高野悠介 2021年7月26日(月) 9時40分
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急拡大中のスマートコンビニ「便利蜂」に米国IPOの噂が絶えない。
急拡大中のスマートコンビニ「便利蜂」に、米国IPO(新規株式公開)の噂が絶えない。コンビニ業態をIT企業にアップデートし、セブンイレブンを凌駕したといわれるが、何が評価されているのだろうか。
■スマートコンビニ
「便利蜂」は2016年12月に設立、翌2017年2月、北京で1号店をオープンした。
創業者の庄辰超は1999年、北京大学電子工程系を卒業後、スポーツ情報サイトの創業に関与する。その後2005年、オンライン旅行会社「去哪児」を創業し、大成功を収めた。2015年、同業の「携程」に売却するまでCEOを努めた。そして2016年、投資会社や便利蜂など、新規事業を立ち上げた。まるでITの申し子のような人物である。
そんな人物が、黒字企業がほとんどないコンビニチェーンを始め、順調に結果を出しつつある。わずか4年で2000店舗を突破、最重点の北京地区では黒字を達成した。
■中国コンビニ業界…日系3社の存在感
2020年中国便利店行業発展現状分析(前瞻経済学人)によると、2019年の中国コンビニ総売上は2556億元(4兆3852億円)。2015年の1181億元から2.3倍に急増している。
同年の日本コンビニ売上は11兆1608億円(前年比1.7%増)。中国の2.5倍と規模は大きいが頭打ちだ。
別資料、2020年中国便利店TOP100(中国連鎖経営協会)によると店舗数ランキングは
1.易捷(中国石化) 27600
2.美宜佳 22394
3.昆崙好客(中国石油) 20212
4.店福 5808
5.羅森(ローソン) 3256
6.中国全家(ファミマ) 2967
7.セブンイレブン 2321
8.十足、之上 2147
9.見福 2021
10.便利蜂 2000
1と3は国有石油会社系で、ガソリンスタンド併設店が多い。日本3大コンビニは、長い中国進出の歴史を持つ。セブンイレブンは1992年、ローソン1996年、ファミリーマート2003年である。日系の進出は、国産コンビニの誕生の契機となった。そのため店舗数以上の存在感がある。
■赤字体質…黒字まで四半世紀
中国コンビニ1店舗当たりの平均日販は5297元(9万800円)しかない。日本は、セブンイレブン65.6万円、ローソン53.1万円、ファミリーマート53.0万円だ。やはり日本とはコンビニの浸透度や店舗効率がまったく異なる。そして日系3社も含め、コンビニは社会インフラとはなりえず、新零售と呼ばれる新しいOMO(Online Merges Offline)小売業に押され始めた。客層も中国では若者中心にとどまっている。
そこで、即時配送プラットフォームとの提携に踏み切った。セブンイレブン北京はフードデリバリー最大手の美団外売と、ファミリーマートは京東到家と提携した。セブンイレブン北京の提携は、コンビニが新零售の軍門に下った象徴と捉えられ、中国の無精な若者、世界標準のコンビニを打ち負かす、と伝えられた。
2020年、ローソンは初の年間黒字を達成した。進出から四半世紀立っていた。セブンイレブン、ファミリーマートは、まだ全体を黒字化できていない。中国系は推して知るべしだろう。
■便利蜂のビジネスモデル…IT化
そんな中、新参の便利蜂は急成長を遂げ、スマートコンビニの誕生と称されている。どのようなビジネスモデルなのだろうか。
便利蜂の総裁兼CEO・王氏はかつてセブンイレブン北京に在籍、ローカルコンビニ「鄰家便利店」の董事長も務めたコンビニの申し子だ。便利蜂は2017年、セブンイレブンの提携食品工場に投資したのを皮切りに、投資を加速し、セブンイレブン流のサプライチェーンを構築した。そして商品開発、ストアブランド確立に力を入れた。ここまでは日系コンビニのノウハウだ。
ここからITの申し子、庄辰超は、10年後を見据え業界全体のアップデートを試みる。データ駆動型のデジタル情報システム構築を目指した。生産、物流、店舗、顧客のデータを、独自アルゴリズムで分析し、店舗運営を機動的に行うものだ。システムは、出店候補地の選定、店舗設計、品揃えと価格、スタッフシフトまでガイダンスを行う。これなら開店早々、商圏にアジャストできる。商品の入れ替えも個店データに基付いて実施するため、成功率は高い。そしてデリバリーは直営で行っている。
■高速拡張モデル…10000店計画
便利蜂は2020年12月、取引先を集めたサプライヤー大会の席上、2021年は“高速拡張モデル”の元年と表明した。2021年に、1年で2倍、4000店を達成にするという。そのうちの半数は、二三線級の地方中核都市に出店する。1日当たり5.5店オープンするペースだ。そして2023年には10000店を目指す。
それには資金調達が欠かせない。庄辰超はここでもコンビニ業界をIT業界のレベルに引き上げた。1~3年でビジネスモデルの、3~5年で規模拡大、そして上場というストーリーだ。これまでの出資者には世界的PE(Private Equity)ファンド、政府系ファンド、大学ファンド、テンセントなどが含まれる。資金調達でも十分手腕を発揮した。
■米国上場計画は再考か
便利蜂は、コンビニをIT企業へ変貌させ、O2Oの最適化、アップグレードを進め、10年後の消費水準にアジャストしようとしている。全体マニュアルにこだわり、異業種をあまり意識しない日本式モデルを上書きしつつあるのは間違いないだろう。
そのための資金調達にはIPOが最も手っ取り早い。しかし、米国上場には中国政府の横槍が入った。100万人以上の情報を保有する企業は事前審査の対象となる。米国上場は再考せざるを得ず、高速拡張の資金調達に支障が出るかもしれない。今後の出店状況に注目したい。
■筆者プロフィール:高野悠介
1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。
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