中国の産業チェーンの優位性が揺るがないワケ

吉田陽介    2021年8月10日(火) 18時0分

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各国で新型コロナワクチン接種が加速したことによって経済活動の正常化が進み、ポストコロナ時代に産業チェーンの海外移転圧力が再び強まるかはまだ不透明な状態だ。写真は北京のアップルストア。

■経済が好調な中国、警戒すべきは「デカップリング

新型コロナウイルスの感染拡大の影響からいち早く立ち直り、社会経済秩序を回復させた中国は、輸出を伸ばした。中国税関総局が7月13日に発表したデータによると、今年前半の中国の貨物貿易の輸出入総額は前年同期比27.1%増の18兆700億元だった。中国の好調な経済パフォーマンスは「コロナ一抜け」を世界に印象付けた。

産業の海外移転に目を向けると、米中貿易摩擦などで高まった移転圧力はいったん和らいだ。各国で新型コロナワクチン接種が加速したことによって経済活動の正常化が進み、ポストコロナ時代に産業チェーンの海外移転圧力が再び強まるかはまだ不透明な状態だ。

バイデン政権樹立後、米中関係は改善するかという見方もあったが、中国を競争相手とみなし、トランプ政権とほぼ同じスタンスで中国に接している。前政権と違うのは、バイデン政権は「米国一国主義」の立場を取らず、同盟国と連携して中国に圧力をかける道を選んだ。

米国の対中政策は産業チェーンにも影響を与えている。米国、日本、欧州が中国の産業チェーンに頼らず、独自のサプライチェーンを構築する動きにある。このように、米国の「中国包囲網」形成の動きは、「デカップリング」論の助長につながる。

■中国は世界から切り離せない、四つの根拠

中国は世界経済から切り離されてしまうのか。

京東集団副総裁、京東科技集団首席エコノミスト、研究院院長の沈建光氏は7月20日付けの『中国新聞週刊』の記事の中で、「新型コロナウイルス肺炎の流行を経て、中国の産業チェーンの優位性は際立っており、ポストコロナの産業チェーン移転についてあまり懸念する必要はない」と述べ、次の四つの理由をあげている。

一つ目の理由は、中国の貿易において米国が重要な位置にあることは短期的には変わらないということだ。

沈氏によると、米中貿易戦争以降、米国の輸入業者が輸入の過少申告や第三国での製品の積み替えによって対中関税を回避しており、米国企業も貿易摩擦のコストを負担していることが研究で明らかになっており、ニューヨーク連邦準備銀行の最近の研究も、貿易戦争以降の米国の貿易赤字減少は主に企業の関税回避行為によるもので、この行為は2020年に米国に100億ドルの関税損失をもたらしたことを明らかした。つまり、米国の輸入企業にとっては、中国商品の代替品を探すよりも関税回避の方が実行可能だということだ。

二つめの理由は、中国経済は強靭で、良好なインフラを有しており、産業チェーンにおける中国の位置づけは他国に取って代わることはできないということだ。沈氏は記事で、アップルの産業チェーンを例にとって説明した。それによると、近年、同社のOEMがベトナムやインドなどに次々と工場を設立して川下製品の組み立てに従事しているが、中国の川上・川中サプライチェーンにおける地位は低下することなく上昇している。

また記事は、アップルの「サプライヤー責任報告書2021年」を引用し、中国(台湾を除く)は2020年に新たに12社のサプライヤーを獲得し、初めてアップルのトップサプライヤーとなったほか、ベトナムなどの国のサプライヤーにも海外で活躍する中国企業の姿が見られると述べた。

三つ目の理由は、中国市場は大きく、ビジネス環境の改善にともない、外国企業の投資意欲が高まっているということだ。 沈氏によると、2018年から2020年にかけて、中国の外国直接投資(FDI)誘致の伸びは、世界レベルを上回っている。2020年、中国はFDIの流入がプラス成長を遂げた世界で唯一の主要経済国だった。

6月8日に行われた在中国EU商工会議所の調査によると、回答企業のうち、59%が中国での事業拡大を検討していると答えた。中国からの撤退を計画している企業の割合は過去最低の9%だった。

