<コラム>中国のタピオカ屋がつぶれない、しごくもっともな理由

大串 富史    2020年10月16日(金) 10時20分

拡大

中国のタピオカ屋の留言牆(「絵馬」形式のメッセージボード)。日本であっても中国であっても「コト消費」はやはり必須なように思う。

(1 / 2 枚)

「この子たちはね、うちの粉丝(fansつまりファンの中国語訳)なの」。奶茶店つまりタピオカ屋の女店主が嬉しそうにそう言うと、ドアを開けて僕たちを「歓迎」してくれた、見たところまだ中学生ぐらいのその女の子たちもまた、はにかみつつも嬉しそうな様子だった。

その他の写真

もちろん、日本での話ではない。僕の家からほど近い、中国のタピオカ屋での話だ。

このタピオカ屋の2階の飲食スペースは20人分のイス(正確にはソファーとイス)しかないが、休日ともなれば先に紹介した中学生の子供たちも含め、若い人たちで大賑わいである。

じゃあ彼ら彼女らは何をしているのかというと、騒いでいるとか盛り上がっているとかゲームをしているというわけではないものの、タピオカを含む各種デザートドリンクを飲みつつ閑聊つまりおしゃべりをしていたりする。

見たところ、ここ中国ではタピオカ屋がつぶれる気配が全くない。

いや、つぶれるどころか、最近になって中大手チェーン店を含む様々なタピオカ屋がそこここと出店していて、小学校に上がったばかりの娘に「今度いつ新規開店のあのタピオカ屋に行くの?」とせがまれるほどだ。

もちろん立地が悪いとか美味しくないとか諸々の理由で個々の店がつぶれることはあろうが、最近の日本の報道のような軒並みなつぶれ方は全然ない。

さらに言えば、中国のタピオカ屋は一年を通じてホットもアイスも(そして中国の人々が慣れ親しむ「ぬるめ」のものも)提供するから、これから寒くなるけど大丈夫なのか?という心配も無用である。

ではなぜ、日本ではタピオカ屋が軒並みつぶれてしまうのか。

「『行列がないなら要らない』タピオカ屋を見捨てた若者たちのホンネ テイクアウトが活況でも関係なし | プレジデントオンライン」の中で、サイバーエージェント次世代研究所研究員である松野みどり氏は、「『物珍しいだけで、べつに美味しくない』タピオカの価値は行列にあった」とし、「タピオカが若年層を中心に支持されたのは、学校帰りに友達と一緒に行列に並び、おしゃべりしながら待つ時間が楽しかったからです。タピオカ店に並ぶことは、若年層にとってコミュニケーションの儀式の1つ。つまり、モノとしての新鮮さがなくなっても売れ続けたのは、友達と一緒に過ごすコトが魅力でした」と指摘する。

結論として「今回のコロナで閉店が続出したのも、タピオカがコト消費であることが大きい」とのこと。それで「ポストタピオカはデザートドリンク」とし、「デザートドリンク専門店とコンビニのコラボ」に注目。最近の動向を紹介してから「(店で友達と一緒に並ぶという体験に代わる、自分で機械を操作してデザートドリンクを完成させるような)体験価値をどうやってつくるのかがカギ」と結んでいる。

ではその一方で、中国のタピオカ屋がつぶれないのはなぜなのか。

理由その1-コト消費としての体験価値が高い:たとえば中国のタピオカ屋には、日本のタピオカ屋にはないものがある。つまり留言牆(「絵馬」形式のメッセージボード)である。若い人はメッセージカードを無料でもらって書き込み、タピオカ屋の壁に吊るすことができる。

もっとも、その内容はというと、少し「百度」していただければお分かりの通り、彼氏(彼女)と別れて辛い苦しい、みたいなものばっかりだったりする。

というか、そんないつもいつも恋愛し失恋し「絵馬」形式のメッセージボードに吊るすみたいな「コト消費」があろうはずもなく、中国のタピオカ屋における「コト消費」とはやはり、最初に書いたような「友達と一緒に過ごすコト」を指しているのだろう。

とはいえ、コーヒーショップ等にも以前から見受けられたこの「絵馬」形式のメッセージボードも含め、日本であっても中国であっても「コト消費」はやはり必須なように思う。ただしこれだけでは訴求力はまだ弱い。だから……

理由その2-『物珍しいだけでなく、美味しい』:台湾や香港とは違い、中国でタピオカ屋のブームに火が付いたのは比較的近年で、2016年から2019年の3年間で19万店舗が55万店舗となり、以後2010年から2019年にかけて毎年9万店舗以上が新規開店している。

つまり若者たちにとって、タピオカ屋には数年前にはなかった物珍しさがある。

加えて、確かにそれなりに美味しい。質も値段相応だ。「ハンバーガーショップ(に行ってジャンクフードを食べたり飲んだりする)よりこっちの方が(質的にも)いいです」とは、このタピオカ屋に1日に1回は足を運ぶという(だからタピオカ屋に足を運べばまず間違いなく会って話せる)、中学校でpythonを教えている専任講師の知人(25歳)のコメントである。

