中国の探査機が火星着陸に成功、日本で「賞賛」のコメントも多いのはなぜだろう?

如月隼人    2021年5月15日(土) 19時10分

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中国の無人探査機が火星への軟着陸に成功した。関連記事には中国の技術の進歩を称賛すると同時に、日本の現状を憂う心情が込めらたコメントが寄せられた。日本人の対中意識を反映したものと考えてよいだろう。

中国の無人探査機「天問1号」が15日未明、火星の「ユートピア」平原に軟着陸した。「天問1号」には火星探査車「祝融号」が搭載されており、中国国家航天局(宇宙局)によると「祝融号」から送られたリモートセンシングの観測信号で確認できたという。火星への無人探査機の着陸を成功させたのは、ソ連、米国に次いで中国が3カ国目だ。

ソ連は1971年のマルス3号で、火星への軟着陸一番乗りを果たしたが、ソ連の探査機はいずれも、極めて短い時間で通信が途絶した。一方、米国の探査機として初めて火星に着陸したのはバイキング1号だった。1976年とソ連に比べて出遅れたが、2000年を過ぎたころからはさまざまな探査機を火星に送り込むことに成功しおり、探査車も活動させている。中国の「祝融号」が順調に活動すれば、中国は火星で探査車を活動させた2番目の国になる。米国が「牙城」とする科学技術分野に中国が乗り出す状況は、火星上で「地上の縮図」が展開されているようにも見える。

ここで注目したいのは、同ニュースに対して投稿されたコメントだ。投稿者の国籍を厳密に判断する方法はないが、流暢な日本語で書かれているかぎり、日本人による意見表明と理解して、まず間違いないだろう。

コメントの投稿先サイトによっても傾向は違うようだが、例えばYahoo! には、宇宙開発における中国の先行性を指摘するコメントも目立つ。例えばYahoo! が掲載した「中国の無人探査機、火星『ユートピア平原』着陸」と題する記事に寄せられたコメントで、「いいね」を最も多く集めているコメントは「日本の宇宙開発の方がはるかに早い時期からのスタートだったのに、月に探査機を送ることもできず、周回しかさせられない。有人宇宙飛行は全く出来ていない」「盗用だ盗用だと日本人が文句を言っている間に、宇宙開発、AI、量子コン、ドローン、5G技術すべてで日本は後塵を拝してる」などと指摘した。

SNSやYahoo! などのポータルサイトに寄せられるコメントは、中国に対する「罵詈雑言」が極めて多い状態だ。もちろん、中国が抱える問題点を鋭く指摘し「中国は自ら強調するほど順風満帆ではない」と論を進める、「なるほどなあ」と思わせるコメントも少なくない。ただし、「中国の言うことはすべて信用できない」といった感情的な反発も非常に多い。

しかし、中国が科学技術分野で目に見える成果を出せば、それを評価するコメントが寄せられ「いいね」を獲得する。これは、どういうことなのだろうか。

私は、明治以来約100年に渡って続いた日中の「力関係」のイメージから、日本人がまだ抜け出せていない、という原因が大きいと考えている。ある程度以上年配の日本人にとって中国は、自分が生まれた時から「日本よりずっと遅れた国」だった。それよりいくぶんか若い世代にも「日本が上、中国が下」という認識のパターンが残っているのではないか。

国の経済力の指標として代表的なものに国内総生産(GDP)がある。もちろんGDPだけで国の総合力を判断することはできないが、大雑把な指標としては重要と考えてよいだろう。さて、2020年時点で中国のGDPは101兆5986億元(約1726兆円)で、日本は539兆1000億円だった。つまり、中国の経済規模は日本の3倍以上になった。中国が日本をはるかに上回る経済大国に成長したのは事実だ。

ここで、中国関連のニュースに寄せられるコメントの傾向を、もう一度、考えてみよう。中国の発展を素直に認める投稿も少なくはないが、「主流」とは言えない。まず目立つのは、中国の体制を批判するコメントだ。「中国人は割と好きだが、中国共産党は諸悪の根源」と主張する投稿も珍しくない。

もちろん、中国国内にはさまざまな問題や矛盾が存在する。政策面について私自身、「その方法はマズいよなあ」と思うこともよくある。ただし、改革開放が始まって以来の共産党の牽引(けんいん)により、中国人のかなりの部分が豊かな物質生活を手に入れたのは事実だ。「人はパンのみにて生きるにあらず」とも言うが、まずは飢える心配がなく、自分自身がさらに豊かになるために努力することに意味を見出せる社会を「政治体制に納得がいかない」という理由だけで非難するのは、「客観的事実に準拠して」というよりも、心の底の“情念”に突き動かされた面が大きいのではないか。

もう一つ目立つのは、中国と絡めて日本人の「民度」を絶賛する意見などだ。確かに、日本人の秩序を重んじ、公衆道徳を大切にする習慣などは、世界に誇ってよいだろう。中国人の「民度」が平均すれば、日本人より低いのも事実だろう。ただ私には、中国発の「トンデモ記事」に対して「それに対して日本人は……」と指定するコメントが多いことには、日本人が自らのプライドをなんとか保とうとする「心理的反応」が影響しているように思える。

さて、実に興味深いことだが、日本人による中国を評するコメントでは、「中国スゲー!」の論調が席巻する場合もある。例えば2015年ごろからは、社会における急速なIT技術の応用が急激に進んだことについて「中国スゲー!」のコメントが急増した。現在では一時期ほどではないが、それでも同分野における中国の目覚ましい進歩に驚嘆するコメントは珍しくない。

これは、どういうことだろうか。日本人としては、中国の方が日本の先を行く現実は、認めたくない。認めたくはないが、驚嘆するしかない現実を突きつけられた場合、振り子が反対側に移動するように、思わず「大賞賛」したくなる心理が働くのではないか。

私が目にする中国批判のコメントの多くには「日本が好きだ」という感情が、その根底にあるようだ。いわゆる「ネトウヨ」のような排他的な主張とはかぎらず、「私は日本人だ。だから日本が好きだ」という素朴な愛国心が反映されている投稿が多いようだ。だとすれば、過去の対中観にも影響されて「日本が好きだからこそ、日本は中国より遅れていると認めたくない」感情が働くことは自然だろう。ただし、「この分野では中国の先進性を認めざるをえない」という現象を目の当たりにすれば、中国の現状を大いに認めた上で「日本もこのままじゃマズい」という主張が追加されることになる。

中国が無人探査機の火星軟着陸を成功させたことについて、中国の宇宙関連技術を称賛するコメントが寄せられ、「いいね」をする人が多かったことも、そんな日本人の「愛国心理」が反映されているように思われてならない。本稿前半でご紹介したコメントも、「本当に残念だけれど現在は中国に抜かれて水も開けられつつある」「もっと政府も国民も危機感を持つべきだ」と、中国を単純に称賛するのではなく、日本の現状を憂う部分にむしろ、重点が置かれている。

■筆者プロフィール:如月隼人

1958年生まれ、東京出身。東京大学教養学部基礎科学科卒。日本では数学とその他の科学分野を勉強し、その後は北京に留学して民族音楽理論を専攻。日本に戻ってからは食べるために編集記者を稼業とするようになり、ついのめりこむ。毎日せっせとインターネットで記事を発表する。「中国の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執筆。中国については嫌悪でも惑溺でもなく、「言いたいことを言っておくのが自分にとっても相手にとっても結局は得」が信条。硬軟取り混ぜて幅広く情報を発信。

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