八牧浩行 2021年11月15日(月) 6時30分
拡大
15カ国が加盟するRCEPが22年1月に発効する。世界最大の自由貿易圏協定で、日本が中国、韓国との間で締結する初めての協定。低潜在成長率にあえぐ日本にとって貴重な「追い風」になると期待されている。
日中韓とオーストラリア、ニュージーランド、東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国の合計15カ国が加盟する地域的包括的経済連携(RCEP)協定が22年1月に発効する。世界最大の多国間自由貿易圏協定(FTA)で、日本が中国、韓国との間で締結する初めての協定となる。関税削減や統一ルールにより自由貿易を推進する枠組みで、低潜在成長率にあえぐ日本にとって貴重な「追い風」になると期待されている。
◆日本のGDP、2.7%押し上げ効果
RCEPは、域内の人口が約22億7千万人(19年)、国内総生産(GDP)が約25兆8千億ドル(19年)といずれも世界の3割超を占める。米国が抜けた環太平洋経済連携協定(TPP)を上回る巨大な自由貿易圏協定となり、日本企業の進出や輸出入の促進など大きな効果が見込める。日本政府は協定発効に伴う関税撤廃・削減などで部品や素材の輸出が増え、日本のGDPを約2.7%押し上げる効果があると試算する。
全体として工業製品の91%の品目で関税を即時または段階的に撤廃する。TPPの99%より低い水準だが、中国向けは無税品目の割合が8%から86%に、韓国向けは19%から92%と大幅に拡大する。
日本から輸出する自動車部品などの工業製品にかかる関税は来年1月から段階的に下がり、最終的には品目ベースで92%が撤廃される。中国向けは自動車のエンジン部品のほとんどで将来的に撤廃。韓国向けは自動車用電子部品やゴルフクラブなどで撤廃される。
◆輸出入とも関税下落へ
一方で日本が輸入する商品も徐々に関税が下がる。ただ、農林水産品に課す関税の撤廃率は49~61%でTPPの82%より大幅に低く、国内農業の保護を図る。コメや麦といった農産物の重要5項目は関税の削減、撤廃の対象から外した。投資ルールでは、政府が進出企業に技術移転を要求することを禁じ、企業の自由な経済活動を目指している。
松野博一官房長官は「世界の成長センターであるこの地域とのつながりがこれまで以上に強固になり、日本と地域の経済成長に寄与する」と説明。RCEP協定を通じて「ルールに基づく経済秩序の形成や参加国のルール順守に主導的役割を果たしていく」と語っている。
中国は9月、環太平洋経済連携協定(TPP)への加盟も正式に申請した。中国がRCEPよりハイレベルなTPPに加盟するためには、一層の大胆改革や開放が不可避だ。中国政府はTPP加盟申請の目的として(1)持続的な改革の深化と開放拡大(2)自由貿易に対する支持および地域の経済一体化や貿易投資の自由化・円滑化の積極的推進(3)世界経済の回復・成長への貢献―などを表明している。
◆中国、TPP加盟で「改革」断行を
RCEPでのルールを中国がしっかりと履行できるかどうかが、TPP加盟交渉に入るための試金石にもなる。TPP加盟のハードルは高いが、世界最大の市場を有する中国の加盟が実現すれば、貿易立国の日本はじめ加盟国にとってメリットは多大。RCEPと併せ、自由貿易圏はさらに拡大する。
昨年11月に習近平国家主席がTPP加盟の意向を表明してから、中国は加盟国への地ならしを始め、既にニュージーランド、シンガポールをはじめとする加盟国との話し合いで進展があったという。中国と領土問題を抱えるベトナムも、経済分野では対立を望んでいないとされる。コロナ禍で経済が打撃をうける中、各国とも成長の種を希求している。
TPPを離脱した米国のアジアでの存在感が低下する中、中国はTPP加盟を通じて経済圏の拡大とアジア太平洋地域での影響力増大を狙う。TPPを外圧として国内改革のテコに使いながら、米国抜きのアジア経済圏の枠組みを主導する思惑もある。
一方で、TPPの高い自由化の水準を中国がクリアできるか、懐疑的な見方も根強い。TPP協定では、国有企業と他の加盟国の企業を差別してはならないが、中国は国有企業に補助金を投じるなど様々な形で優遇。政治と経済が密接不可分の政治体制のもとで、国有企業の改革も容易ではないようだ。他にもTPPが求める貿易・投資ルールとの間にはまだ大きな開きがある。
ただ中国が旧来の「体質」から脱皮し、国際ルールに従えば、世界経済の発展に向けメリットは多大。日本にとって最大の貿易投資国・中国の「脱皮」と「さらなる自由化」は、人口減少と低成長に直面する日本の経済界にとって歓迎すべきことである。
すべての既存ルールの順守・履行、最も高い水準の市場アクセスのオファー供与を固守するという条件の下でTPP加盟国が増えるのは日本にとって望ましい。他のメンバー国とともに、加盟手続きや交渉を通じ、中国政府に経済改革と政策の透明化を働きかけていくべきだ。
◆米国にTPP「復帰」を促せ
TPPにはもともと中国を牽制し、日米でアジアの通商ルールづくりを主導する狙いがあった。ところが、米国がトランプ前政権時代に離脱。現在のバイデン政権にとっても、TPPへの復帰反対論が多い米国世論の中で「復帰」を打ち出すのは難しく、身動きが取れない状況にある。世界の成長センターであるアジア太平洋地域における米国の存在感のさらなる低下に繋がるのは必至。世界の経済発展に向け、米国の早期の「復帰」を促したい。
■筆者プロフィール:八牧浩行
1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。
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