もっとも、タピオカを含むデザートドリンクは特段に健康にいいというわけではもちろんないし、それなり美味しいものの凄く美味しいというわけでもない。中国のハンバーガーショップと比べれば、という比較の問題に過ぎない。

とはいえこの、タピオカ屋はハンバーガーショップよりいい、というのは相応に説得力がある。

たとえば日本でもおなじみのケンタッキー・フライドチキンは外資系のファストフード店では中国ダントツの全国5000店舗を誇り、次位のマクドナルド(約2500店舗)を大きく上回る勢いであるものの、それとて全国1万店展開を果たした国産ファストフード店の華莱士の半分に過ぎない。

つまり簡単な足し算をすれば分かるのだが、中国ではそれら全国のハンバーガーショップが束になっても、タピオカ屋にはかなわない。

そんな異業種同士の変な比較をしないでくれー!とハンバーガーショップからの抗議が聞こえてきそうだが、実はここに、タピオカ屋の訴求力のさらなる秘密が隠されている。それは……

理由その3-タピオカ屋は儲かりやすい:中国で1杯150円のタピオカミルクティーは、原価が30円以下だと言われている。他のデザートドリンクと合わせても、その利益率は70‐80%。つまり中国でタピオカ屋が流行っているのは、買い手側のみならず売り手側の都合と大きな関係がある。

加えて開業もしやすい。わずか2日で高度に標準化された手順を学んで、他店とほとんど同質のタピオカミルクティーを提供できるし、大手チェーン店に加盟すれば3-5か月で元手が取れる。しかも中国人的には「ハンバーガーショップよりこっちの方がいい」。

とはいえ、この話には続きもある。

中国は騰訊網の「人気急上昇中のタピオカ屋の裏事情:一年で9万店が新規開店、90%が閉店、ブランド店(つまり中大手チェーン店)だけ儲かる」と題する記事は上記の数値を紹介したのち、「タピオカ屋の赤裸々な現実」として、5万元(日本円にして約80万円強)かけて新規開店しても1000元(日本円にして1万5000円)で売りに出すことになるかもしれません、と結んでいる。これについては「百度」をすればすぐにでも、似たような警告めいた「提言」に行き当たるだろう。

では中国のタピオカ屋がつぶれない(もっと正確には、つぶれていないように見える)、しごくもっともな理由とは何なのか。

そこには、中国の若者たちの「コト消費」がある。加えて、中国人的には「物珍しいだけでなく、美味しい」ので、ハンバーガーショップより人気がある。

なにより、たとえ「タピオカ屋の赤裸々な現実」があるとしても、毎年9000店が人気店として生き残るため、全体としては増え続けている。

僕もまた、若い時に大興奮でハンバーガーショップに行っていた頃のことを思い出す。そこには「コト消費」があったし、「物珍しいだけでなく、美味しい」とも思った。

日本全国には今、ハンバーガーショップが6000店ほどあるという。人口10万人当たり5店弱だから、中国の人口14億人換算にすれば、まあ中国のタピオカ店並みの成功と言えよう。

では、タピオカ屋は今、実際どうなのか。

「タピオカ屋、ピーク過ぎても企業数は前年の2倍に - BCN+R」によると、「(日本の)『タピオカ』専業および関連事業を営む企業は、2020年8月末時点で125社となり、2019年8月の60社から1年で2倍に増えている」。

おや?日本でもタピオカ屋は全体としては増え続けている?のか?

同記事は言う、「大都市圏やインバウンドで活気づく地方都市を中心にタピオカが広がっていることがわかる。関東地方でタピオカ屋さんを営む企業は、『ライバルが増え、味やインスタ映えなど戦略が重要』と語る。」

「ブームが終焉を迎えるのか、落ち着くのか、まだ盛り上がるのか。分岐点に差し掛かっているようだ」。

だから、日本の皆さんの周りでタピオカ屋が軒並みつぶれる=ブームの終焉と断じるのは、まだ早そうだ。

そう、日本であっても中国であっても、インバウンドであってもなくても、「しごくもっともな理由」がありさえすれば、9人が倒れても1人は生き残れるのだから。

■筆者プロフィール:大串 富史

本業はITなんでも屋なフリーライター。各種メディアでゴーストライターをするかたわら、中国・北京に8年間、中国・青島に3年間滞在。中国人の妻の助けと支えのもと新HSK6級を取得後は、共にネット留学を旨とする「長城中国語」にて中国語また日本語を教えつつ日中中日翻訳にもたずさわる。中国・中国人・中国語学習・中国ビジネスの真相を日本に紹介するコラムを執筆中。

関連サイト「長城中国語」はこちら

この記事のコメントを見る

ピックアップ



   

we`re

RecordChina

お問い合わせ

Record China・記事へのご意見・お問い合わせはこちら

お問い合わせ

業務提携

Record Chinaへの業務提携に関するお問い合わせはこちら

業務提携