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中国の日本語学校における日本人教師の処世術

大串 富史    2021年11月23日(火) 15時30分

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中国の日本語学校における日本人教師の処世術とは一体何か。写真は青島市。

「今の世のありさまは変わろうとしている」とはよく言ったものだ。これは僕自身の半世紀余りの個人的経験からしても真実だが、こと日中関係に関し、世の中が全く様変わりしてしまったとつくづく思う。

たとえば前の記事にも書いたのだが、10年前であれば日本の100円ショップの「日本のお土産」が中国人に喜ばれたが、今では逆に「メイソウ」が日本はもとより世界各地で展開中だったりする。

その「日本のお土産」を日本への一時帰国の折に買い求め中国の友人に持ち帰っていた日本の某友人が「とにかく定期的に日本に帰って日本の寿司を食べないことには気が済まない」と言っていたのが、つい昨日のことのようだ。今では僕らが住む中国・青島の片田舎でさえ相応のホテル(3つ星程度)に行けば、ランチバイキングで日本の回転寿司レベル以上の「握り寿司」を手軽に食べることができる。

では日中関係はどうか。10年前であれば切羽詰まった日本の中小企業に対し中国進出や越境ECで御社の活路を開きませんか?みたいな話だったのが、今では中国企業が直々に日本で求人広告を打ち、日本語教師を募集している。

僕が思うに、これはまるで「黒船」が「来航」したかのようだ。つまり、中国の一般企業で日本人が普通に働けるような時代が到来した。

ところでこれに「渡りに船」のごとく乗り込むのは比較的容易かもしれないものの、実を言えばこの「船」にとどまり続けるのは、ある意味それほど容易ではない。

なぜ容易でないのか。なぜならその「船」はぶっちゃけ中国のそれであって、日本の船ではないからだ。結果として自身のサバイバル値が実際どれほどのものかを身をもって測ることになる。

最近話題の「イカゲーム」ほどでは全然ないのだが、それでも日々企業ウィーチャット上で同僚の先生方の苦情やうめきや慟哭ならぬ「障害報告」を眺めていて、皆さん容易ではないとつくづく思う。

これは一つには最近日本でも報道された「中国教育塾規制」と若干関係がある。詳しくは書けないが、簡単に言えばグレートファイアーウォールプラスアルファなご時世となったため、日本を含め海外の同僚の先生方の中国国内でのオンラインレッスンが容易でない。

とはいえこの程度のハードルは「上に政策あれば下に対策あり」で済むことなので、パソコンやネットワークに関わる相応のサバイバル値があればクリア可能だ。とはいえ「黒船」内部での「就労」に伴う問題は、「船内」の誰も避けては通れない。

最初にお断りしておきたいのだが、この「黒船」は某業界の人月商売な「蟹工船」では決してない。だが率直、日本人として中国企業に雇われ中国人学生に日本語を教えるのだから、その点はわきまえなければなるまい。

では一体、何をわきまえるのか。中国の日本語学校における日本人教師の処世術とは一体何か。

第一に、日本人である日本語教師は、中国人学生の「親」となり親身になって発音を直してあげる必要がある。このハードルは自ら経験すれば分かるがけっこう高く、日本人教師の側に不断の努力とエネルギーが常に求められる。これを面倒くさがったり嫌がったりするようではこの船にとどまれない。

というのも日本人である日本語教師の人材としての価値は、日本語ネイティブという点にあるからだ。そして発音を容易には直せない日本語学習者上位20%以下のごくごく普通の中国人学生にとってほぼ唯一かつ最も確実な発音矯正法とは、日本語ネイティブからのダメ出しと、日本語ネイティブ共に行う発音練習にほかならない。

第二に、日本人である日本語教師は、中国人学生の「友」となり相手に受け入れてもらう必要がある。それでまず相手を自分の「友だち」に加えるわけだが、その上で相手から「朋友」として迎え入れてもらう必要がある。

では中国人学生の「朋友」とは何か。たとえば今中国で一番ホットで一般的な話題は両岸問題であったりするから「先生はどう思いますか?」みたいなことを遅かれ早かれ尋ねられよう。返答次第では「朋友」どころか、だったら下船してください、となりかねない。

そして第三に、日本人である日本語教師は、「同僚」の中国人教師と連携を深め中国企業における良き社員となる必要がある。既に記事にも書いたが、なにより「中国企業での仕事には大きな変化がつきもの」であることをわきまえる必要がある。日本まで来た「黒船」ではあるが、荒海のただ中で皆で一緒にオールで漕ぐかのような連携がたびたび求められる。

「同僚」の中国人教師との連携について言えば、僕が思うに、先にも挙げた中国人学生の発音の変なクセの矯正や他の諸々は、僕が敬愛し信頼する中国人教師の面々の助けなしには決して成し遂げられないと思うし、それ以前に彼らの助けなしには日本語オンリーでの日本語学習そのものを始めることができない。

それはどういうことか。海外でハーフの子どもを育てる日本人の親の皆さんならお分かりだと思うが、ひらがなやカタカナをすらすら読めたり五十音をそらで言ったりという、日本で生まれ日本人に囲まれて日本語を勉強する日本の子どもたちにとってごくごく当たり前のことが、ハーフの子どもたちには相応のハードルなのである。まして長じてから日本語を勉強する中国人学生の場合、日本人教師に加え中国人教師との3人4脚の連携が一番奏功する。なぜなら彼ら彼女らは中国人として、自ら日本語を学習したノウハウを学生とシェアできるからだ。

それで最初に挙げたパソコンやネットワークに関わる相応のスキルに加え、「親」となって「発音」を直してあげ、「友」となって相手に受け入れてもらい、「同僚」の中国人教師と連携を深めるなら、この「黒船」から振り落とされることはまずない。あとは中国語で言うところの「冲鴨ー」(日本語にあえて訳すと「行くぞー」または「やったれー」)ということで、「オールで漕ぎ」続ければそれで済む(はずだ)。

日本でのここ半世紀の変化もハンパないが、それをはるかに上回る変化が中国で生じ、結果として「黒船」の「来航」となった。日本人として中国企業に雇われ中国人学生に日本語を教える機会に恵まれた皆さんに、上述の処世術が幾許かでも役立てばと願ってやまない。

これから10年先がどうなのかは神様以外誰も知らないが、僕自身の日本人としての中国現地生活12年の経験から言わせてもらうなら、現時点での中国企業での就労には明らかに一定のメリットがある。いや、僕がまだ振り落とされずに済んでいるんですから、まして皆さんだったら絶対大丈夫(なはずです)!

■筆者プロフィール:大串 富史

本業はITなんでも屋なフリーライター。各種メディアでゴーストライターをするかたわら、中国・北京に8年間、中国・青島に3年間滞在。中国人の妻の助けと支えのもと新HSK6級を取得後は、共にネット留学を旨とする「長城中国語」にて中国語また日本語を教えつつ日中中日翻訳にもたずさわる。中国・中国人・中国語学習・中国ビジネスの真相を日本に紹介するコラムを執筆中。

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