Record China 2014年2月17日(月) 0時10分
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ある農村のリキシャワラは10歳の一人息子に未来を託していると語った。彼の収入はミルクの生産販売、農業収入、リキシャの収入あわせて月一万円程度だ。
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ある農村のリキシャワラは10歳の一人息子に未来を託していると語った。(リキシャワラとはリキシャの運転手。リキシャとは人力車が語源で、自転車で車を引くもの)
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彼の収入はミルクの生産販売、農業収入、リキシャの収入あわせて月一万円程度。その内学校への学費が月1500円、家庭教師への月謝が3000円、息子の10年満期の積立金を月500円。実に家計の40%を息子の学費に費やしている。さらに大学卒業するのに学費20万円程度が必要であるが、彼は、大学進学が決まったら田畑も売るつもりだという。
生活は厳しい。朝の6時から起きて野良仕事をこなし、昼の2時から夜10時までリキシャワラをやる毎日。爪に火をともす生活の中で次の世代の将来が開けるべく最大限の努力をしている。
もちろん、子どもの成績が投資に見合うものでなければならないが、彼の息子は優秀で将来を嘱望するに足る成績をとっていると誇らしげに語っていた。
■超学歴社会バングラデシュ
バングラデシュの学制はざっくり説明すると以下のようになる。
小学校(Primly school) 5年、中学校(Higher Secondary School) 5年、高校(Intermediate College) 2年、大学University(学士) 4年 Master(修士) 2年である。小学校は義務教育で公立学校の授業料は無償である。
中学校卒業時にSSC(Secondary School Certificate)、高校卒業時にHSC(Higher Secondary School Certificate)と呼ばれる国家試験がある。
このSSCとHSCの試験成績は履歴書に一生書かなくてはいけない。公務員や大企業の会社員になるにはさらに別途試験があり、その試験の成績で昇進のスピードが決まる。
つまり、現在のバングラデシュは一発勝負の試験と学歴によりその子の一生が差別される超学歴社会なのだ。
■試験地獄を歓迎するバングラデシュ人
日本ではセンター試験改革が提起されるなど、近年、一発勝負の試験の弊害ばかりがクローズアップされている。しかし、バングラデシュではむしろ良い方向に社会が変わってきたシグナルとして捉えられている。
このような学歴社会の傾向が強まったのは義務教育が制度化されたここ20年ぐらいの変化だ。というのもバングラデシュはもともとインド・ヒンドゥー教文化に根ざした厳然たる階級社会。会社員でも公務員でも親の階級、出自がモノを言うコネ就職が当然だった。親の身分が低ければ、子どももその身分から抜け出せなかった。
今は違う。一発勝負の試験の成績さえよければ親の出自を乗り越えることができる。自由に階級を移動できるチャンスがある。裕福な上流階級の家庭でも学業をおろそかにはできない。貧乏人でも金持ちでも試験はほぼ平等に行われ、熾烈な競争が行われている。
■幼稚園から勉強漬けに
ダッカなどの都心部では、年々早期教育がさかんになってきている。小学校に入る前に3歳ぐらいから幼稚園のクラスがある。Playgroup、Nursery、 Kindergartenと昇級していくごとに名前が変わるのだが、その学習量は驚くばかり。英語、ベンガル語などの文字の勉強は小学校進学前に終えてしまう。それほど裕福でない家庭でも、すこしでも学校の成績を良くしたいがために家計を切り詰めて幼稚園におくっている人も多い。
塾や家庭教師も大きなビジネスになっている。学校の教育方法は暗記式に偏っていて、試験に出てくるであろう様々な課題について理解を進めながら学習をすすめることが難しいためだ。
