<コロナ後に起きること>世界を変えた疫病の歴史=「破局」避け「改革発展」に繋げたい

八牧浩行    2021年1月16日(土) 6時20分

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新型コロナウイルスの蔓延により厳しい状況が続いている。多くの人命を奪い、経済社会活動を破壊。旧来の世界秩序は崩れつつある。疫病の歴史から教訓を探り、コロナ後に生かしたい。写真は東京・銀座。

新型コロナウイルスの蔓延により日本と世界にとって厳しい状況が続いている。多くの人命を奪い、経済社会活動を破壊、もともと脆弱だった世界システムにさらなる試練を与えた。世界の政治・経済構造を変え、旧来の世界秩序は崩れつつある。

◆日米欧で感染急拡大

厳冬期に入り北半球の日米欧で再び新型コロナ感染が拡大した。英国をはじめ欧州各国は厳しいロックダウンを実施した。日本でも昨年春以来の緊急事態宣言が発出され、観光需要喚起策「Go To トラベル」事業の一時停止や、飲食店への営業時間の短縮要請などに追い込まれた。コロナ禍の経済への影響は、業種や地域、雇用形態などでばらつきが多く、格差を生じやすい。

製造業はグローバルな生産活動の再開で回復がみられる一方、サービス業は飲食・観光業などを中心に厳しい状況が続く。各国は異次元の財政金融政策により経済の落ち込みの抑止に動くが、一律のばらまきではなく、真に困っている人に支援が届くような目配りが必須である。

少子高齢化や潜在成長率の低下などにより経済が低迷している日本の経済再生には、単に「コロナ前」に戻すだけではなく、デジタル化や雇用市場の改革など新たな経済・社会を切り開く戦略が必要である。産業構造の改革の遅れなどもコロナ禍で顕在化した。世界全体を見渡しても、米国と中国の対立、貧富の格差拡大、グローバル化の弊害など、かねて取りざたされていた問題が浮き彫りになった。 

ワクチン開発に期待

希望はコロナワクチンの開発が世界で急速に進んでいること。欧米では接種も始まった。日本でも米製薬大手ファイザーが承認を申請した。中国でも、国有製薬大手、中国医薬集団(シノファーム)傘下企業が開発した新型コロナウイルス不活化ワクチンを同国政府が承認。春節(今年は2月12日~)までに、医療従事者やライフライン労働者など9種類の重点グループへの緊急接種を完了する予定という。すでに東南アジア、中南米、アフリカ、中東諸国などへのワクチン供与もスタートした。

新型コロナ感染症は国をまたぐ複雑な問題であり、孤立主義的な政策を取るのではなく、積極的に多国間協力を模索し、協調して終息させなければならない。米国はトランプ政権の誤った対策のために痛ましい代償を払っている。これに対し中国、台湾、シンガポールなど感染症を封じ込めているアジア諸国は21年に経済が急速に回復し、世界経済の成長の支えになると予測されている。

◆米中のGDP逆転早まる

コロナ禍への対応の差で中国優位の流れが加速しそうだ。日本経済研究センターは名目GDPでも「28~29年」に米中が逆転するとの見通しを発表。英国のシンクタンク、経済ビジネス・リサーチセンター(CEBR)は20年12月下旬に発表した世界各国の経済状況の比較報告の中で、中国の経済規模が2028年に米国を抜いて世界最大の経済大国になるとの予測を示した。従来予測よりも米中逆転のタイミングが5年前倒しになるとの予測を示した。さらにIMF、OECDなど有力国際機関の予測分析でも、米中経済のGDP経済規模は20年代に逆転する見込みだ。

一方、「米国第一主義」を掲げたトランプ政権の登場以降、多国間協調は大きく後退した。バイデン大統領は、協調路線に回帰する意向を示しており、その試金石となるのが、コロナ対策と地球温暖化対策だ。いずれも一国だけでの解決は難しい地球規模の問題だ。バイデン氏はトランプ氏が脱退を決めた世界保健機関(WHO)と、温暖化対策の国際的枠組みのパリ協定に復帰する考えを表明している。コロナ対策では資金の乏しい開発途上国へのワクチン供給が急務であり、温暖化対策では世界最大の温暖化ガス排出国の中国の協力も必要になる。

米国の国会議事堂といえば民主主義の象徴だが、新年早々流血の場と化した。多数の暴徒がトランプ氏に煽られて議事堂内に乱入して一時占拠、5人が死亡した。世界のリーダー国家・米国の混迷は、国際政治にも影響を与え、同盟国・日本にとっても、看過できない事態である。

◆ルネサンス・宗教改革・産業革命の一方、世界大戦の誘因にも

過去に猛威を振ったペスト、コレラ、スペイン風邪など疫病は、洋の東西を問わず人類に厳しい試練を与えたが、秩序破壊や改革の起爆剤となり文明や経済の飛躍的な発展をもたらした。西洋での宗教改革やルネサンス、宗教改革、産業革命はその好例である。

一方で、疫病は深刻な破局にも繋がる。20世紀初頭のスペイン風邪は当初は第一次世界大戦終結方向に作用したが、以降の世界は、ドイツをはじめ戦争債務に苦しみ、未曽有の不況下でブロック経済化することで対応。各国協調に逆行したその帰結は第二次世界大戦の一因となったことを想起すべきであろう。

保護主義の蔓延が誘導するブロック化の危険性は歴史が証明している。1929年に米国に端を発した世界大恐慌を受けて米国が30年代に実施した貿易戦争により、全世界の貿易は66%萎縮。米国が関税率を引き上げ他の国も対抗、全世界の貿易コストが10%上昇した。さらに主要国は相次いで「ブロック経済」政策を採用。英国によるポンド圏、フランスによるフラン圏、さらに米国のドル圏などの、貿易の「囲い込み」現象が出現した。

世界経済がブロックに分割されたことにより、ドイツやイタリア、日本など植民地を持たないか少ない国は不況の影響をより深刻に受けることになった。その結果、イタリアやドイツではファシスト、ナチス、日本では軍部など、「世界秩序の変更」を求める勢力が台頭し、第2次世界大戦の引き金になった。戦後の自由貿易体制の構築は、「ブロック経済への反省」の結果実現した。ブロック化が進行すれば、特に資源が乏しく貿易投資立国の日本は大きな影響を受ける。

◆経済の相互依存の進化を

世界の成長センターである東アジアで経済の相互依存を深めることこそが軍事衝突や経済の落ち込みを防ぐ最大の抑止力になる。2度の世界大戦の教訓から生まれた共通経済市場であるEU(欧州連合)諸国の間では、「戦争が起きると考えている国民はいない」(仏外交筋)という。

日本は米国が脱落した環太平洋経済連携協定(TPP)を主導し、中国・韓国・豪州・東南アジア諸国などと東アジア経済連携協定(RCRP)を締結した。世界が再び「自国第一」「孤立主義」に陥らないよう、引き続き国際協調の再構築に積極的に関わるべきである。

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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