子供とは同居しない!?中国の高齢者

吉田陽介    2021年11月5日(金) 9時20分

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中国では小家族化・核家族化につれ、高齢者が若者と同居する割合が低下している。

「いい仕事を見つけて、両親と一緒に暮らしたい」

筆者が10数年間に北京のとある大学で教えていた時に、授業で聞いた学生の夢だ。それを聞いて、中国の若者は親孝行だなと思った。

筆者の中国人の友人には、家を買って両親と同居する人は少なくない。中国は共働きなので、家事や子育てをする時間がない。もちろん家事代行サービスがどんどん出てきているが、信用できるサービスは誰でも利用できるわけではない。利用できない人は、自分のキャリアを諦めるか、両親に子育ての手伝いを頼むしかない。親も、孫の面倒を見ることは折り込み済みで、子供が生まれたら、積極的に手伝いをする。そのため、中国の高齢者にとって息子(娘)夫婦と同居することが幸せなのかと筆者は考えていた。

■「体はまだ大丈夫」若者との同居を望まない高齢者

だが、必ずしもそうとは言えない。

10月18日付の『第一財経』(WeChat版)は、貝壳研究院が10月14日に発表した「2021社区居養老現状与未来羽趨勢報告」を紹介した。それによると、小家族化・核家族化につれ、高齢者が若者と同居する割合が低下しており、65.5%の高齢者が1人で暮らすか、妻と同居することを選択しており、子供と同居している高齢者は26.8%にとどまり、80歳以上の高齢者のうち、高齢者が独立して住む割合は48%に達している。

報告書によると、1人で暮らすか、妻と同居することを選択する高齢者の典型的な理由としては、「自身の体が健康」「自由が好き」が挙げられる。そのような選択ができるのは、生活環境や医療体制が数十年前に比べ改善され高齢者向けサービスも充実してきている、高齢者はバスなどの公共交通機関も無料で乗れ、観光地の入場料も割引があるといったように、高齢者への優遇策がある。

改革開放前、中国は貧しかったため、多くの子供を産むことが幸せだといわれた。同じことは発展途上国でも見られる。途上国は社会保障体制が整備されておらず、自分の老後は国よりも、子供に面倒を見てもらう方が確実だ。中国はもちろん、伝統的な儒教の概念の影響もあって、いい仕事について、大きな家を買って、両親と一緒に住むことは大きな幸せだった。

だが今は、「第二の人生」を楽しむ高齢者も出てきている。今はコロナ禍の影響もあって慎重になっている人も少なくないが、旅行したりして過ごす人もいる。年輩の中国人の知人は、国内旅行だけでなく、海外旅行にも行っている。

中国人は「仕事は生活の一部」と考えており、定年後は自由な時間を楽しむという気持ちが強い。

一方、日本では定年が延長され、年金だけでは生活がなかなかできないという理由もあって、老後も働く人も珍しくない。中国もベテランのスキルや知識を若い世代に伝えるために、再雇用をする学校や国家機関があるが、誰でも再雇用されるわけではない。また、年老いた親を働かせるのは、親不幸という考え方があり、高齢者が現役世代の人と一緒に働くのはまだ多数派ではない。ただ、団地のコミュニティーのボランティアには高齢者が少なくない。

■「えっ、こんなに早く起きるの?」難しい高齢者との同居

ただ、若者目線で見れば、高齢者と若い世代は生活リズムが違うので、同居は難しい。

筆者も中国人妻の両親と同居したことがあるが、生活リズムの違いに初めは戸惑った。筆者は夜遅くまで仕事して、授業がない日は遅めに起きる習慣だが、妻の両親は朝の5時には起きて、せっせと家事をこなしていた。

「あら、まだ起きてないの」と嫌味を言われたわけではないが、「早く起きないと悪い」という無言のプレッシャーがあった。相手は相手で気を使っているのだとは思うが、ある種の息苦しさを感じた。

子供ができると、生活のリズムの不一致ではなく、子育ての方針の違いで親とぶつかることがある。

祖父母が子供の面倒を見ると、責任がないためか、甘やかしがちになる。子供が道を歩いている時に転んだ時、若い親は「なにやってるんだ。気をつけなさい」と注意するが、祖父母は「あら、転んじゃったね。道が悪いんだよね」と転んだのを道のせいにする。このように育てられた子供が大きくなるとどうなるか、想像がつく。

若い親は甘やかさないよう祖父母に言ったら、たいていは「親なんだから、そんなことは大目に見てあげなさい。あんたは親らしくない」と逆に叱られる。日本のホームドラマ「渡る世間は鬼ばかり」のようなやり取りが繰り広げられる。

親との同居はお互いに気を使うため、かなりのパワーが要るのは日本も中国も同じだと思う。

■一定の距離感が必要なのは「万国共通」

また、高齢者が子供と別居するのは遠く離れることを意味しているのではないと記事は指摘する。前出の調査は、「子供と同居していない高齢者のうち、21.3%が同じコミュニティーに、60%が同じ都市に住んでおり、高齢者とその子供が異なる都市に住んでいる割合は2割に満たなかった」と述べている。高齢者も、自分の身に何かあったら心細いし、かといって、同居すると何かと面倒なことも起こるので、「スープの冷めない距離」のところに住む方がいいと考えているのだろう。

若者も、親が近くにいると、子供の面倒も頼みやすいし、仕事が忙しい時、家事を手伝ってもらえるので、同居よりも受け入れやすい。

一定の距離感が必要というのは、どこの国でも同じなようだ。

■筆者プロフィール:吉田陽介

1976年7月1日生まれ。福井県出身。2001年に福井県立大学大学院卒業後、北京に渡り、中国人民大学で中国語を一年学習。2002年から2006年まで同学国際関係学院博士課程で学ぶ。卒業後、日本語教師として北京の大学や語学学校で教鞭をとり、2012年から2019年まで中国共産党の翻訳機関である中央編訳局で党の指導者の著作などの翻訳に従事する。2019年9月より、フリーライターとして活動。主に中国の政治や社会、中国人の習慣などについての評論を発表。代表作に「中国の『代行サービス』仰天事情、ゴミ分別・肥満・彼女追っかけまで代行?」、「中国でも『おひとりさま消費』が過熱、若者が“愛”を信じなくなった理由」などがある。

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