶやきが出てくる原因でないかと思う。女性は家計をやりくりするため、少しでも安く、いいものを買おうとする。それに対し、男性はメーカーや賞味期限はさほど気にしない。私も買い物するようになってから、メーカーや価格を気にするようになった。もちろん、買い物マスターの中国人男性もいるのだが、今回の新型肺炎騒動は中国人男性の買い物スキルを上げるきっかけになったに違いない。
■筆者プロフィール:吉田陽介
1976年7月1日生まれ。福井県出身。2001年に福井県立大学大学院卒業後、北京に渡り、中国人民大学で中国語を一年学習。2002年から2006年まで同学国際関係学院博士課程で学ぶ。卒業後、日本語教師として北京の大学や語学学校で教鞭をとり、2012年から2019年まで中国共産党の翻訳機関である中央編訳局で党の指導者の著作などの翻訳に従事する。2019年9月より、フリーライターとして活動。主に中国の政治や社会、中国人の習慣などについての評論を発表。代表作に「中国の『代行サービス』仰天事情、ゴミ分別・肥満・彼女追っかけまで代行?」、「中国でも『おひとりさま消費』が過熱、若者が“愛”を信じなくなった理由」などがある。
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