八牧浩行 2021年8月1日(日) 6時40分
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鶴岡公二・元駐英大使が日本記者クラブで講演し、EUの大企業にとって「最大の市場である中国は重要なパートナーである」と指摘。ASEANや日米の企業も同様であり、米中は率直な対話の道を探るべきだと話した。
国際問題に詳しい鶴岡公二・元駐英大使がこのほど日本記者クラブで講演し、欧州諸国がインド太平洋への関心を強めている実態や、米中対立の中で日本の果たすべき役割などについて話した。EUの大企業にとって「最大の市場である中国は重要なパートナーである」と指摘。ASEANや日米の企業も同様であり、米中は率直な対話の道を探るべきだと強調した。
鶴岡氏は外務審議官(経済)、内閣官房内閣審議官兼TPP政府対策本部首席交渉官を務め、2016年から2019年まで駐英大使を務めた
鶴岡前駐英大使の会見要旨は次の通り。
リーマンショック(2008年)後 経済低迷・中国市場への期待から中国・EU(欧州共同体)協力関係は急拡大。欧州とEUの首脳は頻繁に往来した。欧州各国の「一帯一路(海と陸のシルクロード)」への参加が進み、中国企業の港湾等のインフラ開発・買収が進展した。メルケル独首相は2005年の就任以来12回訪中(訪日はG7含め6回)した。特に独経済は中国との結びつきが強く、自動車販売台数の4割が中国市場に依拠している。
EUの大企業にとって中国は重要なパートナーである。中国を失うことはあり得ず、中国が経済発展を続ける中でさらに投資を進めることになる。各国政府にとって中国問題での政治的な対応は難しい課題である。対中関係を全体として悪化させることはないだろう。ドイツの動きは他の国にも影響する。ドイツの海軍もアジア地域を訪問するが、中国の港への友好訪問も計画している。
フランスと中国の関係は伝統的に良好であり、(両国とも)経済的利益が重要と考えている。英国は香港の問題が起きるまで友好的だった。特にキャメロン首相時代に習近平主席の国賓訪問が実現した。英国の主要金融機関は香港に拠点を持っており、上海、北京など本土との関係も緊密で、閉鎖する覚悟はない。一種の「人質」の状態となっている。
各国にとって(最大の消費市場を有し、貿易投資相手国である)中国は例を見ないほど対応が難しい国になっている。日本も徹底的に対立することはできない。これは米国経済も同じ図式である。
ASEAN(東南アジア諸国連合)も対中国で一枚岩になり切れない。特に安全保障では相違が目立つ。ミャンマーの問題でもASEANは意見が一致しておらず脆弱性がある。
◆EU離脱の英国にとりTPPは魅力的
中国はじめ多くの国が推進するRCRP(包括的経済連携協定)は柔軟な構造があり、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)と異なる。地域で加盟国を限定しないTPPは、インド太平洋における経済面での制度的な基盤になりうる。RCEPに比べ開放的であり、加盟国は自由経済制度の導入が必要だ。EUを離脱した英国にとってTPPは魅力的であり、加盟には制度を整える必要があるが、英国は既にこの条件を満たしている。制度上EU諸国はEUを離脱しないと加盟できない。米国の復帰は、議会や政治と国内世論の関係から見て近い将来には実現しない。
EUは2021年4月に「インド太平洋地域における協力のためのEU戦略」を採択。世界が新型コロナ感染症の大流行から回復し始める中で、民主主義、法の支配、人権、国際法といった自身の核心的価値の推進に基づき、あらためて同地域の安定に積極的に関与していく姿勢を表明した。
インド太平洋地域の人口は世界の60%を占め、世界の国内総生産(GDP)の60%を創出、この地域の成長が世界の経済成長の3分の2に寄与するなど、経済的・戦略的に非常に重要な地域となっている。
EUと日本は戦略的パートナーであり、インド太平洋地域において志を同じくする。また、米国との関係はバイデン政権の発足で再活性化し、欧米共通の関心分野で関与することを再び推し進めるようになった。中国を既存の国際社会の秩序の代替モデルを広げようとする「体制上のライバル」と表現。一方で気候変動、投資協定など分野によって協力パートナーとなる。
ただ米中ともに他の国に「橋渡し」をしてもらおうとは考えていない。EUの安全保障は個々の国が独自に担当しており、NATO(北大西洋条約機構)が担っている。EUが行う安全保障は総花的なものにならざるを得ない。
◆経済発展が重要、「脅し」や「砲艦外交」は災い
各国とも経済を豊かにすることが最重要であり、これには他国との関係が安定していることが必要だ。中国にとっても対立は利益を損ない、台湾に対する脅しもマイナスに働く。米国にとっても同様で、軍事力を前面に押し出す「砲艦外交」は災いを招く。二大国である米中は建設的に関与していくことが必要である。米国も「聞く耳」を持ってもらいたい。
米国のシャーマン国務副長官の訪中(7月下旬)を歓迎したい。話し合いが必要であり突っ込んだ対話を望みたい。シャーマン氏はアジア政策に大きな影響力を持ち、ホワイトハウスのキャンベル・インド太平洋調整官とも連携している。中国はこの二人をいかに活用するかを考えるべきだ。
米中両国はこだわりを排除し、互いの対立点を認識しながら世界にどう貢献すべきか率直に話し合ってほしい。
■筆者プロフィール:八牧浩行
1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。
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