野上和月 2020年12月20日(日) 14時20分
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12月21日は香港人にとって大切な冬至の日だ。この日の夕方は毎年、中華レストランで多くの家庭がテーブルを囲んで団らんする、にぎやかな光景が街にあふれるが、今年はそれが見られないことになった。
12月21日は香港人にとって大切な冬至の日だ。この日の夕方は毎年、中華レストランで多くの家庭がテーブルを囲んで団らんする、にぎやかな光景が街にあふれるが、今年はそれが見られないことになった。感染第4波となって猛威を振るう新型コロナウイルスを防ぐため、香港政府が23日まで夜間の店内飲食を禁じたからだ。新型コロナは香港の伝統文化にも影響を及ぼしている。
冬至は、家族の絆を大切にする香港人にとって重要な年中行事だ。家族の円満や団結を祈って、みなで揃ってご馳走を食べる。「湯丸」という、団子が入った甘いスープを飲むことも欠かさない。団子の丸い形が、円満や団結の象徴とされるからだ。夕食に間に合うようにと、この日ばかりは多くの企業が就業時間を短縮し、社員が早めに帰途に就くよう取り計らう。
大人数でテーブルを囲むことができる中華レストランは、毎年どこも客でいっぱいだ。店は特別料理を用意し、値段も跳ね上がるが、客は「大切な日だし、一年に一回だから」と、奮発する。
しかし、今年はそのにぎわいが街から消えることになった。11月中旬に「社交ダンス界」で起きた集団感染をきっかけに、市中感染が瞬く間に広がる第4波がやってきたからだ。
つい1か月ほど前までは、多くの市民はまさかこんな事態になると想像していなかった。香港では、中国本土からの来港客を中心とした感染第1波、欧米などの留学先や海外の旅行先から戻ってきた香港市民を中心にした第2波、船舶や航空など、検疫免除の乗組員や、彼らから感染したとみられる香港市民らが感染源と想定される第3波が押し寄せたが、その都度、抑え込んできた。8月下旬以降、一日の新規感染者は多くても十数人程度までに沈静化し、海外旅行再開の第一弾として11月22日から、シンガポールと香港との間で、相互に旅行を再開させる段階までこぎつけていたからだ。
ところが、この旅行再開のまさに直前、状況は暗転した。「社交ダンス界」で集団感染が起こると、感染者は急増。ダンス関係の感染が確認される前は、累計5479人(死者108人)だった感染者が、12月16日現在、7804人(死者123人)と、この1か月足らずで2300人以上も増えた。ダンス関係だけでもすでに700人以上の感染例が出る事態となったのだ。
ダンス参加者は、マスクをせずに「蜜」になって室内で踊るだけでなく、複数のダンス会場をはしごして交流していた。企業経営者の家族など、年配の富裕層が多く、社交的で行動範囲も広いことが感染拡大のスピードに拍車をかけたようだ。感染はダンス関係者が住む住宅や立ち寄ったレストランにも及んでいった。ダンス関係以外にも広がり、ここにきて、トイレの下水管や換気扇などを介してウイルスが拡散したとみられる住宅ビルでの集団感染が、複数のマンションで起きている。これまでと違って、感染源が不明なケースも多い。若者が感染して重症化や死亡するなど、不気味さも増している。
こうした中で、政府が打ちだした感染防止強化策の一つが、午後6時以降の店内飲食の2週間禁止で、その期間に冬至の日も含まれたというわけだ。同じ措置は第3波の時に経験済みだが、当時は大きな年中行事があったわけではなく、香港人家庭やレストランに与える影響は今回とは訳が違うのだという。
レストランで団らんを予定していた家庭の中には、急きょ週末の日中に変更した家もあるが、香港人の友人宅のように、「狭いが、家で団らんすることにした。料理はネットで冬至向けセットメニューを注文した」という家も少なくないようだ。外食ができず、かといって手料理を準備する時間がない家庭向けに、ネットで注文から配達まで手配できる新たなサービスが出てきたのだ。
一方のレストラン。一年で最もかき入れ時の冬至やクリスマスシーズンが到来し、これまで落ち込んだ分を挽回したいと考えていたが、それどころではなくなった。夜間の店内飲食禁止措置が延長されれば、クリスマスも西暦新年の需要も大幅に減退してしまう。
飲食業界によると、例年、冬至の売り上げは業界全体で4億~4億5000万香港ドル(約53~60億円)だ。12月全体では110~120億香港ドル(約1500~1600億円)規模だが、今年の12月は昨年より約65%も落ち込むとみている。今年に入って11月までに約2000店が閉店したが、12月にさらに約1000店がつぶれる可能性があるという厳しい状況だ。
「まさかこんな一年になるとは」。香港人の友人らから口癖のように出てくるこの言葉。例年なら、一年で一番、市民の消費も飲食も活発になり、街に人があふれかえる楽しい時期だけに、今の香港の街の様子はこの言葉に尽きると思う。(了)
■筆者プロフィール:野上和月
1995年から香港在住。日本で産業経済紙記者、香港で在港邦人向け出版社の副編集長を経て、金融機関に勤務。1987年に中国と香港を旅行し、西洋文化と中国文化が共存する香港の魅力に取りつかれ、中国返還を見たくて来港した。新聞や雑誌に香港に関するコラムを執筆。読売新聞の衛星版(アジア圏向け紙面)では約20年間、写真付きコラムを掲載した。2022年に電子書籍「香港街角ノート 日常から見つめた返還後25年の記録」(幻冬舎ルネッサンス刊)を出版。 ブログ:香港時間インスタグラム:香港悠悠(ユーザー名)fudaole89
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