<遠藤誉が斬る>中国の「新シルクロード経済ベルト」―なぜウィグル族弾圧につながるのか

Record China    2013年11月6日(水) 6時21分

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前回のコラムで触れた中国の「新シルクロード経済ベルト」に関して、もう少し詳細にご紹介するとともに、それがなぜウィグル族弾圧へとつながるのかを見てみよう。写真は新疆ウィグル自治区の中心都市ウルムチ。

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前回のコラムで触れた中国の「新シルクロード経済ベルト」に関して、もう少し詳細にご紹介するとともに、それがなぜウィグル族弾圧へとつながるのかを見てみよう。

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◆「新シルクロード経済ベルト」構想とは

 1991年12月に旧ソ連が崩壊すると、ソ連邦の中に組み込まれていた「カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン」が分離独立して中央アジア5カ国となった。旧ソ連と対立していた中国は、1992年になると直ちに中央アジア5カ国と国交を樹立。以来、貿易を始めとした様々な交流を深めるようになる。

まず2001年に「中国、ロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン」の6カ国による多国間協力組織である「上海協力機構」を設立し、その後「国際テロ、民族分離主義、宗教過激主義」への共同対処を決定(トルクメニスタンは中立を宣言し客員参加に留めている)。

 

この6カ国の中で圧倒的に経済を牽引しているのは中国だ。ロシアは別としても、中央アジア5カ国は何としても中国を頼りに経済的に這い上がりたいと思っている。というのも、中央アジアは、西側のEU経済圏と勢いを増す東側のアジア太平洋経済圏の狭間で、「経済窪地」になっていたからだ。

 一方この中央アジア5カ国には、中国が喉から手が出るほど欲しい石油、天然ガス、レアメタルなどの地下資源が豊富に眠っている。まだ開発途上であるということはすなわち無限の潜在力を持っていることを意味する。ここは世界で最も高いポテンシャルを持つ黄金の経済ベルトと中国は睨んだ。

誰がいち早くこの地に手を着けるか。中国は作戦に出た。

2004年7月に中国石油天然ガス勘探開発公司(CNODC)とカザフスタン国家石油運輸株式会社(KTO)が共同で「中哈管道有限責任公司」(KCP)を設立して、全長2798キロのパイプラインを敷設し、年間2000万トンの原油輸送を可能にした(哈=カザフスタン)。2006年5月に開通。 始点はカザフスタンのアタスで、終点は新疆ウィグル自治区のイリ・カザフ自治州にある阿拉山口(アラサンコウ)だ。今では年間5000万トンの原油を輸送している。

またトルクメニスタンなどからは天然ガスのパイプラインを敷設し、2009年末から2013年8月までに累計600億立方メートルの天然ガスを輸送している。これは中国の2010年の総生産量の半分に匹敵する。巨大中継点は新疆ウィグル自治区のコルゴス。全長1833km、年間輸送量300億立方メートルに及ぶ。

中国国内ではウィグルを起点として上海や広東省など、電力消費の最も多い東海岸に送られ、経済活動を支えている。

今年9月3日から13日にかけた習近平の中央アジア諸国訪問では、道路建設を含め投資提携額は500億ドルに上るという。カザフスタンとは2015年までに貿易額を400億ドルに、トルクメニスタンとは天然ガス輸送量を今年中に550億立方メートルにまで引き上げる締結を交わした。

◆経済が発展すればするほどウィグル族が虐げられる構図

 これらを可能にするために新疆ウィグル自治区にはカシュガル経済特区やイリ・カザフ自治州経済特区など、経済開発特区が設置されている。それによりウィグル族が幸せになったかというと、まったく逆だ。

 たとえば漢民族が投資して現地入りした開発企業が社員を公募する場合、まず中国語(漢族)を話せなければ採用されない。ところが改革開放前に育ったウィグル族は、ウィグル語しか話せない者が多い。だからウィグル族は失業率が高いし、就職できても賃金が極端に低い。今は漢語で学校教育を行っているが、それは同時にウィグル語とウィグル文化の消滅を招く。

 また2001年に起きたアメリカの9・11同時多発テロ以来、イスラム教徒と聞くと、すぐに「テロ」と結びつける傾向にある。だから経済特区に入植してくる漢民族経営者はイスラム教徒を採用したがらない。不平等に対して抗議を表明したり暴動を起こしたりすると、たちまち逮捕されたり、時には惨殺されたりする。

そういう弾圧から逃げようと隣接する中央アジア諸国に亡命すると、そこで待っているのは当該国による中国政府への通報だ。なぜなら上海協力機構加盟国は「テロ、民族分離、宗教過激主義」に関して互いに協力し合うことを約束しているからだ。こうして中国が新シルクロード経済ベルトを強化すればするほど、ウィグル自治区にいるウィグル人は行き場を失うのである。

 これがウィグル自治区の経済が発展すればするほどウィグル人が虐げられる構図だ。

◆政府に対する抗議行動を「テロ」と断定する中国の意図

 宗教に関しても憲法ではその自由が謳われているものの、実際は制限が多い。たとえば18歳未満の者や学生などはモスクに立ち入ることが禁止されているので、イスラム教を教える地下学校に通うしかないが、見つかれば違法行為として逮捕される。子供といえども容赦はしない。

 また懐妊可能な年齢の女性の一部を中国の東海岸に移住させてウィグル自治区におけるウィグル族が増えるのを防ごうともしている。どちらを向いても行き場がないのである。

 もちろん漢民族の党幹部におもねって昇進していく者もいる。その結果内部差別も生じてくる。抗議運動が起きない方がおかしい。

 

中国政府がこの抗議行動を「テロ」と位置付けるのは、新シルクロード経済ベルトを形成する中央アジア5カ国が主としてイスラム教の国だからである。「テロ」を取り締っているのであって、決してイスラム教徒を弾圧しているのではないという形を取りたい。

 しかしそれでイスラム教徒の反感を抑えることができるのだろうか?

 ウィグルが独立すれば中国は崩壊する。だからいかなる手段を採ってでも中国がそれを阻止するのは確かだ。

 イソップ物語ではないが、中国はこうして「北風」を続けるのか、それとも「太陽」になる勇気を持ち得るのか。北風でいる限り、悪のスパイラルと報復の連鎖から抜け出すことはないだろう。

(<遠藤誉が斬る>第7回)

遠藤誉(えんどう・ほまれ)

筑波大学名誉教授、東京福祉大学国際交流センター長。1941年に中国で生まれ、53年、日本帰国。著書に『ネット大国中国―言論をめぐる攻防』『チャイナ・ナイン―中国を動 かす9人の男たち』『チャイナ・ジャッジ毛沢東になれなかった男』『チャイナ・ギャップ―噛み合わない日中の歯車』、『●(上下を縦に重ねる)子(チャーズ)―中国建国の残火』『完全解読「中国外交戦略」の狙い』など多数。

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