ソーシャルコマースで後れを取ったアリババ、社区団購「淘宝買菜」と「盒鄰里」で反撃か?

高野悠介    2021年8月6日(金) 16時0分

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アリババがソーシャルコマースに積極的だ。ただしこれまでのように道なき道を切り開くパイオニアとしてではなく、成熟したレッドオーシャン市場へ、後発として望む。勝算はあるのだろうか。

アリババがソーシャルコマース(社交電商)に積極的だ。ただしこれまでのように道なき道を切り開くパイオニアとしてではなく、成熟したレッドオーシャン市場へ、後発として望む。勝算はあるのだろうか。

■アリババのGMVは日本の国家予算以上

アリババは7月末、米国SECと香港証券取引所に財務レポートを提出した。それによれば2021年3月期(2020年4月~2021年3月)の中国国内アクティブユーザー数は8億9100万人、GMV(契約総額)は8兆1190億元(約137兆円)で日本の国家予算を上回る。売り上げ(手数料他)は7172億8900億元(12兆1700億円)で前年比40%増だった。ただし利益は1%の微増にとどまった。これは独禁法違反とされ182億2800億元(3100億円)の罰金をくらう前である。

2016年、当時のジャック・マー会長は、新零售、新制造、新金融、新技術、新エネルギー、の“五新戦略”をうち出した。新零售が最も早く動き出し、2020年9月には、新制造も動き出す。これは「犀牛智造」というC2M(Consumer to Manufacture)の試みで、消費者の需要に合わせた衣料のクイック生産を行う。これまでの衣料品生産の真逆を行く、野心的なプロジェクトだ。しかし、先行した新零售は、最近、行き詰まり感が出ている。

■新零售「盒馬鮮生」

新零售は2016年に始まった。オンラインオフライン融合の新型スーパー「盒馬鮮生」をスタートさせた。現在は小型バージョンの「盒馬mini」を含め全国に228店舗を展開、アプリで注文を受け3キロ以内30分で配送する。主力は生鮮食品である。

「盒馬鮮生」は生鮮食品の即配ネット通販“生鮮電商”を活性化した。従来型スーパーは宅配機能を装備し始めた。アリババは、買収した「大潤発」などのスーパーでも宅配を始めた。ウォルマートやイオンは「京東到家」と提携、宅配を外部委託した。さらに店舗を持たない倉庫型「叮咚買菜」「毎日優鮮」などが勃興した。フードデリバリーや宅配会社も参戦し、大乱戦が展開された。

iiMedeiaによれば、生鮮ネット通販の市場規模は、2016年の622億6000万元から2020年には2638億4000万元(4兆4800億円)に拡大した。2020年のコロナ渦による都市封鎖、移動制限下では、ライフラインを担った。

■社交電商と社区団購

「盒馬鮮生」の成長は、当初の3年間にくらべ、鈍化した。大乱戦の他に、ソーシャルコマース、社交電商(共同購入型ネット通販)の繁栄もその一因だ。

社交電商とは、「人的ネットワークや、ネット上のソーシャルツールを利用した商行為で、新しい電子ビジネスの重要形式」と定義されている。プラットフォームは3つに分類される。

1.WeChat上のグループ…知人友人

2.社区団購…コミュニティー

3.社交拼団方式…全国区

最も重要なのは3を開拓した「拼多多」である。誕生は2015年9月、盒馬鮮生より少し早い。WeChat上で、ユーザーがユーザーを呼ぶ巧みな販売戦略が当たり、急成長した。これが呼び水となり、よりコミュニティーに限定した2の社区団購が、雨後の筍のように出現する。この業態のポイントは宅配スピードではなく、安さである。

■聚劃算とMMC事業部

アリババはすぐに反応した。社交拼団方式では「聚劃算」というアプリを再スタートさせたのである。2011年ごろ淘宝聚劃算はGMV100億元を達成、当時トップクラスの共同購入サイトだった。その後、陽の当たることはなかったが、拼多多の躍進に対抗するため、再び引っ張り出してきた。淘宝網アプリの最も目立つ場所に、ライブコマースの淘宝直播と並んで配置されている。共同購入はもとより、日々の特価商品をアピールする役割だ。

さらに今年に入り「MMC事業部」という部署を立ち上げ、ここで社区団購モデルを統括することにした。まず「淘宝買菜」と「盒鄰里」の2つである。

淘宝買菜は、アリババ出資の「十薈団」、5月に商標登録した自社の「盒馬集市」の淘宝アプリ上での名称である。淘宝トップページの淘宝直播の下に配置されていたが、8月以降、いったん姿を消した。MCC事業部による調整が続いていると思われる。

盒鄰里は、今年7月末、前面に浮上してきた。このモデルは、盒馬鮮生アプリで発注し、ピックアップポイントを指定する。ユーザーは翌日の朝8時以降、ピックアップする。提供する商品は2万点。7月上旬、武漢市の20ポイントで試験営業をスタート、杭州、南京、北京、上海西安等へ拡大していく。

■消耗戦の社区団購

2020年、IT巨頭系が次々に社区団購へ進出した。多多買菜(拼多多)、美団優先(美団)、橙心優選(滴滴出行)、京喜拼拼(京東)などである。独立系は押され始め、十薈団のように、大手の資本注入を受ける企業が増えた。

そして2021年7月に入り「食亭会」「同程生活」の2社が経営破綻した。京喜拼拼は早くも体制を縮小した。生鮮ネット通販を上回る消耗戦、団長(現場リーダー)の引き抜き戦が展開されている。アリババはこれまで、自ら市場を開拓してきたが、ここまで混戦となったレッドオーシャン業界に、後発で参加するのは極めて珍しい。果たして成算はあるのだろうか。アリババは4~6月期139億元の“新興業務投資”を行った。その中心は、社区団購を含む新零售である。2021年、最大の注目点ととなりそうだ。

■筆者プロフィール:高野悠介

1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。

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