Record China 2021年11月23日(火) 18時20分
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コロナ禍では人の移動、特に国境を越えての移動が大きな影響を受けた。そこで日中の往来に注目して、中国から日本に長らく戻ってこられなかった人に話を聞いた。写真は東京都・渋谷の街頭。
コロナ禍では人の移動、特に国境を越えての移動が大きな影響を受けた。そこで日中の往来に注目して、中国から日本に長らく戻ってこられなかった人に話を聞いた。彼らは日本の変化をどう感じ、日中両国のコロナ対策の違いをどう思っているのだろうか。
■日本を長期離れたことで、自宅や自家用車が“ピンチ”に直面
まず、ソフトウェア関連会社でマーケティングの業務に従事している40代の中国人男性である宋さんに話を聞いた。宋さんさんは中国にいったん戻った2020年1月から、ほぼ1年間に渡って日本に来ることが出来なかった。宋さんの場合、生活の拠点を日本に移していたので、最も困ったのは自宅や所有している車についてだった。電気や水道、ガスなどは、あまりにも不在期間が長い場合、きちんと対策をしておかないと事故が発生しかねない。それに車も含めて、さまざまな手続きも必要だ。宋さんの場合、幸いにして友人が管理してくれることになったので、「最悪の事態」だけは避けられたという。
中国では日本の状況をテレビで見るなどで、相当に深刻と思っていた。しかし実際に日本に戻って、さほど大きな変化は感じられなかった。すでに飲食店も夜の営業を再開していたことなどが関係しているのかもしれないが、日本は「思ったよりも元気だ」と感じたという。
■中国の厳しすぎる対策は、庶民のことを考えているのか
宋さんは日中のコロナ対策の違いについて、中国のやり方は「極端に厳しい」に感じるという。効果があることは事実だが、庶民の生活があまりにも大きな影響を受ける。逆に日本の方法は「自由度の高さ」を感じる。
宋さんの場合、日中の対策について一長一短があることは認めるが、日本で2020年に実施されたGo To キャンペーンには疑問を感じている。事態をあまりにも楽観視していたのではないかと思えるそうだ。「もっと慎重になっていれば、その後の感染者急増は避けられたかも」と、思ってしまうという。
なお、宋さん以外にも、中国の感染症対策は「極端すぎるのでは」と話す中国人がいた。中国が20年には徹底した対策で感染拡大を押さえ込んだ際には、「中国社会に安全と安心をしっかり取り戻した」と高く評価したが、最近になり、地域で感染者が1人出ただけで、有無を言わさず地域全体を封鎖してしまう方法に、「庶民の生活をあまりにも軽視している」と感じてしまうという。
例えば南京出身の劉さんによると、市内のマンションに住む両親が、一時期体調を崩してしまった。しかし近隣で感染者が発生したので、マンション群全体が封鎖されてしまっていた。本来ならばさほど遠くない場所に住む姉が駆けつけて、世話をしたり場合によっては入院させたはずだが、マンション内への立ち入りは認められなかった。劉さんは「もし重病だったら、どうなっていたのでしょうか」と語った。
中国の場合、重要政策については各地の行政担当者が、上からの要求を満たすことが強く求められる。地方の行政官が自分の担当地域で感染者を大量発生させたりしたら、責任を厳しく追及されると考えねばならない。劉さんによれば、中国では地方の行政官などが自分の保身のためだけに極度に厳しい対策を打ち出しているようにも思えるという。
■勤務先は業務が停止、だが不安に思っても仕方ない
30代の中国人女性である王さんは、日本に住んで16年で、旅行代理店に勤めている。会社が業務停止状態で、中国にいる家族も心配していたこともあり、21年7月に中国に戻った。日本に再びやってきたのは11月17日だ。
王さんの場合には、日本に戻ってきた際に、かなりの衝撃を受けた。空港にいる人は少なく、バスも減便していた。「日本に16年いるけれども、こんなのは初めて」と感じたという。
中国人観光客がいまだに日本に来られないので、務めている会社は不動産や遠隔医療などの、新たな分野にチャレンジしようとしている。そして王さんは、将来についてそれほど不安を感じているわけではない。自分の会社だけが苦境にあるわけではない。どこも苦しい、世界中が苦しいからだ。王さんは「とにかく、状況がよくなることを待つしかない」と考えている。
王さん以外にも、「不安に思っても仕方ない」と話す中国人は珍しくない。世界全体が悪影響を受けている以上、感情面で動揺しても意味がなく、「状況が好転すれば絶対に取り戻そう」という、いわゆるプラス思考が強いのかもしれない。
