<コラム>改革開放のシンボル・深セン、今後はブロックチェーンが次代発展のリード役に、金融・行政で先行

高野悠介    2021年1月30日(土) 7時20分

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国営新華社通信は1月、「深センのリーディング産業はブロックチェーンか?」という記事を配信した。深センの動向は注目度が高く、各ネットメディアが転載し、解説を加えている。写真はテンセントの深セン本社ビル。

国営新華社通信は1月上旬、「深センのリーディング産業はブロックチェーンか?」という記事を配信した。深センの動向は注目度が高く、各ネットメディアが転載し、解説を加えている。深センは1980年、初の経済特区に指定以降、中国改革・開放のシンボルだった。同市は2020年8月、盛大なドローンショーを行い、奇跡的成長を遂げた40年を祝った。次の40年には何が待っているのだろうか。

■深センの大発展…40年でGDP1.4万倍に

・ハードウェアのシリコンバレー、次代はブロックチェーンへ

改革・開放前の深センの人口については、3万~31万人まで諸説ある。2019年の常住人口は1343万8800人だ。ネットメディア「新浪財経」は31万人説を取り「深センの人口、40年で42倍、GDPは1.4万倍」と報じている。「深セン速度」と呼ばれる目にも止まらぬ急成長を遂げた。

けん引したのは、テンセントファーウェイフォックスコンDJI、などIT関連企業の他、中国最初の民間保険会社・中国平安、不動産の恒大集団などだ。看板はIT産業で、周知のように、中国のシリコンバレー、ハードウェアのシリコンバレーなどといわれる。

新華社は、そんな深センの新しいリード役にブロックチェーンが浮上とアナウンスした。全国への波及効果を狙っている。

■さまざまなプロジェクト…中心は金融と行政

・深セン市は2016年以降、ブロックチェーン産業を積極サポート

深センは2016年の「深セン市金融発展“十三五計画”」以来ブロックチェーン産業をサポートしてきた。2021年1月上旬の「深セン市数字経済産業創新発展実施方案」では、ブロックチェーンの基礎理論とコア技術の革新、標準化と国際化研究に言及している。

政策の追い風を受け、深センではブロックチェーン関連企業4000社が活動し、全国の一歩先を進んでいる。テンセント、ファーウェイ、中国平安に加え、ブロックチェーン専門企業の訊雷などが中心だ。テンセントは、医療、司法、物流。ファーウェイは、証明書、新エネルギー、トレーサビリティ。訊雷は、金融、行政、司法、医療、工業、民生の6部門、16のブロックチェーンプロジェクトを扱う。

金融分野では、全国の半数近くを深セン企業が占めている。預金証明書発行、領収書発行、サプライチェーン金融、金融サービスなど。その次は行政部門だ。実際に成果を挙げているケースを見てみよう。

■電子領収書が急拡大…防疫体制、非接触の要請が後押し

・ブロックチェーン+税務、大きく進展

テンセントと深セン市税務局は「ブロックチェーン+税務」の応用を進めている。その核は、ブロックチェーンによる電子領収書の発行だ。2018年にスタート、今では100業界をカバーしている。2020年10月には3300万票を発行、これは1年前より2300万枚も増えている。2020年に入ってからは、コロナ防疫体制が追い風となる。非接触の要請に、不動産取引、医療、学校など実際の現場で応えた形だ。ブロックチェーン領収書により企業財務担当者の作業量は減少、彼らの個人的役得や、会社の脱税をも封じた。これにより企業税務は大きく改善した。

テンセントと税務局は、電子領収書技術と税務情報を基に、融資サービス、個人税務情報、破産事務処理などの新しいプラットフォーム建設を進めていく。

■i深センアプリ…ブロックチェーンで市民に証明書発行

・アプリ普及による行政のデジタル化

深セン市民は、i深センアプリ(深セン市統一政務服務App)をダウンロードすれば、デジタル行政サービスを受けることができる。すでに社会保障、医療健康、交通、治安、生活インフラ、デジタル証明書、バカンス、文化・スポーツ情報の8分野をカバーし、今後は使い勝手の良さを追求していく。すでに55分野7696項目で電子照会、電子証明を行い、個人の95%、法人の70%の事務処理をオンライン上で行っている。

これらは、中国平安のブロックチェーンプラットフォームに依拠している。目標は“秒殺”サービスを増やすことである。スマホで申請、自動承認、即時決済、動的監視という新しいインターネット+行政サービスの確立を目指す。新しい「深セン速度」ともいえる秒殺サービスは、すでに212項目で実現した。

■ブロックチェーンの“都”争い…海南省と競合

深センは次の40年、発展の核としてブロックチェーンの“都”を目指すという。これは全省上げて研究開発に取り組む海南省と同じだ。海南省は優遇税制を導入、企業と人材の吸引に注力している。しかし、深センの産業集積の厚みでは、農業と観光の海南省とは比較にならない。

深センは2020年10月、全国に先駆けたデジタル人民元導入テストも行い、成功を収めた。社会実装においては海南省より、かなり優位だろう。この先、深センのブロックチェーン産業が、構想通り進むかどうかはわからない。それはともかく、いまだ課題にすら上がらない日本より、数段進んでいるのは間違いない。

■筆者プロフィール:高野悠介

1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。

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