八牧浩行 2021年10月21日(木) 10時0分
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米中関係筋によると、中国が台湾に対して軍事行動に踏み切る可能性は極めて低い。9月の米中首脳電話会談で「現状維持」「一つの中国」などを堅持することが話し合われたという。
安全保障に詳しい米中関係筋が明らかにしたところによると、中国が台湾に対して軍事行動に踏み切る可能性は極めて低い。9月の米中首脳電話会談で「現状維持」「一つの中国」などを堅持することが話し合われたという。
2022年は中国にとって重要なイベントが目白押し。冬季オリンピック・パラリンピック、同年10月に最も重要な中国共産党大会を控えている。さらに、中国にとって経済発展は至上命題。台湾の武力統一は大きな混乱を招きリスクは甚大だ。中国人民解放軍が台湾侵攻に十分な訓練をしていないことも要因となり、台湾侵攻はありえないと同筋は見ている。
一部の米軍関係者は2年以内に中国による台湾侵攻が考えられると警告。元自衛隊制服組トップも「中国は確実に台湾に侵攻する」と警鐘を鳴らしている。しかし中国は軍事行動を控えるというのが、米国や他の同盟国の情報当局の一致した見方という。
◆9月の米中電話会談で歩み寄る
同筋は9月9日に行われたバイデン大統領と習近平国家主席との電話会談に注目。90分に渡った会談で、バイデン大統領が「従来の『現状維持』の立場を堅持する」と言明。これに対し、中国側は「バイデン大統領は米中間の経済面及び安全保障面の競合関係の中で、台湾問題を圧力材料に使う気はない」と受け止めたという。
ホワイトハウスの声明によると、この会談で両首脳は、米中の競争が紛争につながることを回避する必要性について協議。「幅広い戦略的な協議」を行ったという。その上で声明は「両首脳は競争が紛争とならないよう両国の責任について協議した」と表明した。
中国の国営メディアも習近平国家主席とバイデン大統領が電話会談し、両国関係や共通の懸念事項について広範で率直かつ踏み込んだ戦略的協議を行ったと伝えた。米中両国は頻繁に連絡を取り合い、実務レベルの担当者同士の対話を増やすことで合意したという。
習主席は「中米は戦略的な勇気と洞察力、政治的な大胆さを示し、中米関係をできる限り早期に安定的発展の正しい軌道に戻すべきだ」と提唱。さらに同主席は、双方の核心的問題が尊重されれば、気候変動などの分野で外交の突破口が開ける可能性があるとの認識を示し、気候問題は両国間関係の「プラス要因」になり得ると指摘した。
電話会談は貿易問題で譲歩を求める米側が呼びかけた。もともとバイデン氏と習氏は旧知の仲で1週間にわたり中国国内を一緒に旅行したこともあり、年内の首脳会談開催で合意している。
◆「一つの中国」確認
米中間では、貿易、ハイテク分野、人道問題(香港、ウイグル)と安全保障(サイバーセキュリティ、南シナ海)の面での競合、対立は激しさを増しているものの、バイデン大統領が台湾の独立を支援せず「一つの中国」を確認したことは、習国家主席にとっては歓迎すべきことである。米経済界から対中貿易拡大を求められているバイデン氏との間で妥協が成立したと同関係筋は見ている。
中国は、現在、経済、政治両面で調整の必要な時期にあり、まず台湾侵攻よりも国内の安定を取り戻すことが必要な時期でもある。武力行使により経済が大混乱に陥ることを恐れている。
中国はバイデン大統領が主催して12月9、10の両日に開かれる、民主主義国の指導者を集めた「民主主義サミット」(オンライン形式)を注視している。権威主義体制とみなす中国やロシアに対抗する狙いがあるとされる。ここで台湾がどのようにとりあげられるか、そこで米国のこの問題についての立場に変化があるかどうか。それによって、中国の台湾政策も影響を受けることになろう。
米ホワイトハウスの国家安全保障会議(NSC)でアジア政策を統括するキャンベル・インド太平洋調整官は今年5月、米国が台湾防衛の意思を明確にすれば「重大な不都合」が生じると述べ、従来の「戦略的曖昧さ」を維持すべきだと主張した。キャンベル氏は米中双方には台湾問題で現状を維持することがそれぞれの利益にかなっているという認識があると指摘。「(従来の方針を転換して)戦略的鮮明性を打ち出せば、幾つかの重大な不都合が生じる」と警告している。
こうした中、台湾をめぐる日本の対応も問われる。岡田充・共同通信客員論説委員はこのほど「虚構の『台湾有事』―日米の狙いはどこに」と題して講演。日本政府と一部メディアが「台湾有事が切迫している」と危機感を煽り続けていると指摘。日米安保条約を「対中同盟」に変質させた日米両国が「台湾有事は日本有事」というキャンペーンを進める背景には、(1)自衛隊の南西シフトとミサイル配備を加速し、日本を対中抑止の最前線にする(2)台湾問題に対する中国の「レッドライン」(容認できない一線)を探る―狙いが透けて見える、と喝破している。
その上で、中国の脅威を煽って抑止を強調するだけでは、軍拡競争を招く「安保のジレンマ」に陥るだけだと警告。「安全保障とは、共通の敵を作って包囲することではない」「アジアと世界の経済で圧倒的な市場と資金力をもつ中国の包囲など不可能である」とし、「外交努力を重ね、中国と共存し地域の安定を確立する道を探ることこそ、衰退が目立つ日本の将来にとって不可欠な仕事だ」と強調した。
◆外交努力重ね地域の安定を
中国の脅威を煽って抑止を強調するだけでは、軍拡競争を招く「安保のジレンマ」に陥ってしまう。安全保障とは、共通の敵を作って包囲することではない。アジアと世界の経済で圧倒的な市場と資金力をもつ中国の包囲など不可能だ。外交努力を重ね、中国と共存し地域の安定を確立する道を探ることこそ、衰退が目立つ日本の将来にとって不可欠である。
■筆者プロフィール:八牧浩行
1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。
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