家庭教師を雇うにはそれなりに出費を強いることになる。しかも、評判のいい家庭教師は当然ながら授業料も高い。裕福な過程でそれほど学業成績の振るわない子は優秀な家庭教師によってある程度の成績を出して階級の維持を図る。一方どんな貧乏な家の子でも家庭教師などに頼らずとも成績の良い天才児はいるもので、そんな子は一度ダッカ大学などの名門大学に入学すれば、家庭教師のアルバイト収入で授業料と生活費を賄うこともできる。
■横行するカンニング
テストが一生を左右する一発勝負ゆえに、何としても良い成績をとりたい一心からカンニングに走る学生も多い。というよりカンニングは当たり前、いたるところで横行している。
地方では役所の公務員総動員で試験が行われる。カンニング対策の試験監督のためである。ある時など県知事が試験会場を視察し、「今なら許してやる!カンニングペーパーを持っている奴はすぐにだせ!」と命令したら、たちまち100kgちかい紙ごみができたとか言う逸話まである。
授業で扱われた問題がそのままテストで使われることが多いので、カンニングペーパーはきわめて有効なのだという。そんなわけで試験後の会場はそこらじゅうにカンニングペーパーが捨てられている。日本だったら大問題になるかもしれないが、こちらでは当然あることとして誰も気にしていない。
試験の主催者側もカンニング対策を実施している。その一つにギリギリまで試験問題を作らないというものがある。作ってしまうと内部者の誰かが買収されて漏洩するおそれがあるからだ。
■試験は親の同伴で
試験の日はたくさんの保護者が学校の前に詰めかける。なかには勤め先を休んで学校に向かう親もいる。日系企業でも、「子どもが試験なので明日休みます」とバングラデシュ人社員が言ってきて日本人の上司が戸惑ったという話を聞く。
試験を受けるのは子どもなのに親が行っても意味がないというのが日本人的な感覚だが、家族の関係が近いバングラデシュでは、一生を左右する一大イベントに付き添わないわけにはいかないのだろう。
■超学歴社会が生み出した少子化
超高学歴社会となったバングラデシュ。過去と比べると隔世の感がある。かつてのバングラデシュといえば就学率の低さが悩みのタネ。国際援助機関が登校した子供たちに食料を配ったり、あの手この手で学校に来るように工夫していたものだった。
バングラデシュ統計局の発表によれば、2011年の就学率は10歳から14歳までは8割、15歳から19歳まで4割程度である。就学率は男女ともほぼ同じ。ただし、20歳以上の就学率になると男子16%に対し女子7%と差が出る。女子の平均結婚年齢が18歳程度なので、結婚の影響も大きそうだ。
暗記式教育やカンニングの問題はあるものの、自分たちのより良い未来の為に子供たちに投資をするという姿勢が定着してきた。子どもに良い教育を施すためにはお金がかかる。子沢山では教育投資が分散してしまうと、子どもの数を一人か二人にしぼり、可能なかぎり高い教育を受けさせようとする家庭が増えている。
統計もこの社会変化を裏付ける。バングラデシュの2011年の合計特殊出生率は2.11(同統計局発表)だった。1991年の4.24から激減している。実際、30代以上の世代では10人兄弟も珍しくないが、10代の子供たちでは一人っ子か二人兄弟が主流だ。
バングラデシュといえば、貧乏子沢山のイメージを持っている方もいるだろうが、すでに大きな変化が生じているのだ。この変化はバングラデシュの経済成長、成熟した近代国家への歩みを示すものではあるが、メリットだけでは語れない。
バングラデシュは縫製産業で世界第2位の生産量を誇っているが、その裏付けとなっているのは優秀で安価な労働力の存在だ。今のところ2.11という数字はぎりぎり人口増加を維持できる絶妙なさじ加減を実現している。だがこのまま超学歴社会に伴う少子化に突入すれば将来的には豊富な労働力を枯渇させかねない一面も持っている。
◆執筆者プロフィール:田中秀喜
1975年生まれ。メーカー勤務、青年海外協力隊、JICA専門家を経てバングラデシュでコンサル業を起業。チャイナプラスワンとして注目されながら情報の少なさから敬遠されがちなバングラデシュの情報源となるべく奮闘中。
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