第四に、先進国における産業チェーンの再構築も多くの課題に直面している。記事は、移転のコストの高さ、先進国の要求に焦点を当てて説明している。

まず、移転コストの高さについてだが、バンク・オブ・アメリカ(Bank of America)の研究・試算によると、中国で外国企業の輸出事業を移転するだけでも、1兆米ドルの資本支出が必要になる。ここでは、移転に伴う人件費やサプライチェーン再構築費用は考慮されていないため、移転費用はさらにふくらむ。大規模な政府補助金がなければ、企業の移転意欲を引き出すことはできない。

次に、先進国のさまざまな要求についてだが、米国は「同じ価値観を持つ国」との同盟の構築に向けて動いているのに対し、EUは自らの戦略的独立性とデジタル主権を望むようになり、中国・EU間の経済貿易関係への依存度が高まっている。産業チェーン再構築問題でも、EUは米国と歩調を合わすことはないだろうと記事は予想している。

このことから、中国が内外双方での対応をしっかりしていれば、産業チェーンの海外移転を過度に懸念する必要はないと沈氏は結論づけている。

他の中国人学者も「デカップリング」論に否定的だ。唱新・福井県立大学教授は7月26日付の『日本経済新聞』で、米国のファブレス企業(製造部門を持たずに開発・商品企画とマーケティングに特化し、製造を協力会社に委ねるメーカー)のサプライヤー(部品会社など)の多くは中国企業であること、「中国は10年以降、産業構造の調整と新興産業の育成を推進する積極的な産業政策により産業の技術力と成長力を高め、ハイテク産業や新興産業の発展が目覚ましい」ことから、米国の「中国封じ込めは不発に終わる」としている。

■消費面、生産面での強化策を打ち出す中国

中国経済は安定的に成長しており、国内の個人消費も「リベンジ消費」の要素はあるものの、大きな落ち込みはない。また、中国の消費者のニーズは、「90後(1990年以降に生まれた人)」「00後」を中心に多様化・高度化しており、インスタントラーメンやヨーグルトといった日常的な食品も「ハイエンド化」が進んでいる。中国が今後世界的な消費市場となろう。

ただ、それには国内の所得格差の問題がある。中国共産党は「小康社会の全面的完成」を宣言したが、改革の成果を打ち固めるため、今後も所得分配改革を行うだろう。そうした取り組みが進めば、中国の消費市場の規模はより大きくなろう。

また、生産面についていえば、7月30日の中国共産党中央政治局会議で、「特精特新(専門化・精密化・特徴化・斬新化)の中小企業を発展させる」ことが提起され、これまでの労働集約型の中小企業ではなく、付加価値の高いものを作る中小企業に生まれ変わらせようとしている。

一部の中国人専門家によると、労働集約型産業が全くいらないということではなく、バージョンアップさせる必要性も説いている。

さらに、中国は「双循環」、つまり「国内循環」と「国際循環」を結合させるという発展戦略を打ち出しており、外国からの投資も重視しており、投資環境も整えている。

このことから、中国は消費面や生産面からの改革を断続的に続けており、中国人専門家の言うように、米国の「封じ込め」は不調に終わるだろう。

■筆者プロフィール:吉田陽介

1976年7月1日生まれ。福井県出身。2001年に福井県立大学大学院卒業後、北京に渡り、中国人民大学で中国語を一年学習。2002年から2006年まで同学国際関係学院博士課程で学ぶ。卒業後、日本語教師として北京の大学や語学学校で教鞭をとり、2012年から2019年まで中国共産党の翻訳機関である中央編訳局で党の指導者の著作などの翻訳に従事する。2019年9月より、フリーライターとして活動。主に中国の政治や社会、中国人の習慣などについての評論を発表。代表作に「中国の『代行サービス』仰天事情、ゴミ分別・肥満・彼女追っかけまで代行?」、「中国でも『おひとりさま消費』が過熱、若者が“愛”を信じなくなった理由」などがある。

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