なお王さんは、日本では中国製ワクチンの接種後に入国する場合でも、未接種者と同様の隔離生活を求められることには疑問を感じている。世界保健機関(WHO)も認めるワクチンなのに日本ではなぜ認められないのか、理解に苦しむという。
■コロナなどによる米国情勢の変化で進路を変えた中国人
コロナの世界的流行で、自分の進路が大きく変わったという若い中国人もいた。Lさんはもともと米国に留学する考えで、そのためのコースがある外国語高校に通っていた。しかしトランプ政権下で米中関係が悪化したことで、両親がとても心配した。
米国ではトランプ前大統領が、新型コロナウイルスを「中国ウイルス」などと呼んだこともあり、アジア系住民への感情が悪くなり、暴力襲撃事件もしばしば発生した。このような事件は、中国でも大きく報道された。
Lさんは結局、日本に留学することにした。「日本ならば大丈夫だろう」と、親も認めてくれたという。
■日本の飲食店の対策徹底は驚き、ただ「同調圧力」の強さと裏腹の関係か
遼寧省の東港という小さな街で、DTP(印刷物のデジタル版組み)を業務とする会社を経営する小出裕明さんは、以前ならば日本と中国をしばしば往復していた。しかし今年1月下旬に中国に渡ってからは中国に約9カ月も滞在し、再び日本に戻ったのは10月29日だった。
小出さんも、中国にいた一時期は日本で感染者数が爆発的に増えたことをとても心配していた。しかし、ワクチン接種が進むにつれ患者数がどんどん減ってきたので、最初は疑問視していた「ワクチン頼み」の対策についても、今では正しい判断だったと思っている。
小出さんの場合、日本に帰ってきて、飲食店での着席する間隔を空けたり飛沫(ひまつ)防止ついたてなどの感染症対策の徹底ぶりや、どこに行っても手指消毒用アルコールが置かれていることに驚いた。「目的が定まると一人一人が自主的に同じ行動を取る」という国民性が鮮明に出ていると感じたという。ただ、その国民性は逆に言えば、同調圧力が強いことも意味していると考えている。
■日本の対策は「性善説」が土台、だから抜け穴も多い
入国後の行動制限について、日本では自宅隔離14日間(欧米製ワクチン接種者3日間)が求められる。その期間中は携帯アプリを利用して、ランダムな時間帯に求められる位置情報の送信に応じたり、AIによるビデオ電話に毎日応じねばならない。ビデオ電話では、顔認証と背景認定で、「本人が自宅にいるかどうか」が判断されるという。
中国の場合には地方ごとに基準が違うが、強制ホテル隔離14日間+自宅隔離7日間(外出不可)+健康観察14日間が標準的という。健康観察期間になれば、居住地域内であるならば生活のために必要な外出はOKだが、毎日の体温報告義務がある。
小出さんによると、日本での隔離対策は「性善説」の上に構築されており、抜け道は多い。例えば、空港から自宅までの移動では公共交通機関の利用が禁止されているが、誰も監視していない。自宅待機中のスマホによる連絡でも、電源を切ってしまえばOK。近隣での買い物などの最低限の生活活動も認められている。そもそも、自宅で家族と同居していてもよいので、まず家族が感染して、その家族が外出すれば、隔離の意味はなくなる。
中国は「ゼロコロナ政策」を実施している。また、瀋陽では帰国後14日間の隔離を終了した後の中国人が、21日後に発症したことがあった。すると隔離期間をいきなり21日間に延長した。朝令暮改ともいえるが、逆に「即断即決の行動力には感心します」という。
■日本のやり方は経済にも有効、ただしまだ見えぬリスクも
小出さんによると、中国では地域にコロナが発生していないかぎり、以前と同じ生活もできる。内需もほぼ回復した。ただし、「ゼロコロナ」を続ける限り“鎖国”を続けるしかなく、全世界がゼロコロナになるとは考えにくい。また、中国でも変異株による感染が散発しており、そのたびに地域が封鎖される。そのため、地域経済は極端に疲弊し、しかも地域封鎖のリスクがあるために、企業は大規模投資に二の足を踏む。
日本の場合、効果が高いワクチンの使用を前提にしたウィズ・コロナの対策と考えてよい。小出さんは、「日本の方が状況に合わせて段階的な対策が取りやすく、極端な強制措置はないので、企業としても先行投資をしやすくなる」と分析する。ただし、欧米のワクチンに依存しているので、ワクチンが効かない変異株などが出現した場合に、「対策が総崩れになる可能性も否定はできない」と、心配しているという。(取材/佐藤大輔・その他、構成/鈴木秀明)
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