松野豊 2021年4月28日(水) 10時50分
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日本企業のターゲットは、中国政府が今後付加価値の絶対額を増加させていきたいと考える自動車、機械産業、および生産性向上が必要な食品、服装業などになるだろう。写真は北京。
2021年の全国人民代表大会(日本の国会に相当)は、遅延することなく3月上旬に行われ、本年から始まる第十四次五か年計画(以下;「十四五」)が採択された。
「十四五」には、現在の世界経済の情勢に対応するための政策が多く書き込まれている。これらのうち日本企業の中国ビジネスという観点で見れば、大きく4つに注目すべきであろう。すなわち「付加価値経済成長」、「イノベーション駆動」、「国内市場形成」、「グリーン発展」である。
第一は、経済成長を量的成長から質的成長にシフトして、成長の持続性を高めようとしていることである。質的成長については、これまでの五か年計画でも強調はされていた。しかし同時に成長率目標も明示されていたために、各地方政府などは目標達成のために量的成長を追求しがちになり、経済の質的成長への転換はあまり進んでいなかった。
質的成長とは、例えば産業の付加価値増大や労働生産性を高めていくことである。中国の五か年計画には多くの定量的目標値(KPI)が設定される。「十四五」では「経済発展」、「創新駆動」、「民生福祉」、「緑色生態」、「安全保障」の5つの分類で合計20のKPIが設定された。
このうち「経済発展の質的成長」に関連するKPIは、GDP、労働生産性増加率および都市化率(常住人口比率)の3つである。ただしGDPについては数値を明示せず、毎年「合理的範囲」に設定するとだけ記述されている。また五か年計画ではなく、2021年の計画ではGDP成長率は6%以上と記載されている。
労働生産性については、KPIを実質GDP成長率以上としている。中国の労働生産性は近年6%程度伸びており、生産性の伸びだけで経済を成長させていこうとする政策の意図が反映されている。また都市化率は現在が60%強であるため、5年後に65%というKPIは大きなチャレンジではないだろう。ここでも量的拡大指向が抑制されている。
さて、付加価値成長をめざす中国経済において、日本企業にはどのようなビジネスチャンスがあるだろうか。図1は、中国製造業の実質付加価値額の推移を示したものである。また図2は、同様に実質労働生産性の推移を示したものである。
図1をみると、中国の製造業の付加価値額は継続して拡大してきたが、近年やや減少に転じている。また図2によると、中国の製造業で労働生産性が高いのは、自動車や機械産業であり、生産性が低いのは食品や服装業である。また資源産業は、政策や市況の影響を受けるためか生産性の数値は安定していない。
これらのことから、日本企業のターゲットは、中国政府が今後付加価値の絶対額を増加させていきたいと考える自動車、機械産業、および生産性向上が必要な食品、服装業などになるだろう。
製造業の生産性向上に寄与し、日本企業が比較優位性を持つものとしては、例えば製造設備関連および関連のサービスが考えられる。FA機器などは現在でも対中ビジネスの主力製品ではあるが、生産性向上のための製造設備関連は、中国側のニーズが高いため今後の日本企業の主力戦略になるだろう。
■筆者プロフィール:松野豊
大阪市生まれ。京都大学大学院衛生工学課程修了後、1981年野村総合研究所入社。環境政策研究や企業の技術戦略、経営システムのコンサルティングに従事。2002年、同社の中国上海法人を設立し、05年まで総経理(社長)。07年、北京の清華大学に同社との共同研究センターを設立して理事・副センター長。 14年間の中国駐在を終えて18年に帰国、日中産業研究院を設立し代表取締役(院長)。清華大学招請専門家、上海交通大学客員研究員を兼務。中国の改革・産業政策等の研究を行い、日中で講演活動やメディアでの記事執筆を行っている。主な著書は、『参考と転換-中日産業政策比較研究』(清華大学出版社)、『2020年の中国』(東洋経済新報社)など。
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