<米中対立>米対日要求に「主権国家としてはっきり言うべき」―台湾有事には至らず―前駐米大使

Record China    2021年5月19日(水) 7時20分

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杉山晋輔・前駐米大使が日本記者クラブで会見。今後日本は米国から役割分担を求められるが、「主権国家として国益上できないことは、はっきりこちらから(できないと)言うべきだ」と問題提起した。写真は杉山氏。

2021年5月18日、駐米大使を務めた杉山晋輔・外務省顧問が日本記者クラブで記者会見、日米首脳会談の意義、今後の日米中関係のあり方などについて語った。バイデン大統領は同盟を重視し、菅首相が初の対面首脳会談の相手として厚遇された背景には「対中脅威感」があると指摘。米国では米中関係について「民主国家対専制国家」として意識されるとしながらも、「中国封じ込めを狙ったものではなく、同じルールに基づく、責任あるパートナーにしようというものだ」と述べた。

その上で、今後日本は米国から役割分担を求められるが、「米国にいくら言われても、日本の国益のため、主権国家としてできないことは(できないと)はっきりこちらから言うべきだ」と問題提起した。また台湾をめぐる情勢について、「米中の緊張関係は高まるだろうが、経済発展途上にある中国にとって武力攻撃は考えにくく、『台湾有事』にはならない」と見通した。

杉山氏は1977年外務省入省。アジア大洋州局長、外務審議官、外務次官を経て18年1月~21年1月まで駐米大使を務めた。

杉山前駐米大使の発言要旨は次の通り。

トランプ前大統領は米国ファーストを掲げたが、バイデン大統領は同盟を重視し、菅義偉首相が初の対面首脳会談の相手にとして厚遇された背景には対中脅威感がある。中国のGDP(国内総生産)は世界の17%を占め、米国の22%に迫り追い抜くかもしれない。中国は(米国の)近現代史の中で、初めて(ライバルとして)出現した。旧ソ連は軍事大国だったが経済は脆弱で西側との相互依存関係はなかった。このため米中関係は米ソ冷戦時代とは異なる。米国での対中問題は「民主国家対専制国家」として意識される。しかし封じ込めを狙ったものではなく、同じルールに基づく、責任あるパートナーにしようというのがバイデン政権の問題意識である。

バイデン政権は「米国ファースト」を唱えたトランプ前政権と異なり、同盟国を重視し、NATO(北大西洋条約機構)や日本、オーストラリアなど同盟国と責任の分担を公平に推進していきたいと考えている。特に東アジアに関心を持ち、大きな成果を上げることを志向している。尖閣諸島防衛を米国から言い出したことも、日本重視と期待感の表れである。

今後日本は役割分担を求められるが、米国にいくら言われても、日本の国益のため、主権国家としてできないことは(できないと)はっきりこちらから言うべきだ。日米個別協議では、国益や日本の実情を踏まえた交渉が必要であり、半導体などのサプライチェーン(供給網)見直しでも日中と米中の経済関係は構造的に異なる。

「同盟」は共通の目標を共有しながら、同じことを行うことではない。英国は米国と血の同盟と言われるが、米国の反対を押し切って、蒋介石の台湾を切っていち早く中国を承認したのは英国である。英国は国家のアイデンティティを貫いたが、米英の「血の同盟」は損なわれなかった。

台湾をめぐり米中の緊張関係は高まるだろうが、経済発展途上にある中国にとって武力攻撃は考えにくく、「台湾有事」にはならないだろう。日本は平和安保法制の下で抑止力、防衛力を強化する必要があるが、今の段階で先走り、浮足立つのは控えるべきだ。米中が武力衝突すれば世界大戦に繋がってしまう。(戦争を望まないのは)米国も同様である。

バイデン政権は分断と格差是正を最重要課題に掲げており、経済政策では中産階級の拡大を志向している。これは中国とも共通である。(八牧浩行

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