<コラム>中国、アフター・コロナの金融経済秩序を主導?(後編)デジタル人民元発行で世界をリード

高野悠介    2020年5月13日(水) 23時0分

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4月末、デジタル人民元に大きな動きがあった。写真は雄安新区。

中国政府は2017年9月、仮想通貨の取引所を閉鎖に追い込んだ。その結果中国ではビットコインの合法的取引はできない。その一方で、DCEP(Digital Currency Electronical Payment=デジタル通貨電子決済)つまりデジタル人民元の研究を加速してきた。これらの関連記事は非常に多く、中国人の金融リテラシーの高さをうかがわせる。4月末、そのデジタル人民元に大きな動きがあった。

■デジタル人民元研究史

通貨のデジタル化は、現実的にどういう意味を持つのだろうか。中央銀行の通貨発行機能を高め、中央銀行のステータスと金融政策の有効性を高める。人々の安全資産への需要を満たせる。中央銀行はデジタル人民元金利の調整だけで、市中銀行の利率をコントロールできる。等が想定されているようだ。しかし、前例はどこにも存在せず、実際にはやってみないとわからない。中国は慎重だった。

2014年、中国人民銀行(中央銀行)内に専門チーム立ち上げ。発行と流通、関連する法律問題を研究。

2017年1月、人民銀行、深セン市に「数字(デジタル)貨幣研究所」を設立。

2018年9月、数字貨幣研究所、貿易金融ブロックチェーンプラットフォーム建設。

2019年7月、人民銀行、デジタル人民元発行、すでに国務院の承認済と公表。

2019年8月、人民銀行深センでの研究が新段階へ。人民銀行、仮想通貨関連特許74件申請。

■内部テスト開始

2019年7~8月に動きが活発化した背景には、同年6月に発表されたFacebookのリブラ構想がありそうだ。

その半年後の2020年4月中旬、内部テスト実施のニュースが伝えられた。中国人民銀行数字貨幣研究所は、深セン、蘇州、雄安、成都、及び2022年北京冬季オリンピックを想定した試験区内で、テストを開始すると発表した。

国有四大銀行の1つ、総資産2位中国農業銀行の「指尖支付」アプリのスクリーンショットも公開された。デジタル人民元は、このアプリにチャージされ、試験区内の決済に利用する。デジタル人民元の機能的特性は、紙幣と全く同じである。国家の信用を備えた中央銀行の法定通貨だ。

中国ですでに小口決済のインフラとなっている、支付宝、微信支付とはどう違うのだろうか。支付宝、微信支付は銀行預金に紐つけられ、利用には通信ネットワークが必要だ。

これに対してデジタル人民元は、オフラインでも利用できる。スマホとスマホをタッチするだけでよい。

■スタバとマック

さらに4月下旬、試験区の1つ雄安新区で、デジタル人民元推進に関わる通知が公表された。この文書は3つの部分から成り立つ。

1.組織に関わる部分。行政組織と人民銀行支店、さらに「法定人民幣試点実施小組」「雄安新区智能城市連合会」等の役割分担、責任者を明確にした。

2.民間との研究連携に関する部分。国有四大銀行(工商銀行、農業銀行、建設銀行、中国銀行)に加え、アント・フィナンシャルとテンセントも、デジタル人民元研究機構に包括される。

3.具体的な参加者を示した部分。全19社のうち18社は、実体のあるサービス企業だ。金豊餐飲、健坤餐飲、マクドナルド、スターバックス、サブウェイ、金百禾、維菜可烘焙(以上飲食)菜鳥駅站(物流)、凱驪酒店(ホテル)、奥斯卡影城(映画)、銀聯無人超市、京東無人超市、崑崙好客便利、慶豊包小舗、中信書店(以上小売)、中体倍力(スポーツ)、桃李閣(教育)、新時期無人車(自動運転)というメンバーである。マックとスタバが入ったことで、大きく報道された。雄安新区では、政府、経済、生活、すべてがデジタル化する。

■まとめ

デジタル人民元の目的は、直接的には脱税、税回避対策にあるという。それは初めの一歩にすぎず、本当はドル覇権への挑戦で間違いない。しかし、真の動機は外貨の流出防止かもしれない。中国の大富豪は、常に世界最適な運用を考えている。運用場所としてのリスクが高いとなれば、中国に固執などしない。これが常に悩みのタネだ。

中国人民銀行は、ブロックチェーンの分散運用と、デジタル人民元の集中管理とは矛盾しないという。すべてはBSN(Block-chain-based Service Network)の一貫なのかもしれない。アフター・コロナは、米中再対立の逆風となる。中国政府の思惑通り、事が運ぶかどうか。それは誰にもわからない。

■筆者プロフィール:高野悠介

1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。

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